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残党狩り1

 アッシュの説明によれば、この村の外れに森の魔女と呼ばれていた魔導師が住んでいたとのことだ。

 宮廷魔術師に匹敵する程の実力の持ち主でありながら政治の中枢に立つことを嫌い、この村の更に外れの森の中にある小さな家に籠もって悠々自適な研究の日々を送っていた。

 村人に病人や怪我人が出たとあれば薬師としても村人のために尽力し、子供達には読み書きを教え、将来の選択肢を広げる手伝いをする。

 時には村人と共に土にまみれながら畑仕事に勤しみ、子供達を連れて四季の野山を巡り共に笑う。

 そんな彼女を村人達は尊敬の念を込めて森の魔女と呼んでいた。


「確かに、高位の魔導師が本気を出せば、いえ、その力を暴走させたとすれば、これほどの被害が出ることもあり得ます」


 ミュラーはフェイの言葉に頷くも、やはり釈然としない。


「それほどの魔導師が女子供のいる村を焼き払うとは考えられん。だとすると・・・思いつく先は胸クソの悪い想像しかない」


 村の跡地を見渡しながら呟くミュラーにフェイも無言で同意する。


「この程度の村を襲うとすれば、10人やそこらでは足りない。30、いやそれ以上か」

「はい」

「野盗だとして、そんなに大規模な集団がいるとは考え辛いな。小規模な集団が徒党を組んだか」

「そのように思います。大規模な集団ならばその存在を隠しきれませんが、5から10の小規模な野盗だと、なかなか明るみには出ないでしょう。そんな集団が領内の治安が安定していないことをいいことに協力して大掛かりな襲撃を仕掛けたのだと・・・」


 おそらくは、村が野盗の集団に襲撃され、それを目の当たりにして逆上した魔術師の魔力が暴走したのだろう。

 

「それでも、我を見失ったからといって、村人諸共焼くとは思えん。高位の魔術師ならば野盗如きにただではやられないだろうし、少なくとも村人の一部でも逃がすことは出来た筈だ。やはり、何らかの理由で魔術師が村を離れている隙に村が根絶やしにされたということか」


 考えれば考えるほど胸クソが悪くなる。

 その時、ミュラーの背後で周囲を警戒していたマデリアがミュラーに耳打ちしてきた。


「村の北東の外れ、木の陰でこちらの様子を窺っている者がいます。3人です。旅人等ではありません」


 ミュラーがさり気なくマデリアの説明した方向を確認すれば、確かにいる。

 おそらくは野盗の生き残りで、ミュラー達の動きを見ているのだろう。

 だとすればその情報を持ち帰るべき場所がある筈だ。


 ミュラーは明後日の方向を見つつクランとアラニス、マデリアに命令を伝える。


「様子を窺っている奴1名を捕らえろ。もう1名は逃がして泳がせる。最後の1名は捕らえても、逃がしても、始末しても構わない。マデリアは逃げた奴が何処に向かうか確認してくれ」

「「了解!」」

「おまかせください」


 クランとアラニスはそれぞれ別の方向に向かって歩き出す。

 マデリアはギリギリまでミュラーに付き従っているふりをして時を待つ。


 暫くして、大きく迂回して男達の背後に回り込んだクランとアラニスが2人の男に飛び掛かった。


「そこで何をしているっ!」

 

 あえて大声で一喝するクラン。

 わざと逃がして泳がせる男に隙を見せるためだ。

 それでも狙いを定めた男には反撃の暇も与えることなく、一瞬にして制圧して拘束する。


 一方のアラニスはクランに比べて半歩出遅れたこともあり、対象から思わぬ反撃を受けた。

 それでも帝国軍人として幾つもの戦場を経験しているアラニスは反撃を冷静に去なして決定的な一撃を加える。

 咄嗟の反撃に対処したため、捕らえることは出来なかったがそれは仕方のないことであり、ミュラーの命令どおりだから結果としては上出来だ。

 その間に、クラン達の隙を見てミュラーの思惑通りにその場から最後の1人が逃げ出す。 

 その時には既にマデリアがミュラーの傍らから姿を消しており、森の中を音もなく駆け抜けて、逃げる男の後を追った。


 クランに捕らえられた男は拘束されてミュラーの前に引き立てられる。


「村を襲った盗賊の一味だな?」 


 低く問いかけるミュラーに男は震え上がった。


「ちっ、違うっ!俺は村を襲ったりはしていない」

 

 必死で訴える男を射貫くような冷たい視線で見下ろすミュラー。


「そんなことは分かっている。村を襲った連中はすべからく灰になっている」

「だったら・・」

「私が聞きたいのは貴様が村を襲った連中とは別の役割を持った仲間なのか?ということだ。直接的に村を襲っていなくても、同じ一味なら共犯であり、同罪だぞ」

「・・・」


 口を閉ざす男にミュラーは畳みかける。


「無駄に時間を消費するなよ。謳わないならば貴様には用はない。かといって放免するわけにもいかないからな、拘束したままここに放置するぞ。我々が立ち去れば魔物か、狼か直ぐに集まってくるだろうよ」

「ちょっと待ってくれ!俺を魔物の餌にするってのかよ!」

「そんなつもりは無いが、必然的にそうなるだろうな。それが嫌なら直ぐに決断しろ、全てを認めて残党の潜む場所を我々に教える他に貴様が生き延びる道はないぞ」


 男の心が折れた。

 元々地道に苦労することから逃げて野盗に身をやつしたのだから強い精神など持ち合わせている筈もない。

 

 男の説明により、残党は2つのグループで、マデリアが追った男が逃げる先に5人程、村から北に向かった森の奥に10人弱の残党がそれぞれ潜んでいることが判明した。

 村の襲撃に失敗して盗賊として成り立たなくなり、逃げ出す算段をしていたところに衛士隊やミュラー達が来たので無闇に動くことを避けてその動静を窺っていたということだ。


「残党は2組15人程度だ。増援を求める暇はないし、その必要もない。我々だけでケリを付けるぞ」


 ミュラーはクラン達と衛士隊に命令を下した。

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