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最後の戦い

 ミュラーは剣を構えたままプリシラと間合いを取る。

 魔王であるプリシラに対する畏怖による後退りではない。

 重心を前にし、相手がどう動いてもその先の先を取るための間合いだ。


「フェイ、あのサイクロプスは戦いに加わる様子はないが、プリシラとの戦いに集中したい」


 プリシラの背後には彼女に付き従い、守り続けてきたサイクロプスが控えている。


「あのサイクロプスの個体は明らかに並のサイクロプスとは違います。倒す、となると私の力の大半をあれに向けなければなりませんが、主様の戦いに介入させないようにするだけならば容易いことです」

「それで構わない。念のためだ。サイクロプスがあのまま動かないならば下手に刺激する必要はない」

「かしこまりました」


 フェイレスは狼型のスケルトンであるダーク・ウルフ5体を召喚した。

 5体のダーク・ウルフはサイクロプスを取り囲むが、それ以上の敵対行動はせず、サイクロプスも動く様子はない。


 加えてフェイレスはミュラーの左右に異なる盾を装備した2体のデス・ナイトを召喚した。

 1体はスケルトンウォリアーが持つ大盾と比べものにならないほどに巨大で重厚な盾を持ち、もう1体は重厚ではあるが片手持ちの小盾を両手に持っている。

 どちらのデス・ナイトも盾のみを持ち、剣や槍を装備していない。

 互いにミュラーの妨げにならない位置でミュラーを守るように盾を構える。


 戦いの機は満ちた。

 ミュラーとプリシラは剣と大鎌を構えてじりじりと間合いを詰める。


 先に動いたのはミュラーだ。

 プリシラに向かって真正面から飛び込みながら剣を肩に担ぐ。

 渾身の力を込めて剣を打ち込む構えだ。


「ふんっ、興ざめだぞ」


 ミュラーの一直線で単純な攻撃に呆れた様子のプリシラが大鎌を振るう。

 手加減無しに一撃でミュラーを両断するつもりだ。


ガンッ!!


 鈍い音と共に土煙があがった。


「ほう・・・捌いたか」


 ミュラーを両断する筈だったプリシラの大鎌が大地を切り裂いて突き刺さっており、無傷のミュラーがプリシラに剣を向けて立っている。

 ミュラーを叩き斬るべく慈悲も手加減もなく振り下ろされた大鎌だが、ミュラーは自らの剣でその側面を打ち、僅かに鎌の刃の軌道を逸らせたのだ。

 構えたまま剣の刀身を確認するミュラー。

 初手の一撃はプリシラの大鎌に対して自らの剣が対抗できるか否かを確かめるためのものだったが、ミュラーの剣には刃毀れも歪みもない。

 プリシラの大鎌は魔王が持つ得物だけあって常識外れの凶悪、いや絶望的な破壊力を持っているが、ミュラーが長年愛用してきた剣も実戦的な重厚な拵えで、その特性はミュラーの身体の髄まで染み込んでおり、単純なる武器としての比較ならばプリシラの大鎌にも負けてはいない。


「どうにかなるか・・・」


 呟くミュラーにプリシラがピクリと反応した。


「貴様、まさか妾に勝てるつもりでいるのか?」

 

 薄い笑みを消してミュラーを見据えるプリシラだが、その視線は並の者ならば発狂してしまってもおかしくない程の覇気を漲らせ、ミュラーにぶつけてくる。


「少なくとも負けるつもりではない」


 ミュラーの返答にプリシラが怒りの表情を見せた。


「小賢しいぞっ!」


 横薙ぎに襲うプリシラの大鎌の刃をミュラーは叩き下ろしながら飛び越え、その細い首を狙って剣を振るう。

 ミュラーの剣にも一切の躊躇いも加減も無いが、プリシラは大鎌を翻し、その柄の石突をミュラーの腹部に突き出す。

 直撃を受ければ石突きでもミュラーの身体を貫く程の威力だが、ミュラーは辛うじてそれを躱した。

 しかし、追い打ちを掛けるように繰り出されるプリシラの連撃。


「クッ!」


 2撃までは捌いたが、3撃目は避けきれない。

 ミュラーとプリシラの間にフェイレスが召喚した大盾を持つデス・ナイトが割り込んだ。


ガギンッ!


 一撃の重さも斬れ味も桁違いのプリシラの斬撃だが、デス・ナイトの大盾は大鎌の刃を食い込ませながらも受け止めた。


 ミュラーはデス・ナイトを飛び越えて再びプリシラの首を狙う。


「見くびるなよっ!」


 驚異的な力をもって受け止めたデス・ナイトごと大鎌を振るい、ミュラーに叩き込もうとしたプリシラだが、もう1体のデス・ナイトの小盾がそれを阻む。


 ほんの一瞬、いや半瞬だけプリシラの動きが止まった。

 好機とも呼べないその機を掻い潜ったミュラーは渾身の力を込めて剣を振り抜く。


「チイッ!」


 仰け反ってミュラーの剣の直撃を免れたプリシラだが、ミュラーの切っ先はプリシラの首の皮一枚を切り裂いた。

 2体のデス・ナイトに守られながら、痛手にもならない程の僅かな傷ではあるが、戦いの中でミュラーの刃の方が先にプリシラを捉えたのだ。


 大鎌が食い込んだデス・ナイトを振りほどいたプリシラはミュラーを見て微笑んだ。


「この感情は・・・楽しみ?怒り?・・・妾をこんな気持ちにしてくれるとはな。貴様、本当に面白いぞ。さあ、思う存分に楽しもう!」


 そう言いながら大鎌を構えるプリシラ。


「御免被る!」


 ミュラーもまた剣を構え直し、その切っ先をプリシラに向けた。

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