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ローライネの戦い

 ミュラーの許可を得てマクシミリアンは大隊傘下の3人の中隊長と大隊旗手を連れて前に出た。


「私はグランデリカ帝国軍第2軍団第3連隊所属、第2剣士大隊長のマクシミリアンだ!」


 声を上げると共に旗手が大隊旗を掲げる。

 その姿を見た兵達は困惑した。

 グランデリカ帝国軍正規軍の旗を掲げた者が敵である筈のリュエルミラ軍の前にいるのだから無理もない。

 互いに顔を見合わせ、構えている剣や槍の切っ先が無意識に下がる者もいる。

 マクシミリアンは手応えを感じた。

 

「我々は現在リュエルミラ軍と行動を共にしているが、彼等に降ったわけではない!我々の意志によるものだ!諸君も感じていないか?自分達が戦わされている理由に疑問はないか?今の帝国は何かがおかしいと感じていないか?突然始まった国を二分する内戦。それが終わったかと思えば次は現体制に従わない者への迫害。そして、リュエルミラを殲滅せよとの命令。どこかおかしくはないか?」


 兵達はマクシミリアンの言葉に聞き入っている。


「諸君も軍務に就いていたならば知ってい筈だ。リュエルミラのミュラー辺境伯は混乱していたリュエルミラを立て直した優秀な軍人であるが、決して無駄な戦いはしないお方だ。今、リュエルミラが帝国に反旗を翻したのも帝国が先に手を出したからだ。我々はこの戦いそのものに疑問を感じた。この戦いの義はどちらにあるのか?そもそもこの戦いに義などが存在するのか?少なくとも今の帝国に義が無いことは間違いない。そこで我々の大隊とそれに呼応した幾つかの部隊は自分達が何を選択すべきかを見極めるために一時的に軍を離れ、リュエルミラ軍と行動を共にすることを決めた。そして今、ここにいる諸君の手には幾つもの選択肢がある。しかし、少なくともここで戦いを継続することは選択すべきではない!ここでの戦いは終わったのだ。だから自らの意志を持って正しいと思う道を選択するべきだ!」


 この言葉が決定的となり、残っていた兵の全てが武器を収め、一部は撤退を始めたが、大半の部隊はマクシミリアンの指揮下に入るという条件の下でリュエルミラに従うことになったのである。

 マクシミリアンの功績によって平原の戦いは完全に終結した。


 平原の戦いにおけるリュエルミラ軍の損害は軽微なものであったが、次の行動に移ることが出来なくなった。

 ラドグリス軍の負傷者で戦場に取り残された者の救護や新たに増えた人員の糧秣の調整が必要になったのである。

 直ちに物資が不足するわけではないが、元々短期決戦を企図していたこともあり、余裕があるわけでもない。

 このままでは帝都に攻め上がる頃にはギリギリの状態になりそうだ。


 しかし、そんな状況を予測していたかのように、絶妙のタイミングでミュラーの下に補給物資が届けられた。


「ミュラーさん、食料や消耗品を持ってきましたっ!」


 荷車の車列と少数の護衛を指揮してミュラーの下に参じたのはラルク・エルフォード。

 聞けば、リュエルミラの留守を預かるローライネの指示で補給作戦が始まったそうで、その第1陣を買って出たのがラルクというわけだ。


 その頃、リュエルミラ領都ではローライネが陣頭指揮を取って次々と補給物資を前線に送る作業が行われていた。


「さあ、のんびりしている暇はありませんわ!前線の皆さんを空腹のままで戦わせるわけにはいきません。装備品もそうですわ。戦えば戦うほど傷も付けば壊れもします。数で圧倒的不利な私達は時間を味方につけなければなりません!空腹や物資不足で足踏みすることは命取りですわ!」


 臨時の輸送部隊を複数編成したローライネは準備の出来た部隊から次々に前線へと送り出す。

 それ等の糧秣や物資の殆どはローライネの私財を売り払って買い入れたものだ。


「これでミュラー様達はあと1年は物資不足に陥ることなく戦い続けられるでしょう。我が商会も良き商売をさせていただきました」


 ローライネの背後に立つランバルトはリュエルミラへの納品伝票を確認しながらほくそ笑む。


「まだまだですわ!ミュラー様とフェイレスは手段を選ばず、それはもうえげつない方法で、これでもかと敵を撃滅なさるでしょう。それでありながらミュラー様は行く先々で敵味方、一般市民関係なく窮地にある方々に救いの手を差し伸べる筈です。悍ましき死霊の軍勢を率いるミュラー様、窮地にある者に慈悲の手を差し伸べるミュラー様。人々はそのギャップにコロリと騙されるのですわ!勝つためには手段を選ばず、全ての人々を救いの手を差し伸べる。それでこそ我が夫、私のミュラー様ですわ!」


 胸を張り、自信に満ちた笑顔を浮かべるローライネ。


「しかし、そのために私共か買い取らせていただいた宝飾品や美術品の数々。ローライネ様の個人資産とお聞きしていますが?」


 ランバルトの言葉にローライネは笑みを消してつまらなそうに鼻をならす。


「ふんっ、些細なことですわ。それに、私が輿入れする際に持参したあの品々、あまり気に入っていませんでしたの。物置の中で場所ばかり取って埃を被っているだけならば売ってしまった方がスッキリしましたの」


 ランバルトは苦笑する。


(流石、あのミュラー様の奥方様だけのことはある)


 そんなランバルトを横目で見ていたローライネだが、改めて東の空を見遣った。


「あの空の下でミュラー様が戦っていますわ。さあ、私からの愛をどんどん送り出すのです!」

「かしこまりました。このランバルト、リュエルミラの御用聞き商人として、商会の総力を持って商売をさせていただきます」


 言い残すとランバルトは自ら武装商隊を率いて東へと向かった。

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