リュエルミラ軍進撃
ゲオルドの第3大隊等を引き連れたミュラーが第1、第2大隊との合流場所に到着した時、ミュラー達を出迎えたのはリュエルミラ領兵第1、第2大隊だけではなかった。
そこにいたのは帝国軍第2軍団第3連隊に所属する第2剣士大隊。
かつてミュラーが大隊長として率い、当時ミュラーの部下だったマクシミリアンが後を引き継いだ大隊だ。
「マクシミリアン、これはいったいどういうことだ?」
整列する剣士大隊を前に困惑するミュラー。
「実は、私の大隊をミュラー殿の軍に編入させていただきたいのです」
マクシミリアンの申し出にミュラーは更に戸惑う。
「それこそどういうことだ?第2軍団はどうなっている?」
「第2軍団所属の部隊は先の内戦で大半が敗走し、第2軍団は事実上壊滅しました」
マクシミリアンによれば、内戦に際して第2軍団は帝国正規軍としてアンドリューの指揮下に入り、デュランの軍を相手に最前線で戦っていたが、戦況の変化に伴って損害を積み重ね、軍団として7割以上を損耗し、事実上壊滅したということだ。
そんな中、マクシミリアンの大隊や一部の他の部隊は国境警備等の別任務に従事していたために損害を免れたが、軍団が壊滅した上、アンドリュー陣営が敗北したことにより指揮系統を失い、機能停止状態に陥ったらしい。
その後、帝国の大半を掌握したデュラン(正確にはスクローブ、ラドグリス等)により新たな帝国軍に編入されたが、元々敵対していた部隊なだけに冷遇され、挙げ句に下命された任務は未だにデュラン政権に反抗的な貴族や市民の抑圧や粛清でアリ、それを受け入れることができなかったマクシミリアンは自らが率いる大隊と、同調する幾つかの部隊を集約して帝国軍を離れたということだ。
確かに整列しているのは第2剣士大隊のみではなく、他に槍兵や弓兵、魔導兵等、装備や編成はバラバラだが5個小隊程がいる。
「我々は各級指揮官の判断により帝国軍規第4条第3項の適用を宣言しましたので軍規に反しているわけではありません」
白白しく話すマクシミリアン。
帝国軍規第4条とは軍務における指揮命令系統を示した規則であり、帝国軍人は帝国政府、上級指揮官、直属の上官の命令に従う義務がある、とされているが、第3項にはその例外規定が明記されている。
「帝国軍人は、自国、敵国に限らず一般市民や、投降して反抗の意思を持たない敵軍兵士等を殺傷する、又はその尊厳を失わせる等の命令を下された場合、その命令を遂行するだけの特段の必要性が無いと判断した場合、自らの良心に従って必要な措置を取ることができる。ってことか?」
ミュラーの言葉にマクシミリアンは笑みを浮かべながら頷く。
「はい。よって我々は帝国軍規に反することなく帝国軍を離脱したというわけで、現在の帝国軍を正常化するための必要な措置としてミュラー殿の指揮下に加わることを希望します」
確信犯的に帝国軍を離脱してミュラーの指揮下に入ることを望むマクシミリアン等だが、他の帝国軍部隊や他の貴族の領兵と違い、かつてミュラーが指揮し、部隊行動の練度も把握している大隊で、それを率いているのが旧知のマクシミリアンとなればミュラーとしてもありがたい。
マクシミリアンの連れてきた部隊をリュエルミラ連隊に編入し、部隊を上手く組み直せば暫定的に2個連隊編成にすることも可能だ。
しかも、連隊編成に固執しないならば、どさくさに紛れて中隊の定数を増やしているオーウェンの第2大隊を2つに分けて、5個大隊を手持ちの戦力として運用することも出来る。
「了解した。マクシミリアン等の申し出を受け入れる。但し、これから行う作戦は既に計画を立案しているので、新規戦力を投入することはできない。よって、次の作戦は予備戦力として控えてもらう。作戦終了後に新たに部隊編成をするので、実戦参加はその後だ」
帝国軍を離脱したマクシミリアン等を受け入れる決断をしたミュラーは改めてリュエルミラ領兵連隊を見回した。
「敵軍の位置は把握しているか?」
ミュラーの問いにオーウェンが前に出る。
「はい、帝国軍ラドグリス大公が指揮する部隊がここから東北にある都市に陣取り、我々の位置を探ろうと方々に偵察を放っています。しかし、フェイレス殿のアンデッドのおかげで我々の方が先に偵察を察知して移動してしまうため、何の成果も出ずに苛立っているようです」
「そりゃあそうだろう。連隊規模の敵が潜んでいるのにその位置どころか影すらも掴めないのだからな」
肩を竦めて笑うミュラー。
こうなると、ミュラーの思いのまま、全部隊により戦いの先手を打つことが可能だ。
「それでは、いよいよ帝国を相手に本格的な攻勢に出るとするか。全部隊に通達、予定の行動を開始せよ!」
ミュラーの号令でリュエルミラ領兵連隊、いやリュエルミラ軍が進軍を始めた。
先頭は初戦の先陣を担うアーネストの第1大隊。
オーウェンの第2大隊とミュラーの本隊がそれに続き、ゲオルドの第3大隊が左右に展開して遊撃を務める。
最後尾に予備戦力としてマクシミリアン率いる新規大隊が続く。
総勢2千を超える大部隊だが、帝国全軍を相手にするには余りにも少なすぎる。
しかし、ミュラーの表情に不安は認められない。
「フェイ、もう後戻りは出来ない。フェイの力を含めて徹底的にやる。冥府の底まで付き合ってもらうぞ」
傍らのフェイレスに問い掛けるミュラー。
「私の役目は主様を導いて、主様のお役に立つこと。何所までもお供します。しかし、主様をローライネ様の下に無事に帰還させることも私の役目であることもお忘れなきよう」
「ふっ、フェイもローライネを怒らせることは避けたいか?」
「そうですね。万が一にもあのお方がミュラー様を失うようなことがあれば・・・想像することすら恐ろしいですね」
フェイレスの返答に思わず吹き出すミュラー。
「フェイにそこまで言わせるとは、ローライネも大したものだ。・・・ならば、我等2人、ローライネに叱られないように死力を尽くすとするか」
「主様の仰せのままに」
ミュラーは再び前を向いた。
「さて、劣勢のミュラーの実力、傲慢なる我等の敵に嫌という程に堪能してもらうとしよう」
昨年末からの繁忙時期をよくやく乗り越えました。
更新頻度が著しく低下していましたが、少しずつ元に戻していきます。
最後までお付き合いいただけると嬉しく思います。