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激突

 領都防衛の為に大隊を率いて配置に就こうとするゲオルドの前に立つローライネ。

 身長がゲオルドよりも頭2つ程低い筈のローライネだが、胸を張った堂々とした佇まいはゲオルドよりも大きいような錯覚に陥ってしまう。


「ゲオルド、相手はエストネイヤ伯爵の騎兵連隊です」

「はい。私が持つ全ての力をもって迎え撃ちます」

「エストネイヤ騎兵連隊はかつて貴方が所属し、多くの兵を率い、育て上げてきました。それが今、私達の敵となったのですよ。そして、お父さ・・エストネイヤ伯爵自らが率いている筈です。この意味、分かっていますわね?」


 ローライネの瞳には覚悟を決めた炎が宿っている。


「はい。騎兵連隊は速攻、強襲を旨とした戦法で襲いかかってくるでしょう。しかも、伯爵様自らが指揮するのは必勝を期した戦いです。一筋縄ではいきますまい」

「ゲオルド、貴方の大隊で勝てますの?」


 見下ろすように見上げるローライネにゲオルドは大袈裟に肩を竦めた。


「勝てるなんてとんでもない。負けるつもりはありませんが、勝ち目はありません」


 ゲオルドの言葉を聞いたローライネはニッと笑う。


「ならばゲオルドはどうしますの?」

「そうですな、騎兵連隊は速攻を止められると意外と脆いところがあります。先ずは第一撃を受け止め、敵の足を止めることです。これに成功すれば、後はミュラー様が戻るまで時間稼ぎをするだけですのでそう難しいことはありません」

「よろしい!任せますわ。それから、貴方自身も命を無駄にすることは許しませんわよ!必ず生きて戻りなさい」

「当然です。老い先短い老体とはいえ、お嬢様のお子を抱くという楽しみがありますからな。こんなつまらぬ戦で命を捨てるようなことはしません」


 ローライネはゲオルドの胸を拳で小突く。


「そういうところですわよ!決戦前にそういうことを口にすると変な旗が立ちますわよ!」

「ハハハッ、まるで舞台演劇ですな。心配めさるな、その手のセリフは主役級の者が放ってこそ旗が立つというもの。私のように名も無い脇役では役不足ですな」


 笑いながら配置に向かうゲオルドを見送ったローライネは住民の避難誘導に当たる衛士や冒険者達に檄を飛ばす。


「さあ、皆さん!領都の住民は誰一人として危険に曝しませんですわよ!領都外に逃げる方は敵の方向とは逆に誘導なさい。それ以外の住民は全て領主の館に避難させなさい」


 リュエルミラの領主の館は強固な外壁に囲まれているものの、普段はミュラーが正門を開け放ち、領民に庭園を解放していることから子供達の遊び場や領民の憩いの場になっているが、一度門を固く閉ざせば簡易的な軍事要塞と化し、短期間ならば領都の住民全てを収容した上で籠城することが可能だ。


 そして、リュエルミラ領都は帝国西部の守りの要所として北のゴルモア公国、西の樹海の魔物達からの侵攻に睨みを利かせる役割を担ってきた。

 そのため、領都全体を囲むほどではないが、都市の外周の要所要所に防壁が築かれていて守りやすい構造になっている。

 そんな地形を生かしてゲオルドは数の劣勢を補う為に敵を領都に引き込む作戦を立てた。

 既に第3大隊所属の弓兵やエルフやダークエルフの志願兵を狙撃手として建物の屋上や物陰に潜ませている。

 そして、ゲオルドは第3大隊の主力を領都の入口に配置した。

 最前列に陣取るのは正式に第3大隊所属となったドワーフの猟兵小隊だ。

 2台の装甲馬車と3台の荷車に設置した移動式バリスタに矢が番えられ、敵を待ち受ける。


 やがて遥か彼方から騎馬軍団が進軍する土煙が見えてくるが、その様子がおかしい。


「何だ?戦闘が行われているのか?」


 土煙だけではない、何かが燃えるような煙も見える。


「伝令っ!敵エストネイヤ騎兵連隊は既に交戦状態にあり!戦っているのは複数のカボチャの頭をした魔物。数が少ないので効果は低いですが、軽微ながら敵騎兵に損害を与えつつ此方に接近中!」


 偵察兵の報告でゲオルドは全てを悟った。


「カボチャの魔物、フェイレス殿の死霊兵か!これは好機だ!総員戦闘準備!」

 

 ゲオルドの号令で第3大隊は臨戦態勢を取る。


 エストネイヤ騎兵連隊を指揮するエストネイヤ伯爵。

 デュランが治める帝国において、ラドグリス大公の指揮を離れて独自の判断で行動することが認められた伯爵は遊撃部隊として真っ先にリュエルミラを警戒した。

 たかだか辺境領主、それ以前は軍の部隊の大隊長風情に過ぎなかったミュラーたが、前皇帝のエドマンドですら常々「ミュラーを敵にするな」と語っていた程の男だ。

 伯爵としてはそのミュラーを手元に引き寄せられないかと考えてかねてより画策してきたものの、スクローブ、ラドグリスの2人がミュラーを敵視している以上は余計な波風を立てるわけにもいかず、とりあえず娘のローライネを嫁がせ、敵でも味方でもない関係を築いてみたが、知れば知る程にミュラーという男に興味を持った。

 内戦勃発後もリュエルミラは中立を保ってきたのだから余計な刺激をしなければよかったのだが、それを由としなかったのはスクローブ宰相達だ。

 ミュラーが軍人として功績を挙げたことを疎ましく思い、自分達の謀略によって辺境に押し遣ってからも何かと敵視してミュラーの失脚を謀ってきた2人は遂に眠れる獅子を目覚めさせてしまったのである。

 こうなったらミュラーが力をつける前に叩き潰す必要があると考えたエストネイヤ伯爵はリュエルミラを攻略するために動いたのだ。

 リュエルミラに睨みを利かせるために押さえたエルフォードを放棄してミュラー不在のリュエルミラに奇襲を仕掛け、ローライネ等を人質に交渉を迫るつもりだったのたが、リュエルミラ領内に進撃した時点で予想外の襲撃を受けた。

 持ち前の機動力で敵の防衛線を回避しつつ一気に領都を突く筈が、その途中で複数の魔物、いやアンデッドが襲いかかってきたのだ。


「不確定な報告だから確信が持てなかったが、やはりあの側近は死霊術師だったか!」


 魔法が使えないとされていたミュラーの側近のハイエルフの女。

 スクローブ宰相等にしてみれば外見だけのお飾りの端女と評されてきたが、エストネイヤ伯爵はリュエルミラ領内に放っていた密偵からの報告によりフェイレスというミュラーの側近は只ならぬ力を隠していると感じていたが、それが正に確信に変わった。

 あの女は高位の死霊術師だ。

 とはいえ、ジャック・オー・ランタンの執拗な攻撃に曝されながらも進軍の速度を落とさない騎兵連隊。

 空中からの火炎攻撃は厄介だが数が少ないため深刻な損害にまでは至っていない。

 

「敵に肉迫し、乱戦になれば死霊の火炎攻撃は使えない!一気に駆け抜ける!」


 目指すリュエルミラ領都は目前だ。


「前方にバリスタが複数!此方を狙っています!」


 前方からの報告を受けるが突撃態勢に入った騎兵の進路変更はできない。


「多少の損害はやむを得ない!このまま突入して敵を蹂躙する」


 伯爵もサーベルを抜いた。


 対するゲオルドもエストネイヤ騎兵連隊を射程に捉えていた。


「敵の足を止める!目標、敵騎兵の戦闘集団、一斉に放てっ!」


 ゲオルドの号令で5台のバリスタが一斉に矢を放った。

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