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エルフォードへ

 ウィルソン伯爵領を落としたミュラーは直ちに次の一手への準備に取りかかった。

 ウィルソン伯爵とその家族、家臣達をリュエルミラに送ると共に行政所長を呼び出す。

 ミュラーの前に震えながら立つウィルソン領の行政所長は伯爵の遠縁に当たる中年女性だが、彼女まで更迭するつもりはない。


「当分の間、ここは領主不在となるが、その間は行政所長がこの領の責任者だ。今まで通りの領内運営を頼む」


 緊張と恐怖のあまりミュラーの言葉が理解できない行政所長は首を傾げる。


「あ、あの・・・ど、どういうことでしょうか?」

「言葉通りの意味だ。我々はこの領に攻め込んで占領したが、支配するつもりはなない。我々リュエルミラ軍は次の行動のためにこの地を去るので行政所長には今まで通り領の行政運営と治安維持を担ってもらう。この地にはリュエルミラから行政監督官3名を派遣するが、彼等はウィルソンの行政には介入しない、あくまでも混乱に乗じた領民への不当な圧政が無いように監視するだけだ」


 ミュラーの意外な言葉に行政所長は更に混乱する。

 攻め込んできたリュエルミラ軍がさっさと撤退すると言い出したのだ。

 突然戦禍に巻き込まれて敗北し、これからどのような扱いをされるのか不安だったところに行政については今まで通りと告げられ、肩すかしを食らったようなものであるが、それと共に湧き上がってきたのはリュエルミラ軍がこの地を去ることの不安感。

 攻め込んできた軍がいなくなるというのに不安が生じるというのは矛盾であるが、それには理由がある。


「リュエルミラ軍がいなくなると、領内の治安や守備はどのようにして維持したらよいのですか?」

「ウィルソン領の衛士はそのまま残すから引き続き彼等に治安を守らせればいい。ウィルソンの領兵部隊も上級指揮官以外は残していく」

「それでは、もしも貴方達が去った後に帝国の軍隊が攻めてきたらどうしたらいいのですか?」

「その時にどのような選択をするのかも任せる。自力で抵抗しても構わないし、帝国に降伏してもいい。それが無理ならば派遣する行政監督官に応援を要請しろ。私はこの近辺に高い警戒網を敷いているので帝国軍に大規模な動きがあればいち早く察知し、敵に先んじて行動することが出来る。要請があれば我々は直ぐに部隊を展開してこの地を防衛する」


 ミュラーは行政所長に告げるが、実際のところウィルソン領に選択肢は無い。

 これまでのウィルソン領の動きを見ればウィルソン領は何時裏切るか分からないと判断され、例え帝国に降伏したとしてもまともな待遇は期待できないのだ。

 加えて、ミュラーがウィルソン領から部隊を引き上げる理由は他にもある。

 単純に戦力が足りないということもあるが、それよりも余計な争いを避けることが目的だ。

 部隊を駐留させて力によって抑圧すれば民の不満も増え、それが爆発すれば反乱が起きる可能性があるが、ミュラーの策だとウィルソン領は攻め落とされたが領政については行政所長に委ねることにより民の生活に大きな変化はない。そして、何らかの理由で民に不満が募ろうが、そもそもその不満をぶつける相手がいない。

 これがミュラーが考案した『攻略しても支配はしない、丸投げ作戦』だ。

 フェイレス等から共感を得られなかったが、無駄なことに時間を割く余裕は無いのでミュラーの発案がそのまま採用された作戦名である。


 電撃的な奇襲が功を奏してウィルソン攻略でリュエルミラ軍が受けた損害は、戦死者はおらず、5名の重傷者に軽傷者が複数と極めて軽微であった。

 重傷者をリュエルミラに後送し、フェイレス配下の治療班による軽傷者の治療を終えたミュラーは宣言通り行政監督官を呼び寄せた後にウィルソン領を後にして(実際にはサミュエルの密偵やフェイレスのスペクターが複数潜り込んでいる)直ぐに次の作戦に取りかかった。

 次なる目標はウィルソンから北に向かったエルフォード。

 ウィルソンとエルフォードを攻略し、勢力圏を広げることが帝国を敵に回したミュラーの策の第一段階だ。


 ウィルソン伯爵等の護送のために人員を割いた第3大隊は一旦リュエルミラに帰還し、代わりにオーウェンの第2大隊が前進するが、第2大隊はエルフォードには向かわない。

 エルフォード攻略はミュラーと第1大隊のみで当たり、第2大隊はエルフォードとウィルソンの中間地点に簡易的な野営陣地を構築して東方の警戒任務に就く予定だ。


 ミュラーはアーネスト率いる第1大隊と共に北に向かう。

 現在エルフォードはエストネイヤ伯爵の連隊が占領している。

 エストネイヤ伯爵が指揮する騎兵連隊は油断のできない相手だが、フェイレスのスペクターを偵察に出したところ、エルフォードに駐留しているのは1個大隊程度の戦力とのことだ。


「狡猾なエストネイヤ伯爵だ、どんな策を巡らせているか分からないが、ここまできたら後戻りは出来ない。いざとなったらフェイの力を借りるぞ」


 ミュラーは傍らのフェイレスに告げる。


「仰せのままに。主様が望むなら私の死霊術師としての力を存分にお使い下さい」

「頼りにしている」

 

 軍を追われた地方領主とその側近の魔法を使えない魔術師だった筈の2人。

 そして今、帝国に刃を向けた辺境領主ミュラーとその側近の死霊術師としての戦いは始まったばかりだ。

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