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境界線にて

「主様、私のアンデッドを偵察に向かわせます」


 走竜を駆ってエルフォードとの境界線に急ぐミュラーに意見具申するフェイレス。

 帝国内で内戦が始まってからもミュラーはフェイレスの死霊術に頼ろうとはしなかった。

 ミュラーやサミュエルが帝国内に諜報員を放っているのとは違い、フェイレスの死霊を放つのは死霊術という特別な力を使うということであり、万が一にもフェイレスの死霊の存在が知られれば敵対行為をしていると見なされても文句は言えない。

 それ故に静観を決めたミュラーはフェイレスの死霊術に頼なかったのだ。

 しかし、状況は刻一刻と変わり、今やリュエルミラに隣接しているエルフォードにまで戦火が伸びつつあり、迅速に正確な情報を集める必要がある。


「よし、フェイに任せる。但し、情報収集だけだ。どちらの陣営にも気付かれるな」


 ミュラーの決断を受けてフェイレスは2体のスペクターを召喚した。

 黒いローブに身を包みフェイレスの周囲を浮遊する2体のスペクター。

 精神体、所謂亡霊であるレイスの上位種のスペクターは高い機動性と隠密性を兼ね備えた情報収集に適したアンデッドだ。


「・・イル・・ケーラ・・ルル」


 常人には理解することが出来ない言語でフェイレスが指示を出すとスペクター達はフェイレスから離れ、その姿を消しながら東に向かって飛び去った。


「今のは魔力を圧縮した魔導言語というやつか?」


 フェイレスが死霊を召喚するのをまじまじと見たミュラーは感心する。


「いえ、魔導言語には違いありませんが、私が使うのは死霊術語です。制御が困難で遥か昔に廃れた古代言語で、現代の死霊術では殆ど使われることはありません」

「フェイにはそんな知識もあるんだな」

「私は死霊術師であると共に探求者でもあります。興味を持ったものは何でも学び、自ら体験したいのです。その結果会得した死霊術語でしたが、非常に効率が良いのです」


 聞いただけで大変なことをこともなげに語るフェイレス。

 いわれてみればフェイレスはミュラーに初めて会った時に自らを探求者と言っていた。

 そんなフェイレスにとっては変わり者といわれるミュラーもフェイレスの観察の対象なのだ。


 その後、ゲオルド達と合流したミュラーは直ぐに指揮官を集めた。

 集まったのはゲオルドの他に領兵第3大隊第1中隊長と衛士機動大隊の第1中隊長と第2中隊長で、それぞれの指揮下の戦力を集めると3百人程の戦力になる。


「現在、情報収集中であるが、エルフォード領内で何らかの戦闘行為が進行中だ。この影響が我がリュエルミラにも及ぶ可能性がある。これより警戒度を最大級に上げる。しかし、今のところ部隊を何処に展開するべきかの判断が出来ないので、騎兵による偵察警戒に留め、その他はこの場で休息を取りつつ待機。但し、状況に応じて直ちに出動できる態勢は保つこと!」


 隊長達を前に指示を出すミュラー。

 手持ちの兵力ではエルフォードとの境界全域を守ることは出来ない。

 せいぜいゲオルドが率いている騎兵20騎を投入して流動警戒をする程度で、全てはフェイレスのスペクターからの報告を受けてからだ。


 騎兵隊を警戒に出したミュラーはフェイレスを伴って周囲の状況を確認して回る。

 リュエルミラとエルフォードを結ぶ街道は1本のみだが、街道以外は境界全域が広々とした草原と北方にある森林なので互いに何処からでも進入できる地形だ。


「待機場所から境界の端まで徒歩部隊が移動するのに最低でも3刻、万全を期するならば4刻は必要か。どの地点に展開するにしてもフェイの情報収集が鍵だな。しかし、場合によってはこの開けた平原を舞台に数で勝る騎兵相手に3百程度の徒歩部隊で挑む必要がある。まともに考えれば自殺行為だな」


 苦笑しながら周囲を見渡すミュラーの傍らでフェイレスが西の空を見上げている。


「主様、戻ってきました」


 フェイレスの視線の先には東の空からスペクターが姿を現しながら近付いてくる。

 フェイレスが放った2体のうちの1体だ。


「追われているのは幼子3人が乗った馬車、護衛の数は30。対して追撃しているのは約8百の騎兵、更に後続で約5百、ワイバーンに稲妻の旗を掲げています」

「ワイバーンに稲妻、エストネイヤ伯爵の騎兵連隊だ。スクローブ侯爵等の領兵と違って伯爵の連隊は精強で速い。それに追われているのが幼子3人となればアンドリューと共に帝都に残っていたハロルドとミルシャ、シャミルの皇子の可能性が高い。帝都から脱出してエルフォードに向かっているのか」

「もう一つ、エルフォードの領兵隊が領都を出て追われている集団に合流しようとしています」


 ミュラーの表情が険しくなる。


「悪手だ!ここは領都の守りを固めて脱出してきた集団を受け入れるべきだ。集団同士が合流すると必ず間隙が生じるし、集団の数が増えれば足が遅くなって追っ手に捕捉されるぞ」


 ミュラーは地図を広げてスペクターが指し示すそれぞれの集団の位置を確認した。


「駄目だ。追われている集団だけならギリギリ領都に逃げ込めるが、ラルク達が合流すると逃げきれん!」


 ミュラーは集団が接触する地点を予測し、警戒すべき場所を判断する。

 リュエルミラ兵達が待機している場所よりも北方だ。

 ミュラーは直ちに領兵部隊の転進を指示した。


 その頃、ラルクは窮地に立たされていた。

 帝都から脱出してきた馬車を保護しようと領兵を率いて出撃したのだが、ミュラーが看破したとおり、合流時の間隙と、連携が取れない集団が合流したことにより足が鈍り、追ってきた集団の先頭部隊に捕捉されてしまったのだ。

 このままでは領都に逃げ込むことが出来ない。

 ラルクは決断し、馬車を護衛していた指揮官に向かって叫んだ。


「このままでは間に合わない!僕達が囮になります。その隙に領都に逃げ込んでください。但し、こうなっては領都も安全ではありません。領都にいる私の姉の指示に従ってください。お三方の安全を護る策を持って待機しています!」


 ラルクは途轍もない罪悪感に苛まれながら最悪に備えて準備していた指示を出した。


(すみません・・・)

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