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急報

 その知らせがミュラーの下に届けられたのは夜明けにもほど遠い夜中のこと。

 外の騒がしさに目を覚ましたミュラーは傍らで眠っているローライネを起こさないように気を遣いながらベッドから抜け出して執務室へと出た。

 程なくしてフェイレス、クリフトン、マデリアが執務室に来て東部境界線の警戒に当たっていた部隊から伝令兵が至急報告を持ってきたというのだが、フェイレス等の姿を見たミュラーは仰天した。

 宿直だったマデリアは普段のメイド服で、クリフトンは寝間着の上にガウンを羽織っており、この2人は特に問題ない。

 しかし、問題はフェイレスだ。

 クリフトンと同様に寝間着の上にガウンを羽織っているのだが、ガウンの下は寝間着と言うには無理がある、下着姿であり、羽織っているガウンも薄手の生地で、率直にいえばガウンの下が透けて見えてしまっている。


「フェイ、なんだその格好は。とりあえず着替えてこい!そもそも寒くないのか?」


 目のやり場に困り慌てるミュラーだが、フェイレスは首を爨げた。


「上着を着ていますが、何か問題がありますか?」

「ガウンの下に何かを着ろ。いや、とりあえず着替えてこい、目のやり場に困る」


 一旦フェイレスを下がらせたミュラーがため息をつく。


「ミュラー様も鼻の下を伸ばしてる暇があるのならば、その間にお召し替えをなさってください」


 背後から突然声を掛けられ、反射的に鼻の下でなく背筋を伸ばしたミュラーが振り返ると、そこにはミュラーの服を持ったローライネが不機嫌そうな表情で立っている。


「いっ、いや何でもないぞ!フェイがスケスケ・・いや、フェイも何も気にしていない。何も目を奪われていないぞ」


 慌てて滅茶苦茶な言い訳をするミュラー。


「何を慌てているのですか?ミュラー様がフェイレスに劣情を催そうが、フェイレスの方がミュラー様のことなんか歯牙にもかけません。くだらないことを言っておらずに早くお召し替えをなさってください」


 やや理不尽にローライネに叱られながらミュラーは渋々着替えをすることになったのである。


 その後四半刻と経たず、着替えたフェイレスが執務室に戻り、自室で魔導研究をしていたバークリーを呼び出したミュラーは伝令兵からの報告を受けた。

 曰く、リュエルミラの北東、エルフォード領内で異変があるということだ。


「エルフォード領の西端、帝都方面より1台の馬車を護衛するように数十騎の騎兵がエルフォード領に向かい、更に騎兵の大部隊がその小部隊を追っています。エルフォードでは領兵中隊の動きが活発化しています」


 伝令の報告を聞いたミュラー達に緊張が走る。

 馬車を護衛した小部隊と、それを追う大部隊が帝都方面から来たとなれば単純に考えれば脱出しようとする要人とそれを捕らえようとする集団だ。


「要人が帝都を脱出したとしても、向かう先がエルフォードか。助けを求めるにしてはエルフォードでは頼りないと思うが」


 ミュラーの言葉に皆が同意する。

 

「追う側と追われる側、どちらの勢力に属しているか特定するには拙速かと思いますが、エルフォード領内に逃げ込もうとしているならば、アンドリュー陣営の誰かが帝都を脱出したと見るのが自然でしょう」


 フェイレスの意見にミュラーも頷く。


「エルフォード境界の警戒に当たっているのはどの部隊だ?」

 

 ミュラーの問いに答えるのはバークリーだ。


「第3大隊第1中隊で、ゲオルド殿が直接指揮を執っています。他に衛士機動大隊第2大隊の第1中隊と第2中隊が中隊間の任務交代のために付近に待機しています」

「ゲオルドが現場にいるか。それはタイミングがいい。私も直ぐにエルフォードとの境界に向かおう。留守はローラとバークリーに任せる。バークリーはエルフォード境界以外の警戒も強化するように東部に展開している各隊に伝達しておいてくれ」

「分かりました」


 立ち上がるミュラーにローライネが慌てて声を掛ける。

 

「ミュラー様、エルフォード境界に向かうにしても護衛はどうなさるのです?」

「フェイとマデリアを連れて行くし、現場でゲオルドに合流するから護衛は不要だ。それに一刻も早く現場に行く必要があるが、私の走竜やフェイの五角山羊の速度に付いてこれる者はマデリアしかいない」


 そう言って直ちに出発の準備を整えたミュラーはフェイレスとマデリアを連れてエルフォードとの境界に向けて駆けだした。

 

 ミュラーが領都を出たその頃、エルフォード領主のラルクも領兵中隊を率いて領都から出撃して東に向かっていた。


「予定と違う。敵に気付かれてしまったのか?早く合流して、エルフォードにお迎えして僕がお護りしないと」


 逸る気持ちを抑えられず、自ら領兵を率いて出撃したラルク。

 常に自らが先頭に立つミュラーを信奉し、ミュラーのようになりたいと望んでいたラルクは領主として自らが領兵を率いるこの時になって大きな過ちを犯していた。

 そしてその過ちはリュエルミラを戦乱へと巻き込んでゆく。

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