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束の間の休息

「使役術者、所謂テイマー職か・・・。しかし、帝国軍にそのような部隊は無かった筈だ。特にスクローブ侯爵等の東部貴族は古いしきたりを重んじ、領兵隊も騎士甲冑の騎兵が主力だ。そんな部隊を持っているとは思えんな」


 ミュラーの考えにフェイレスは首を振る。


「何も帝国正規軍や領兵である必要はありません。例えば、お抱えの魔術師に使役術を会得させたり、もっと簡単に傭兵や冒険者を動員してもいいのです」

「冒険者、死霊術師や魔物使いの類か・・・居たな、古代スライムの時に派遣されていたスクローブ領冒険者に魔物使いの娘が。プリシラといったか?しかし、あの娘はこんなことに加担するようには見えなかったがな」

「まだあの娘だとは分かりません。そもそも、使役術者が介入しているというのも仮定でしかありません」


 ミュラーも腕組みしながら頷く。


「仮にあの娘だとしても何か事情があるのかもしれないな。まあ、ここで仮定の話をしていても仕方ない。今しばらくは様子見だな」


 ミュラーは使役術者の存在を念頭に置きながら情報収集を継続することにした。


 内戦の開戦以降、領内の警戒強化と情報収集に徹していたミュラーだが、ローライネが領内視察から戻ってきたタイミングを見計らって休息の機会を作った。


 館のバルコニーではローライネとフェイレスが午後のお茶を楽しみ、庭園の東屋ではミュラーとバークリーがカードゲームに興じている。

 ミュラーの背後にはお茶の給士を務めるステアがいるが、遠目に見てもミュラーの負けが込んでいるようだ。


「フェイレス、あれってミュラー様がカモにされていませんの?」


 バークリーの趣味に付き合わされているミュラーだが、毎度のことながら不自然にならない程度に負け込んでいる。


「はい、バークリーにいいようにカモにされています。しかも、普段は思慮深い主様ですが、バークリーとの勝負では何も疑うことなく、本気?で勝負して負けを重ねています」


 端から見れば直ぐに分かることだが、当然ながらフェイレスもバークリーのいかさま行為を見抜いていた。


「で、あの不正行為をフェイレスは止めませんの?」

「被害は主様の個人的な所持金だけですし、その被害額もまあ、やり過ぎでない程度にそれなりですのでバークリーの戯れと福利厚生の範疇だと放置しています。そもそも、あんな単純な策に気付かない主様にも非があります」


 表情を変えずに話すフェイレスにローライネは呆れ顔でため息をつく。


「ずいぶんと主思いの側近ですこと・・・。ところで、バークリーはミュラー様から巻き上げたお金を独り占めしているのかしら?」

「いえ、共犯者のステアときちんと山分けをしています」


 ローライネは頷いた。


「そういうことなら、私も黙認しましょう。負けて凹んでいるミュラー様の心のケアは妻である私が引き受けますわ」

「・・・ローライネ様も大概ですね」


 やや肌寒い昼下がり。


「くそっ!また負けたっ!」


 負け込んでストレスを溜めたミュラー以外の者が温かいお茶を楽しみながら束の間の休息を楽しんだ。


 数日後、帝都東方の戦況が大きく動いた。

 アンドリューの防衛線の中核を担っていた近衛騎士団の大隊が背後を突かれて壊滅に追い込まれ、それを契機にデュランの軍勢が攻勢に転じ、戦線に綻びが生じたのだ。


「戦線崩壊とまではいかないが、戦況がかなり傾いたな」


 卓上の地図を睨むミュラー。

 帝都東方の各所でアンドリューの防衛線が食い破られ、幾つもの部隊が帝都付近まで後退している。


「防衛線を下げるにしても各隊の連携が取れていない。最前線に残された部隊が包囲されて各個撃破されている。徒に損害が拡大しているな」


 バークリーも地図上に置かれた駒で、壊滅した部隊の駒を取り除きながら頷く。


「特に第1軍団の魔導中隊を失ったのは痛手ですね。第1軍魔導中隊は他の軍団の魔導大隊に比べて中隊規模と数は少ないですが、能力は帝国軍魔導部隊の最精鋭部隊ですが、それ故に真っ先に狙われましたね」

「精鋭の魔導中隊を倒すなら、一気に間合いに飛び込んで奇襲を仕掛け、一撃で立ち直れない程の打撃を加えることが有効だ。それを成せるだけの高い機動力と打撃力を持つ部隊がいるということは、フェイの言うとおりかもしれないな」


 フェイレスは無言で頷く。

 アンドリュー有利かと思われた内戦だが、それが覆りつつあった。

 

 戦況は目を離せない状況だが、ミュラーの懸念は他にもある。

 ミュラーが睨んでいるのはエストネイヤ領都。


「伯爵、どこに行った?」

  

 そこに置かれていた騎兵の駒が無くなっていた。

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