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帝国騒乱の始まり

「そうしますと、皇帝陛下崩御はほぼ確実だということで、死因については不明ということ・・・ですか?」


 落ち着きを取り戻したラルクはミュラーとセレーナの説明を聞いて考えを整理しはじめる。

 どうやらセレーナが掴んでいたのは皇帝崩御の情報のみで、デュラン皇子等が帝都を出たというのは未把握らしい。

 ミュラーとしてもこれ以上は手持ちの情報を与えるつもりはないので、基本的には皇帝崩御を前提とした今後の対応について話し合う。


「健康を害していたわけでもないエドマンド皇帝が急死したとなると、急病、何らかの事故、そして暗殺等の可能性がある。その中で最悪なのが暗殺だが、問題はそこではない」

「どういうことですか?」


 ミュラーの説明にラルクが首を傾げる。


「皇帝の席が空いたとなれば、次に待っているのは次期皇帝の座に誰が就くかということだ」

「それは、継承順位からいってもアンドリュー様ではないのですか?」


 ミュラーは首を振る。


「そう単純なことではない。継承順位はあくまでも予定順位であり、絶対ではない。通常ならば前皇帝が後継者を指名することにより決定し、帝位継承に必要な聖剣、宝冠、国璽の三器を受け継いで正式に皇帝として認められる。今回のように次期皇帝を指名しないまま皇帝が崩御することもあるが、その際には継承順位を基準とし、三器を受け継いで帝位に就くが、ここで揉めることもある。例えば、グランデリカ帝国では初代皇帝から二代皇帝に代わる際に帝位継承で相当揉めた事実がある。その時には内紛にまでは発展しなかったが、時としては大規模な闘争になることすらあるんだ」

「そうしますと、今回もそのような争いが起きるのでしょうか?」

「その可能性はあるな」


 これで互いの情報のすり寄せは完了した。

 ここから先はそれぞれの対応を考えることになるが、ラルクは既に一定の方針を示してしまっている。

 エルフォードは基本的にはアンドリュー皇子寄りであり、対抗勢力として東方貴族が介入するとなればその勢力には与しないといったところだろう。

 アンドリュー皇子と東方貴族が手を組む可能性もゼロではないが、エドマンド皇帝の後継者筆頭とされ、東方貴族と距離を置くアンドリュー皇子ではその可能性は低い。

 つまり、エルフォード領主ラルクの選択肢は既に決まったも同然だ。

 後はミュラーの方針を示すか否かだが、これについてはフェイレスが判断した。


「我がリュエルミラは宮廷闘争に関与するつもりはありません。仮に武力闘争ともなれば、犠牲になるのは国民達です。そのような争いに介入するつもりはなく、あくまでも傍観者として自領と領民を守ることに専念します」


 フェイレスはエルフォードとは別の判断をしたリュエルミラの立場を説明する。

 敵対するつもりはないが、エルフォードに同調するつもりも無いことを明確にしたのだ。


「そう・・・ですか」


 リュエルミラの選択は予想外のことだったのだろう。

 僅かながら表情を曇らせるラルク。

 セレーナはこれ以上の話し合いはエルフォードにとって不利益であると判断した。

 少なくともリュエルミラがエルフォードと真逆の選択をしていないことが分かっただけでも十分な収穫だ。

 これ以上長引かせるとラルクがミュラーの説得を始めかねない。

 

「分かりました。エルフォードとリュエルミラ、異なる判断ではありますが、明確に敵対することではありませんね。それに、互いの選択が杞憂に終わることを望みます」


 会談を纏め始めるセレーナ。

 

「そうだな、つまらない宮廷闘争に巻き込まれてリュエルミラとエルフォードの間に溝ができては元も子もない。私としても、今後帝国がどのようになろうともエルフォードとは良好な関係を保ちたいと思う」


 立場は違えど、リュエルミラは今のところエルフォードに敵対するつもりは無いというミュラーの言葉にラルクの不安な気持ちが緩和された。

 そうなると、セレーナにしてみればこれ以上会談を長引かせるつもりはない。

 ラルクが余計なことを言い出す前に幕引きに取り掛かる。


「ありがとうございますミュラー様。互いの立場について情報交換することができ、大変有意義な会談でした。お互いに今後の準備もありますので、私達はこれでお暇させていただきます」


 そう言って立ち上がるセレーナ。

 ラルクはまだミュラーと話をしたい様子だが、盲目のセレーナが立ち上がって歩き始めては仕方ない。


「あっ・・・すみません、ミュラーさん、今日はありがとうございました。また会いましょう」

 

 慌てて頭を下げ、歩き出したセレーナを追ってその手を取り、エスコートするラルクを見送りながら苦笑するミュラー。


(女性のエスコートという面では主様よりラルク様の方が上手ですよ・・・)


 苦笑するミュラーをフェイレスは横目で見ながら思うのであった。


 ラルクの見送りをローライネに任せたミュラーは執務室で一休みする。

 そんなミュラーとフェイレスにお茶を持ってきたのはメイド見習いのパットだ。

 元々器用なパットらしく、配膳の作法もスムーズであり、最早見習いは卒業だろう。


「さっき来ていた男の子、本当に貴族の領主様なの?」


 ミュラーに対する口の利き方は相変わらずだが、ミュラー自身がそれを許しているので問題はない。


「ああ、ラルクは由緒正しい貴族で、れっきとした領主様だぞ」

  

 ミュラーの説明に首を傾げるパット。


「ふ~ん、何だか頼りなさそうだよね」


 正直な感想を述べるパットだが、的を射た意見だ。

 パットとラルクは同年代の2人だが、貴族の家に生まれ、ある意味で苦労することなく成長してきたラルクと、孤児としてコソ泥に身をやつして投獄され、領内の情報収集をして小遣い稼ぎをした挙げ句、領主の館のメイドとして就職するという波瀾万丈の成長をしてきたパットでは正に対極の存在である。

 そんなパットを見てミュラーとフェイレスは次の機会があるかどうかは分からないが、再びラルクがリュエルミラに来ることがあるならば、ミュラーにはともかく、他領の領主をつかまえて何を言い出すか分からないパットをラルクに会わせてはいけないと考えた。


 ラルクとの会談の数日後、遂に事態が動いた。

 帝国宮廷省がエドマンド皇帝の崩御を正式に発表したのだが、アンドリュー皇子とデュラン皇子が同時に自分こそが正統なる帝位継承者であると名乗りを上げ、グランデリカ帝国第5代皇帝即位を宣言したのである。


「予想以上に面倒くさいことになったな・・・」


 報告を受けたミュラーはため息まじりに呟いた。

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