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始まりの一報

 エリザベート等がロトリアに帰った数日後、ダンと共に南東の森に向かったフェイレスが戻ってきた。


「無事にダークエルフ達は南東の森に集落を作ることになりました」


 報告を受けたミュラーは感心する。


「他者との接触を拒むハイエルフ達がよく了承したな」

「特に問題はありませんでした。ハイエルフ族長のサンドラはそこまで頭の固い女ではありません。サンドラとダンで話し合い、ハイエルフは集落がある森の奥、ダークエルフは森の浅い位置に集落を作り、森を分割管理することで決着しました。分割といっても厳密に線引きしているわけでもなく、今後双方が協力して森を守ることになります。また、ダークエルフ達は主様に受け入れていただいた恩に報いるために労働や納税の責務を負うと申しています。そうしますと、ハイエルフとダークエルフの間に負うべき責任の差が生じてしまいますので、サンドラには納税なり労働の貢献度を上げるように申し向け、了承を得てきました」


 高潔なハイエルフを相手にかなり有利な交渉を纏めてきたフェイレスだが、その報告にミュラーが首を傾げる。


「ん?ハイエルフの族長のサンドラを知っているかのような口ぶりだが、フェイはハイエルフの族長と面識があるのか?」

「面識がある・・・という程ではありませんが、サンドラと私は同じ集落の出身です。同じ時期に私は探求者として旅に、サンドラは冒険者として里を出ました。私は世界中を旅をしましたが、数十年前にほんの少しだけ、冒険者を引退したサンドラが作ったあの里に立ち寄ったことがあります」


 フェイレスの物言いにミュラーが呆れ顔を浮かべる。


「同じ里の出なら面識あるどころじゃないだろう?」

「いえ、私は精霊を扱わず、この性格のせいか里の中でも特異な存在でした。里の者達とも馴染むことが無い私に何かと接触してきたのがサンドラです。私が聞き流しているにも関わらず、何が楽しいのか私の横で日常の他愛ないことを熟々と話していましたね」

「それは最早幼なじみや友人というレベルではないのか?」


 ミュラーの言葉にフェイレスが首を傾げる。


「私は別にサンドラの友人になったつもりはありませんし、互いに友人だと確認したこともありませんが?」

「友人というものはそういうものだ。いちいち宣言して友人になるわけではない」

「・・・?私には理解できません」


 フェイレスは更に首を傾げながら退室していく。

 そんなフェイレスを見送りながらミュラーは呟いた。


「フェイレスは優秀だが、肝心なところがズレているというか、抜け落ちているというか・・・」


 そんなミュラーの独り言を背後に控えるステアは澄まし顔で見下ろしていた。


(肝心なところが抜け落ちているという点においてはミュラー様も大概ですよ。本当に似た者主従です・・・)


 ステアは決して口に出さない。

 心の中で思っただけだ。


 その後、領内も落ち着きを取り戻しつつあり、ラルクとの会談を数日後に控えたある日、その知らせはミュラーの下に届けられた。


 その日はフェイレスが不在だった間、避難民に対する支援の計画立案を任されて過剰労働気味になったバークリーが福利厚生のレクリエーションをミュラーに要求してきて、バークリーの趣味だというカードゲームに付き合わされていた。

 執務室で机を挟んで向かい合うミュラーとバークリー。

 相手の手札を読み、手持ちの札で戦略を立てる知略と腹の探り合いに互いに賭け金を乗せるスリルを楽しむゲームだが、今日のミュラーはどうにも分が悪い。

 ミュラーの手の内がバークリーに読まれているようで、勝率が3割にも満たないのだ。

 

「ククッ、今日は随分と調子が良い。それともミュラー様の調子が悪いのですかね」


 机の上の戦果と手札を見ながら嫌らしく笑うバークリー。

 調子が掴めないミュラーの背後に控えるステアは無言でバークリーを睨みつけている。

 そんなミュラー達の傍らではフェイレスが事務仕事をしながらミュラーとバークリー、そしてミュラーの背後に立つステアを見て小さくため息をつくが、バークリーの福利厚生が目的ならば間抜けな主に余計な口出しをしようとしない。


 ミュラーの個人的な被害が深刻なものになりつつあったその時、クリフトンが1通の封書を持って執務室に入ってきた。

 クリフトンから封書を受け取って内容を確認したフェイレス。


「主様、バークリー、茶番は終わりにしてください。帝都に派遣している諜報員からの火急の知らせです。皇帝が崩御しました」


 突然の知らせにゲームの手を止めたミュラーだが、特に動揺はない。


「確かな情報だな?死因は分かるか?」

「まだ帝国からは公式には発表されていませんが、最大の重要情報として報告されたものですので確度は高いと思われます。死因については不明ですが、健康を害しているとの情報はありませんでしたので何らかの理由による急死であると思われます」


 ミュラーは頷いた。


「直ぐに皆を集めろ。今後の方針を決める」


 グランデリカ帝国皇帝エドマンド・グランデリカの突然の崩御の知らせ。

 帝国を揺るがす動乱の始まりの知らせだった。

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