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第2回リュエルミラ会談

 クリフトンに案内されてきたエリザベートは上品ではあるが目立たない平服姿で、同じく平服姿にサーベルを携えたシェリルを伴っていた。


「ミュラー様、急な訪問のご無礼、お詫び申し上げます。ちょっと内密なお話しがありまして、失礼を承知でお邪魔させていただきました」


 一応は謝罪の言葉を述べるエリザベートだが、悪びれている様子は認められず、まるで近所に住む友人宅に連絡無しにお茶を飲みに来たような、気軽な雰囲気だ。


「それは構わないが、何しろ『急な』おいでだ、何のもてなしも出来ないが、その点の無礼についてはご容赦願います」


 若干の皮肉を込めたミュラーの返答もニコニコとした笑顔であっさりと躱されてしまう。


「それは当然です。私もおもてなしを望んでの訪問ではありません。ただ、不躾ながら次の旅馬車の都合もあり、明後日までの滞在をお願いしたいのです。仮に館への滞在が無理ならば領都内の宿を紹介していただけませんでしょうか?」


 最初から断る選択肢の無い要望をぶつけてくるエリザベート。

 如何にお忍びでの訪問とはいえ他国の領主を一般の宿に泊まらせる訳にはいかないし、そもそもリュエルミラ領都には高い身分の者を受け入れ可能な宿は無い。


「いや、この館に滞在して頂いて結構です。直ぐに準備を整えます。それよりも、前触れも無く、身分を隠しての訪問です、余程の事情があってのことだと思いますが?」

「そうですわね。これからお話しする内容、まあお願いなのですが、これがリュエルミラとロトリアにとって吉となるか凶となるか・・・。私としてはお互いの利益になることを望んでいますが、先ずは私のお話しを聞いてもらえますか?」

「聞いてみるしかありませんね」

 

 突然のエリザベートの来訪に加えて館への滞在と交渉のテーブルに着く、2つの要求を飲まされたミュラーはエリザベートに先手を打たれっ放しである。 

 ミュラーとて交渉事や腹の探り合いは不得手ではないものの、先のリュエルミラ会談やローライネが押しかけて来た時のようにその相手が女性となると勝手が違うようだ。

 エリザベート相手ではミュラーでは些か分が悪い。

 そう判断したローライネは沈黙を破ってエリザベートを見据えながら口を開いた。


「ロトリア領主エリザベート様、ミュラー様と私の結婚の折にはお祝いを頂きましてありがとうございます。この度のご訪問、何やら重要な用向きがあってのことと思います。リュエルミラ領主の妻として、領主代行を担う立場として、そのお話しの場に私も同席させて頂きますわ」


 エリザベートに対してやんわりと釘を刺すローライネ。


(ミュラー様を手玉になんか取らせませんわ。ミュラー様を手のひらの上で転がすのは私ですのよ)


 やや斜めに刺された釘だが、エリザベートに対する牽制としては十分だ。


「そうですわね。お互いのためにローライネ様にも同席をお願いします」


 ローライネの意を正しく把握したエリザベートはニコニコした笑顔のままで快く同意する。


 そのような流れを経て非公式ながら第2回リュエルミラ会談が行われることになった。

 ミュラーの執務室の会議机に座るのはリュエルミラ側はミュラーとフェイレスとローライネ。

 対するロトリアはエリザベートとシェリルの2人。

 ミュラーとしては狡猾なバークリーも出席させたかったが、双方のバランスが悪く、対等な交渉にならないという理由でバークリー自身が辞退している。


「前触れ無く、このような方法を採ったというからには、互いに公にしたくない、本国にも知られたくない用件と考えてよろしいのですか?」


 ミュラーの問いにエリザベートは笑みを浮かべたままだ。


「そうですね。互いに本国には秘密・・・ですけど、どちらかと言えばグランデリカ帝国には知られるべきでないお話ですね」


 にこやかに話すエリザベートの雰囲気にのまれてはいけない。

 エリザベートはただならぬ情報を持ってきている。

 リュエルミラ側としては何の用件もないので、兎にも角にもロトリア側の話を聞いてみないことには始まらない。


「ならば単刀直入にお伺いします。今回のエリザベート殿の来訪の目的は?」


 エリザベート相手では分が悪いことを自覚しているミュラーは小細工抜きに切り出した。


 ここで初めてエリザベートは笑みを消した。


「1つ目は、近々発生するであろうグランデリカ帝国の内紛に備えてのことです」


 エリザベートの発言にミュラーだけでなくフェイレスもローライネも度肝を抜かれたが、辛うじて平静を保つ。


「・・・それは我が国内での問題だが、貴国には無関係、というか、ゴルモア公国とは関係が良好ではないグランデリカ帝国の混乱はそちらにとってむしろ好機なのでは?」


 エリザベートが握っているのはグランデリカ帝国の大事に関わる重大な情報だ。

 その情報を手に秘密裏にリュエルミラに来たとなればしらを切ることも、否定することも無意味だ。

 無意味であるからミュラーは誤魔化す選択肢を捨てた。


「ゴルモア公国にとっては好機ですが、リュエルミラ産の穀物を購入している我がロトリアにとってはそうではありません。故に私は本国の利よりも、自領の危機を回避するためにミュラー様に会いに来ました。今回の用向きは予測されるお互いの懸案事項について情報を共有し、懸念を排除することが目的です」


 エリザベートも自分の立場が危ぶまれる可能性すらある中で並ならぬ覚悟の基でリュエルミラに来たのだ。

 ミュラーも腹を決めた。


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