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突然の来客

 ミュラーの決定の下、リュエルミラは有事に備えて兵力増強を開始した。

 かなり強引に進めたため、領民達に若干の戸惑いは見られたが、徴兵ではなく志願者のみを募集したこともあり大きな混乱は無かった。

 しかし、領内の人手不足は改善しつつあるとはいえ、働き口に事欠かないリュエルミラにおいて、敢えて領兵になろうという者は多くなく、ミュラーが求める部隊編成までは相当な時間を要するにことになりそうだ。


「やはり思ったようには集まらないな」


 報告書に目を通したミュラーはフェイレス、バークリー、ローライネを前にため息をついた。


「まあ、いきなり6個中隊、数百名規模の増強ですからね、流石に短期間では無理もあります。ミュラー様もそんなことは分かっていて多めに見積もっていたのでしょう?現時点で2個中隊と少しの新兵が集まりましたが、新兵訓練の質を下げずに短期間で実戦化するにはぎりぎりの線ですよ」


 渋い顔のミュラーに対してニヤけ顔のバークリー。

 バークリーは普段からそんな表情だが、今の表情には理由がある。


「募集人員に魔術系の者が多くてお前は満足だろうよ」


 人員増強は進んでいないが、意外なことに志願者の中には魔術系の職の者が一定数おり、それらの者はバークリーの魔術部隊に編入されたため、バークリーの魔術部隊は分隊から14人編成の小隊へと増強されており、魔術小隊を預かるバークリーとしては自然と笑みが浮かんでしまうのだ。

 そんなバークリーを憮然とした表情で見るミュラーだが、ミュラーとしても魔術部隊の充実は望むところなのでバークリーのニヤけ顔に文句も言えない。

 そんな2人を余所にフェイレスは早々に領兵の再編計画案を作成している。


「コホン・・・新たに増強された125名の新兵についてですが、全てが剣士、槍兵として新兵訓練を施したので、80名を第2大隊、残りの45名を第3大隊に編入します。これで第2大隊の新規前線部隊の編成と、第3大隊の欠員補充は完了します。今後は騎兵、剣士、槍兵の訓練を行うと共に輸送や工作等の各種支援を行う支援部隊も編成し、第1、第3大隊の増員と、各隊への支援部隊を配置したいと考えています」


 フェイレスの説明を受けたミュラーは頷いたが、ふとあることを思い出してフェイレスに確認した。


「そういえば、志願者の中に神官や治療士がいたな」

「はい。イフエールとシーグルの神官がそれぞれ1名、治療士が3名です。彼等の配置はまだ決めていません」


 フェイレスの報告に10秒程思案したミュラーはフェイレスを見た。


「その5人はフェイの直属にしよう。只でさえ貴重な回復系の人材だ。各隊に固定配置するよりも、作戦によってフェイが直接指示を下したり、各隊に編入したりと柔軟な運用にしてみよう」


 ミュラーの提案にフェイレスは頷いた。

 

 このようにミュラーとフェイレス、バークリーが3人であれこれと話し合ってはいるが、同席しているローライネはミュラーの横に座って黙ったまま、自分の意見を述べることは殆ど無い。

 あくまでも自分はミュラーが不在時や領主の役目を果たすことが出来ない場合の代理であり、ミュラー等が決めたことに沿って領内運営をする立場であることを弁えており、会議で口は出さないが、その方針についてはしっかりと把握する必要があるということだ。


 この日、ミュラー達の打ち合わせは昼過ぎに始まって夕方まで行う予定であったが、予定していなかった来客により中断を余儀なくされた。

 

「ミュラー様、ゴルモア公国ロトリア領主のエリザベート様がおいでになりました」


 来客を知らせるクリフトンの言葉にミュラーは耳を疑った。


「なにっ?誰が来たって?」

「ですから、ロトリア領主のエリザベート様です」


 ミュラーは思わずフェイレスを見たが、普段は表情を変えることの無いフェイレスですら意表を突かれた表情を見せている。

 それも仕方のないことだ。

 ミュラーが治めるリュエルミラとエリザベートが治めるロトリアはランバルト商会を介してではあるが、穀物取引等を行い、互いに利のある良好な関係を結んでいる。

 しかし、それはあくまでも商取引でのことや、ミュラーとエリザベートの個人的な友好関係であり、互いが属しているグランデリカ帝国とゴルモア公国は交戦状態ではないにせよ、敵対関係にあるのだ。

 とてもではないが、気軽に行き来するような間柄ではない。


「確認するが、ロトリア領主のエリザベート殿が来たということだが、そのような予定や前触れはあったか?」

「いえ、そのような予定や連絡はありませんでした。エリザベート様も事前の連絡無しに訪問したことについては謝罪しています」

「それにしてもだ、エリザベート殿がここに来るまで国境警備の部隊や領内警戒の隊が気付かなかったのか?」


 ミュラーの疑問は当然のものであるが、クリフトンは渋い顔で答える。


「それが、エリザベート様は商人や旅人等が利用する乗合馬車で国境を越えられ、領都に入ってからは徒歩でこの館まで来られました。領兵の中にはエリザベート様を知らない者も多数おりますし、国境を越える際に必要な通行証もロトリア発行の正規なものでしたから仕方のないことかと・・・」


 ミュラーは頭を抱えた。

 確かにクリフトンの言うとおりではあるし、まさか敵対国の領主であるエリザベートが乗合馬車で来るとは夢にも思わない、全くの想定外だ。

 想定外であるにしてもエリザベートが誰にも気付かれずにミュラーの館まで来てしまった事実はあらゆる意味で大問題だ。


「まったく、相変わらずエリザベート殿は意表を突いてくれる・・・。とはいえ門前払いという訳にもいかないし、当然ながら遊びに来たわけでもないだろう。来訪の用向きも気になる。エリザベート殿をここに案内してきてくれ」


 ミュラーはクリフトンに指示した。


 予期せぬ突然の来客。

 非公式ながら第2回リュエルミラ会談が始まろうとしている。

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