第八話 人のぬくもりに触れた
~リィゼルの回想~
町の子供「あ…あっち行け!化け物!」
石を投げられた。
ひとつ…二つ…。
リィゼル「……」
町の子供「ひ、ひぃい!!」
少し振り返って見ただけなのに、石を投げた張本人の子供は恐ろしい怪物を見るような目でおびえて逃げ去った。
リィゼル(子供……)
もう久しく人のぬくもりに触れていない。
寒い。凍えそうに寒い。
リィゼル(誰でもいい、面と向かって何か…何か他愛のない、会話を…)
リィゼルの心は人のぬくもりを渇望していた。
町の人間からは嫌がらせを受ける日々。
誰も、誰一人彼女を理解する者は居ない。
~回想終了~
リィゼル「おじいさん、お名前は?」
ガー爺「ストロング・ガーディアン爺さん、略してガー爺さん」
リィゼル(それは…本名…では無いわよね?流石に)
若干、リアクションに戸惑うリィゼルだった。
フェルト「あ…私はフェルトといいます」
リィゼル「そう…フェルト、ガー爺さん?ヴァンシーから聴かされていると思いますが、私はリィゼル、薬剤師をしていた吸血鬼です」
ガー爺「ん?今もナウ、現役で薬剤師なのではないのか?」
リィゼル「少し前までは町に薬を卸したりもしていました…が、町での悪評が増えすぎてしまい、これは私にも落ち度があるのでしょうが、今ではどの家も門を開けてくれないのです」
ガー爺「ふぅむ、それはちと勿体ないのぅ、というかワシもドラゴンの心臓やらワイバーンの爪やら薬用素材が余っておるからポーションをこしらえてくれる薬剤師が欲しかったんじゃよ、ちょうどなぁ」
ヴァンシー「きゃははっ♪ポーションならご主人様つくるの得意だよ~!ねっ?リィゼル様~♪」
リィゼル「あ…あぁそうだな」
ガー爺「本当か?ではこしらえてくれんかのぅ?もちろん代金は払うぞ」
リィゼル「それは勿論かまいません」
フェルト(このご老体、さすが話の展開が早い…!)
長く生きていると交渉にも長けてくるのか…ガー爺はササっと仕事を取り付けてご満悦の表情。
ガー爺「それと、お前さんが望むならワシが町人との間に入って仲介役をやることも出来る。お節介ジジイが嫌でなければ、の話じゃが…」
何を隠そう、ガー爺は一級のドラゴンスレイヤーでガーディアンだ。
町人からの信頼は、それなりに得られるポジションでもあった。
フェルト「そっか、ご老体は見かけによらず立場のある方だから」
ガー爺「おぬしは毎回一言多いのぉ…」
ヴァンシー「キャハハハ♪フェルトとお爺さんってば、仲良し~★」
ヴァンシーが楽しそうにケタケタと笑う。
リィゼル「うれしい申し出ではあるのですが…もう少し考えさせて頂いても?」
ガー爺「あぁ、もちろん!全然急ぎじゃない。その調印は同盟の証でもある。いつでも連絡をくれ、ワシのフットワークは年の割におそろしく軽いんじゃ」
リィゼル「……ありがとうございます。ではポーションの作成に取り掛かりますね」
ガー爺「む?寝て起きてからでも良いんじゃぞ?もう結構遅いじゃろ…時計ないから解らんが」
フェルト「そうですね深夜です。町の方たちは殆ど寝ている時間ではないでしょうか」
リィゼル「私は夜行性なんです。吸血鬼なので」
ガー爺「おぉ、そうか。了解じゃ。それなら魔法鞄から素材を出すんで、少し待ってくれ」
こうしてお爺さんは腕の良い薬剤師を見つけることができた。
そして孤独な吸血鬼も、久しぶりに人間と会話をしたことで、魂に熱が灯った。
まさにwin-winの関係性である。