第六話 そういうもんじゃ無かろうが!
リィゼルはある日突然変異してしまい、吸血鬼となった。
自らのノコギリのような爪が嫌いだ。
化け物じみた犬歯も嫌いだし、老いない容姿はもっと嫌いだ。
まだあどけなさも残る美しい娘。
爪と牙さえ出さなければ、町を転々とすれば人間らしい生き方を出来るはずだった。
しかし、彼女は心が疲れ果ててしまい
そんな夢も抱かなくなっていた。
ガー爺(--ぬっ!魔力の篭った瞳!こんなものまで持っておったか!)
フェルト「ご老体!!」
ガー爺「なぁに、心配には及ばん」
リィゼル「何っ!?」
ガー爺はブルっと首を左右に振る動作をしたあと
キっと目の前の吸血鬼をにらんだ。
その目からは狂気の炎が消えていた。
リィゼル「……」
ガー爺「ワシはなぁ、様々な魔物を相手にしてきたんじゃ。
自らの心の狂気を完全に律することが出来なければお話にならんのじゃ」
リィゼル「そう…強いのね」
ガー爺「お前さんもな」
ガー爺はブンっと手にしていたハルバードを突き付ける。
リィゼルはすかさず身を翻し回避する……が
リィゼル「っは!?」
ガー爺「見えない鎖の円舞曲
ワシがただ武器をブン回すだけのジジイと思ったら大間違いじゃ」
フェルト(あれは…魔術?いや違う…もっと別の)
ヴァンシー「が…がんばって!おじいさん!!ご主人様をお願い!」
ガー爺「おうとも!」
ジャギギギギギギギギギ。
ハルバードの先端から光の鎖が伸び、リィゼルの身体を瞬時に巻き上げる。
目にもとまらぬ速さで、また常人には見切れぬ軌道で。
リィゼル「くはっ!」
ガー爺「おとなしくしてくれるか?あまり痛めつけたくない。
お主のことはこのヴァンシーからよろしく頼まれとるんじゃからなぁ!!!」
リィゼル「……っ!」
グっと脱力した吸血鬼は、いよいよその場に膝をつき
ガー爺・フェルト・ヴァンシーから囲まれる形になった。
ガー爺「さて!まずは茶でも出してもらおうかのぉ!」
フェルト「おじいさん、初対面で図々しくないですか?」
ガー爺「バカモン!建前じゃ!茶でも飲まんと場面が切り替わらんじゃろ!」
ヴァンシー「リィゼル様~~!!」
騒がしい客人に囲まれ、身動きもとれない女主人は
早々に抵抗の意思を折った。