第四話 ヴァンシーのご主人様
その後、ガー爺たちは大泣きしているヴァンシーをなだめて話を聞いてやっていた。
なんだかんだで実はヴァンシー、50年余生きているとのことで
少女の見た目だけどもオーバー50(フィフティ)のカテゴリに入っていました。
そんな話もさらりと流して本題へ…
ガー爺「つまり、おぬしのご主人様とやらはもう200年以上も自分の屋敷に引きこもってるという訳じゃな?」
ヴァンシー「そうだよぉ、リィゼル様はずーっとひとり。アタシもずーーーっとずっとひとり」
ヴァンシーが語る、館の主リィゼルの話はこのようなものだった。
ある地主の家に生まれた博学な女性リィゼルは薬学を修めるため、若き日に国外へ渡った。
そこで突然吸血鬼に変異してしまう。
家に戻り、家族に報告し助力を得て人間に戻る方法を探すも、見つかることはなく、家族は次々に寿命で逝った。
残った彼女の親族も、気味悪がり彼女の屋敷に近寄らなくなり
飢えと孤独が始まった。
親族から血を分けて貰えなくなってからは
町の人間でも理解のありそうな者に、薬学の知恵と引き換えで血を分けてもらった。
しかしリィゼルは魅了の力が強すぎた。
彼女にひとたび血を吸われた男は
家では妻を拒否し、何度も彼女の屋敷を訪れるようになる。
町では悪評を立てられ、元人間であるため直接の暴力は受けなかったものの、ありとあらゆる嫌がらせをされた。
ヴァンシー「それからもう、ご主人様は人間は誰も屋敷に入れなくなっちゃった!おしまい!」
フェルト「待ってください。吸血鬼にとって人間の血は必要なものなんですよね?だとしたらその女性は今はどうやって?」
ガー爺「うむ。ワシもそれを聞こうと思った」
ヴァンシー「魔術に手を出して、猫やイタチやカラスに今は血を奪わせにいってるよ。でも殺してない。ただ襲って少し血は出させてるけど」
ガー爺「うぅむ。おぬしがダーク・ヴァンシーじゃと聞いた時から予想はついていたが、悲しいことよのぅ…」
フェルト「人を襲う獣の噂は最近このあたりでも耳にしますね」
ヴァンシー「きひひひ……」
ガー爺「今はまだいいかもしれんが、いつかまたおぬしのご主人様を攻撃してくるやつも
出てくるかもしれんよな?そのために、おぬしも動き出したんじゃろ?」
ヴァンシーはコクリと頷き、そして窓の外のほうを指さした。
ヴァンシー「ずーーーっとあっちのほう、あっちの、町はずれがご主人様の屋敷があるところだよ。アタシは、人間を連れていきたいの!」
ガー爺「ワシでよければ行こうか?」
フェルト「ご老体!?」
ガー爺「なに、その吸血鬼とてワシのような爺さんの血は吸いたくもないじゃろう。じゃが話し相手くらいは出来るぞ」
その言葉を聞き、ヴァンシーは顔をぱぁああっと明るくした。
ヴァンシー「ほんとう!?」
ガー爺「あぁ、ワシは嘘はつかん。1回だけ隠し事ならしたことがあるが」
フェルト「一体どのような隠し事を?」
ガー爺「うむ。若いころにドラゴンの牙でパンツを作ったときに、それを着た姿を記念の残したくなってのぅ…町で有名な画家に頼んで肖像画を描いてもらったんじゃ。ちと高くついたので町からの魔物討伐用の支度金を使ってしまったが、しばらく秘密にしておった」
フェルト「牙でパンツを!?それは露出狂ではないですか?」
ガー爺「失礼なことをいうんじゃない。しっかりと覆って隠せるのがドラゴンの牙の利点じゃろう」
フェルト「よくわかりませんが…本当に変態ではないのですね?」
ガー爺「あぁ、ちょっとしたナルチシズムではあるが変態ではない」
ヴァンシー「仲いいね~二人、仲いい、きゃはは。ご主人様、よろこんでくれる!」
二人のやり取りを見て、ヴァンシーはケタケタと笑顔をみせた。
ガー爺「今日はもう時間も遅いが、今からでもお邪魔して構わないかの?」
ヴァンシー「もちろんだよ、ご主人様もアタシも夜のほうが起きてる。きっと、今もご主人様は屋敷でひとりで起きているよ」
ガー爺「そうか、それなら良いか」
フェルト「私も清潔な場所で体を休めることさえできれば、人造生命体としての最低限の機能は維持できます。屋内に入れていただけるのであれば、ありがたい限りですね」
ヴァンシー「うん…うん!お屋敷、リィゼル様の部屋のほかにも、部屋もベッドもいっぱいあるから!行こうっ行こう」
こうして一向は、町はずれの屋敷を目指すことに…。