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レンと狐の新生活 その1

少し暗い話ですが、時系列的にルシアとリューナの後にできなかったのでこうなりましたとさ。むむむ。

 わたしがその知らせを受けたのは今から一か月ほど前、そろそろ春服から夏服に衣替えしようかという時期。


 ララお姉ちゃんと同じく、冒険者だったわたしの両親も都市外のダンジョンへ遠征に出ていた。


 一人でも生活できるように最低限の家事は教えられていたから、わたしは一人で生活しながら学校に通っていた。父と母の担当をしている管理局のお姉さんも度々、わたしの様子を見に来てくれていたので特に問題はない。




 いつものように朝食を済ませて、さあこれから学校へ行こうとカバンに勉強道具とお弁当を詰め込んでいた。そんな時に玄関のチャイムがお客さんの来訪を告げる。


 いったい誰だろう、玄関のインターホンを確認するとわたしの知っているヒューマンのお姉さんが映っていた。


 苦しそうな表情にわたしの胸に緊張が走る。嫌な予感にどくんどくんと心臓の音がうるさく鳴りやまない。


「ロベルトさんとアイリスさんが殉職されました」

「えっ」


 心のどこかで想像していた嫌な予感が当たった。けど何も言葉も感情も出てこない。


 どうして――


「レンちゃん」


 固まるわたしをココさんが強く抱きしめる。これからどうしよう、一人になっちゃった。


 ダムが決壊するように溢れた感情がわたしの中を駆け巡り、気付いていたらココさんの腕の中で気を失っていた。




 それはわたしが小さな頃の思い出。ヒューマンの父と猫の獣人の母にわたしは育てられた。優しくて力持ちな父と手先が器用でわたしと同じ黒い耳が素敵な母。


「レンはマイペースね」

「猫族はあんなもんだろ」

「あらそれはわたしもかしら」


 ボールを投げてトコトコとそれを追いかける小さいわたし。蹴ったり投げたり、獣人のわたしならもっと機敏に動けるはずだけど、なぜかゆっくりと遊ぶ。


 小さなわたしは何が面白いのかな? 


 そんな懐かしい風景が突然遠ざかっていく。


「待って!」


 なぜか思い出せないけれど、わたしはそれを止めなくてはいけないと感じた。水中でもがく様に動かない体。手を伸ばす風景が点のように小さくなっていき、急激な浮遊感と共にわたしの意識も浮かび上がった。




「レンちゃん」

「ここは……?」


 わたしが手を伸ばした先は天井だった。今のが夢だったと理解したわたしは周りを確かめる。家のリビングのソファまでココさんが運んでくれたのかな。目が赤いココさんがわたしの手を握ったまま傍にいてくれた。


「あっ」

「思い出した?」

「うん」


 わたしがどうして眠っていたのか思い出した。さっき見た夢がわたしの空いた穴だったのかな。


「ココさんはお仕事いいの?」

「今日は休みにしてもらったから大丈夫」

「そっか、ありがとう」


 その日一日、ココさんはわたしと一緒に居てくれた。学校には寝ている間にお休みの連絡を入れてくれたり、お昼に食欲のないわたしにりんごを切ってくれたり、今思うと恥ずかしくなるくらい甘えていた。



「レンちゃんに3つ提案があります」

「提案?」


 夕食も一緒に食べたココさんは、ソファでぼーっとしているわたしに話を切り出す。真剣な顔をするお姉さんに今後の話をするのだとすぐわかった。


「ひとつはこの家でこのまま一人暮らしをする」


 一人という言葉にわたしは身構える。二人の帰りを待つのではない、本当の意味で独りになることがすごく怖く感じる。ココさんに「一緒に住んで」とわがままを言いたくなるがそんな無理を言って迷惑をかけたくない。


 そんなわたしの心情を察してくれたココさんが申し訳なさそうにしてる。


「えーっとね。私もレンちゃんと一緒に暮らしてもいいんだけど、今のうちの状況を考えると一人暮らしと変わらないと思うの」

「ダンジョンが大変なんだよね」


 遠征に行く前のお父さんからダンジョンが異常発生していることは聞いた。そのダンジョンを管理するお仕事をしてるココさんが多忙なのはわたしでも簡単に想像できる。

 ココさんが「それでもいいなら」と言ってくれた事には感謝しかない。


「次は孤児院に入る」


 最初の案に心惹かれながらも、きっとそれが一番現実的だと思う。でもコミュニケーションに自信のないわたしは馴染めるのか不安しかない。


「これは私のおすすめなんだけど、養子に入る。養子じゃなくて里親のほうが近いかな」

「ようし?」


 ようし…ヨウシ…養子! 思いもしない提案にわたしはすぐに理解できなかった。


 突然養子だなんて、わたしが理解できないことはココさんだってわかっていた。ココさんはお茶を入れながら、わたしがその意味を理解する時間をくれる。


「向こうのダンジョンでロベルトさんと一緒になった冒険者の方が引き取りたいと申し出てるの。信用のあるご夫婦だから、わたしも安心して勧められるんだけど」

「どうしてわたしを引き取りたいんですか?」


 前からの知り合いだったのかと尋ねるとココさんは違うと首を振る。なんだか不審な状況にわたしの表情も曇る。


「九尾と竜槍という通り名のSランク冒険者なんだけど、あちらで意気投合したみたい」

「あの有名な人ですか?」


 わたしの親もAランクの冒険者で世間では上位冒険者と言われてる。そのさらに上の、王国で二桁しかいないSランク冒険者。わたしには想像もできない世界だ。


「そう。アルフォンスさんとサラさんという方なんだけど、親バカ同士その……子供自慢で盛り上がったそうで」

「お父さん……外でそんなことしないで……」


 お母さんはそんなバカな事はしない。絶対、お父さんだ。


「でも会って間もないんだよね」


 お父さん達とSランクの人が出会ったのはそんなに期間はないはず。その短期間で子供を引き取ろうと思うのだろうか。わたしが疑問に思っているとココさんがそれにも答えてくれる。


「お二人とも長命種の種族だから、子供が生まれにくいらしくて。養子を取ってもいいんじゃないかって以前から考えていたそうなのよ」


 わたしがどうすればいいのか悩んでいると、取りあえず会ってみてはどうかとココさんが助言をくれる。


「会うって言っても二人ともダンジョンに遠征してるから、一ヵ月くらい先の話になるわ。だからその前にご夫婦の娘さんに会いましょう!」

「え?」


 後から聞いた話だけど、一人っ子のララに妹が欲しかったのと大家族に憧れていたってお義父さんが照れながら話してくれた。わたしにもいつか妹弟ができるかもしれない。


「明日、ここに連れて来るわね」


 こうしてわたしはララリナお姉ちゃんと出会うことになった。



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