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ララと仲間ととある日常 その4

 ダンジョンから戻った私達は、ダンジョンに隣接する施設でシャワーと着替えを済ませました。冒険者の出入りが多いダンジョンにはこういった冒険者向けの施設が併設してあります。血塗れの姿で街中なんて歩けませんからね。


 リューナとルシアはその施設の一つ、解体所へロニを連れて別行動になります。解体所は魔物の解体だけではなく買取所も隣接しているのが一般的です。


 なので管理局に買い取ってもらう素材は二人に任せて、私は錬金術師としての――いえ今日は店長としてでしたっけ? の用事を済ませることにしました。 


「こんばんは、シーナちゃん」


 私とレンはこの都市のダンジョン管理局の支部を訪ねます。夕方のこの時間帯に冒険者はほとんどおらず――依頼の達成報告はダンジョン傍の出張所でもできますので、一般の方がまばらに順番待ちをしています。


「ララさん! お待ちしておりました」


 今日は遅番の担当だったシーナちゃんに私は声をかける。私はいつもお世話になっている管理局の職員さんとの予定が会ったのでここに来たのです。


「ロイドさんは居るかな」

「はい! ララさんが来たら応接室へ通すように承っています」


 シーナちゃんは私がお店を開いた頃、ここの窓口の担当になった新人さんでした。カチンコチンに緊張する彼女に話しかけたのが、私達の出会いでしたね。今では堂々とした立ち居振る舞いをしているシーナちゃんに感慨深いものがあります。


 シーナに先導されて、私は辺りをきょろきょろしているレンと手を繋いで廊下を進む。


「そういえばココちゃんは今日はいないかな?」

「ココ先輩ですか? 今日の担当は終わったので帰っちゃいましたよ?」


 ココちゃんはもう帰ってましたか、レンが気にしていたので聞いてみたのですが残念です。レンも分かりやすくがっかりして、私に尻尾をすりすりさせている。レンには申し訳ないですが、頬が緩んでしまいます。


「課長をお呼びしますので、こちらで少々お待ちください」

「ありがとうございます」


 廊下を進んだ先の見慣れた扉の前でシーナは立ち止まり、一言断ってからロイドさんを呼びに来た道を戻っていきました。


 扉を開けて私達は中に入る。いつもの応接間でいつものソファーに腰を降ろした私は、慣れない場所に緊張しているレンに手招きする。


「いつもここに来るの?」


 応接間の調度品を観察したり、ふかふかなソファーの感触を確かめるレンが私に尋ねます。小さな声で「ララの尻尾のほうが良い」なんて言ってますが、私の尻尾はクッションではありませんよ。


「はい、うちの雑貨屋さんは冒険者と繋がりが深いですからね。師匠のこともあって課長さんとよくお話してるんですよ」


 私の師匠はお店を持たずふらふらと国内を観光気分で歩いてるので、お仕事の依頼をされるときは管理局も師匠と連絡を取るのも一苦労だったり。私は連絡が付きやすいということで課長さんに泣きつかれる事も多――たまにあって、持ちつ持たれつと言った長い付き合いだったりします。


「課長さん?」

「さきほどのシーナちゃんと同じヒューマンの男性で、私がお店を開くときにお世話になった商業課の方です」


 私がレンと話していると外から人の気配を感じます。私は戻ってきたシーナちゃんが淹れてくれたお茶をテーブルにおいて、扉の方を見る。


「待たせてすまないね」


 謝罪しながら入ってきたのは、私が会いに来た商業課のロイドさんでした。


 私は立ち上がりロイドさんに軽く会釈する。レンも私の挨拶を見て、急いで私の真似をして挨拶する。


「いえいえ。忙しい中、こちらこそすみません」


 忙殺という言葉では言い表せない疲労がロイドさんの顔に出ています。師匠に弟子入りした時から付き合いのある方ですが、こんなに疲れきった姿を見せるのは初めてです。


「こんな顔で悪いね」

「大丈夫なんですか?」


 私が心配しているのが分かったのか、ロイドさんは乾いた声で笑っています。そんなにダンジョンの異常発生は危険な状況なんでしょうか。


「大丈夫大丈夫。君が心配しているような事態じゃないから」

「そうですか。もしかして昨日から寝てないとか?」

「いや、ちゃんと寝たよ。仮眠程度だけど、今日の予定はこれで終わりだから。本当に大丈夫だよ」


 支払いはもう少し余裕のある時で私はよかったのですが、ロイドさんは真面目すぎますね。だからこそ信用もしてるんですけど。


「ロイドさんもいい歳なんですから体を労わってくださいよ?」

「私もそうしたいんだけどね、部下も死屍累々って感じでさ。ダンジョンの異常のせいで素材の流通が乱れちゃって、そこに昨日たくさん素材が入ったって情報が各社に入って大騒ぎ」


 なるほど、ロイドさんの隈はそういう訳でしたか。たしかに都市に滞在する上位冒険者が出払い、希少素材の数が減ったと聞いていましたが。そこに新星クランが上位ダンジョンを攻略したと聞けば問い合わせやらなんやらが殺到しますよね。ご愁傷様です。


「まあそういうわけで、支払いには希少素材も融通できるからこれに目を通してね」


 ロイドさんは持ってきた書類を私の前に置く。そこに書かているのは昨日使った医療品の支払いに使える素材のリストです。中には当分手に入らないだろうなと諦めていた物もあります。


「これ大丈夫なんですか? ウチみたいな個人店に優先しちゃって」

「それは昨日のクランのリーダーからお礼がしたいってお願いされてね。腕のいい錬金術師だって感謝してたよ」


 ロイドさんは「本当はこういうのはいけないんだけどね」と悪戯っぽく笑う。そういう事なら喜んで選びましょう。


 ふふふ、これだけあると新しいことに挑戦できます! いえ、まず使った医療品の補充を優先しないといけませんね。結構高価な物を使いましたから、気を付けないと赤字になってしまいます。あぶないあぶない、内なるキツネに従って興味心で動くところでした。しっかり黒字になるように選ばないとですね。 


「これでお願いします」

「――はい、たしかに」


 私が悩んで出した書類を、ロイドさんは口を押さえて受け取る。


「ララ、独り言が漏れてた」


 レンちゃん、そういう事はもっと早く教えてください。私は笑われた理由がわかって顔が熱くなります。


「ようやく一段落ついて肩の荷が下りたよ。入金はシーナ君に確認しておいてね」

「わかりました」


 ロイドさんはようやく仕事が終わったと肩を揉んでいる。


 素材に関しては後日、書類を持って管理局の倉庫で受け取ればいいので明日にでも行きましょうか。


「そういえばそっちの子はアルさん達が引き取った子かな」

「ええ、そうですよ」


 アル――私の父ですが――とも面識のあるロイドさんがレンを改めて見る。仕事が終わったからか疲れからか少し気が抜けています。


「レン=シンフォニアです」

「よろしくね、レンちゃん。私はロイド=エルリックです」


 テーブル越しに握手を求めるロイドにレンは恐れ恐れ手を出す。


「いやー、初々しいね。ララちゃんと初めて会った頃を思い出すよ」

「そうでしたでしょうか? では、ロイドさんも随分おじさんになりましたね」


 私の皮肉におじさんは勘弁してくれとロイドさんは降参します。


 私がロイドさんに会ったのは15歳で今のレンと同い年。当時のロイドさんは25歳で今が40歳。――なんだか複雑ですね。


「お父さん達の近況は聞いてるかな?」

「一応メッセージのやり取りはできてます」


 お父さん達が担当しているダンジョンは通信塔の範囲内だったので携帯端末で連絡を取ることができます。ダンジョン内ではさすがに無理ですが。


「なら近々攻略を終えて帰宅できることは聞いてるかな?」

「はい。問題が無ければ一週間前後で帰れると」

「助かるよー。異常が終わったわけじゃないけど数を減らすのには成功したからね。遠征してもらう上位冒険者の人数が減って、その分素材回収にマンパワーを回せるよ」


 どうやら状況は膠着状態といったようです。口が軽くなっていると思ったけれど、これは関わる人間が多すぎるので情報封鎖しても無駄と判断したのかな。


 ロイドさんも欠伸したいほど眠いみたいですし、お暇しましょうか。


「それじゃあ、ロイドさんもしっかり休んでくださいね」

「ん? ああ、気を遣わせたみたいで悪いね。お言葉に甘えて家に帰ってしっかり休ませてもらうよ」


 私はロイドさんにお礼を言って応接室を退室した。


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