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ララと仲間ととある日常 その3

 狼を全滅させた私達は戦闘音を聞きつけてさらなる襲撃が来ないか警戒しながら、後始末を始めました。


 魔物の解体は本職である二人に任せて、私とレンは周囲の警戒を担当します。けれど、魔物の解体が気になるのかレンがちょこちょこ余所見をして二人を見学してたりする。


 叱るべきかどうか迷いますが、勉強熱心なのは良い事です。お姉さんとして私がレンの分まで耳を働かせましょう。


 そんなこんなで二人は狼をざっくりと解体し、中型トラック一台分の容量があるロニの収納庫に収納すると探索を再開した。



「森のくまさん」


 ダンジョンの森の奥地に足を踏み入れるとドーム状の膜のような結界が視界に入ってきました。


「いやいや、レンさん? 童話のくまさんはあんな絶望的な見た目をしてませんからね?」


 ボスエリアとして張られた結界の外から私達は中の様子を窺う。初めてダンジョンのボスを見たレンが率直な感想を漏らします。


 腕が四本。鋭いかぎ爪を持つ、黒い小山が地面に寝転がっている。 


「余とリューナが戦うとしてララはどうする?」

「私ですか……」


 バーサーカーベアーと呼ばれる狂熊の脅威は四つの腕と巨体から繰り出される肉弾戦のみ。遠距離攻撃を持たず、強化スーツを着た冒険者に追いつける俊敏さも持っていません。巨体ですので足が遅いわけではありませんが。


「結界の傍で援護します」

「わかったわ。危ないと思ったらすぐに外に出てよ?」


 ボスエリアは入って一定時間経つと外から入ることができなくなります。ただし中から逃げ出すことは可能ですが。


「ボス前は魔物と遭遇しないし、他の冒険者が来ることもないわ。レンはここで待っていてね」


 リューナがレンに小さい子へ言い聞かせるように指示する。安全だと分かっていても不安なのでしょう、レンは私の尻尾を無意識に掴んでいます。


「結界越しでも近くに私がいるので大丈夫ですよ。何かあったら壁を叩いてください」


 私の言葉を聞いてレンが手を放して頷きます。


 ふふふ、レンのために私も全力を出しましょう!


「なあ、リューナ。ララがやる気を出しておるが、嫌な予感がするのは余だけか?」

「気のせいですよ。あっ、防御魔術は絶対に解いたら駄目よ?」


 二人とも失礼ですね! そんなルシアを巻き込むわけないじゃないですか。


 ……ちょっと本気で青の魔術を使うだけですよ?


「そんなに言うなら期待に応えるために狐さん、本気出しちゃう」

「一人で戦わせたほうがいいかしら?」

「ヤダナー、冗談ですよー。ちょっとニブルヘイムでも使おうかなって思っただけですよ」


 リューナも本気にしないでください。ちょっとしたフォックスジョークですってば。


「余が前衛はやだ! 絶対に前にでないんだから!」


 幼児退行するルシアはかわ――――、コホン。失礼、なんでもありません。


「だから冗談ですって、ちゃんとコキュートスに押さえますから」


 ニブルヘイムは広範囲凍結魔術を指し、コキュートスは部分氷結になります。分かりやすく言うと一面氷漬けにするか体の一部を凍らすかの違いです。


「これだからバカ魔力は嫌なの! 余の角にコキュートスもどきが掠って折れかけたの、まだ覚えてるんだからね!」

「あれは何度も謝ったじゃないですか」


 確かに一度制御に失敗してルシアの角にフリーズをぶつけましたよ? いえ、マナを多く使ってしまって若干コキュートスになりかけましたが。


 でも、嫌がる私を無理やりダンジョンに連れ出したルシアも悪いんです。


「いつまでも無駄口を話してないでボスを倒してしまいましょう?」

「わかったよぉ。当てたら絶交だからね!」

「大丈夫ですって。ルシア達とダンジョンに潜るようになってから魔術のコントロールにもしっかり力を入れているんですから」


 錬金術でも魔術を扱いますが、攻撃魔術を使うのは慣れていないんですよね。そもそもの所、魔力の高い私は精密なコントロールがどうしても難しい。


 お母さんも魔術面は結構大雑把に――。ぶるっ、なぜでしょう。私のしっぽの毛が逆立って……、これ以上考えるのはやめよう。


「ではいってきますね」


 心配そうに私達を見送るレンを一度抱きしめ、私達はボスの待つ広場に進入した。




「二人とも援護よろしく」

「下位ダンジョンのボスでも魔術は効きにくいんだからあまり無茶しないでね」

「マナフィールドの削りは私がやっておきます。射線には気を付けてくださいね」

「あいよー」 


 猪かくかと突撃するルシアにリューナが文句を言いつつも魔術を打ち込む。私はリューナの魔術が熊公に当たる前にありったけの銃弾を乱射する。


 このレベルの魔物になるとマナフィールドが障害となってくる。マナはあらゆる分野に活用される便利なエネルギーですが、その正体は判明していない。それは原子ではなく、運動エネルギーや電子に熱と容易に干渉する。それだけでなく人の感情にもなんらかの反応を起こす未知の存在。


 マナフィールドはその未知のエネルギーが集まった力場です。物理的なエネルギーを吸収する厄介な装甲なんですよね。竜人のドラゴンスケイルもこれに近いものと言われています。


 なのでマナを纏った攻撃で削るか、圧倒的なエネルギーを持った攻撃で装甲ごと潰すしかありません。


 カチッカチッ。なんてことを考えていたら撃ち切ってしまったですね。


「弾切れ! このままコキュートスに移ります」


 ビームを撃ちだす拳銃型の魔導具の弾薬パックが底を突きました。リロードするより次の手の準備をしましょう。


「『撃ち砕け! サンダーランス!』」


 リューナの雷撃の槍がボスに当たりますが効果はどうなんでしょうか。直後にルシアが熊と正面から殴り合いをしていますが、熊の動きが気持ち鈍いですかね。


「集中してるから、何かあったら教えて」

「わかったわ」


 警戒をリューナに頼み、私は自分の魔術に集中します。マナを流すだけで発動する魔導具と違って、自分のイメージを魔術にする魔道具は集中力も必要になります。遠くで鳴り響く金属と爪のぶつかる音が私を焦らしますが、魔術を形にすべくイメージを組み立てていく。


(それは全てを凍らせる絶対零度の魔術。お母さんが見せてくれたアレにはまだまだ程遠いけど、威力に関しては決して劣っていない)


 昔見せてくれた母の魔術を思い出しながら、私の魔術を紡ぐ。やりすぎないようにマナを抑えているが、私から発せられるマナで髪が波打っているのがわかる。


「ルシア! コキュートス行きますよ!」

「ひいー」


 そんな全力で逃げなくてもいいじゃないですか。まあそうなる気がして少し範囲を広めにしてたんですけど。


「『行け! コキュートス!』」


 狙うは脚。脚さえ奪えばルシアが止めを刺してくれます。胴体は売り物になる内蔵があったりしますからね。そもそもルシアが時間稼ぎに徹していたのは素材を無駄に傷つけないためです。


 減速を司る青のマナが収束し、私の手元から射出される。高速で撃ちだされたそれは熊の足元に着弾し、周囲を空気事凍らせていく。


「よーし。あとは任せろ!」


 私の魔術は見事に熊の両足を奪った。こうなってしまえば後は簡単。窮鼠猫を噛むではありませんが、手負いの獣に注意しながらルシアは熊の首を刈り取った。


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