ララと父竜のバーベキュー その2
家族団欒の休日が終わり、自宅に帰った私の前にはPCに送られてきた各所からの発注が……。嬉しい悲鳴ではあるけれど、泣きながらアトリエに篭る一週間でした。
忙しい合間になんとか葬儀に行って、レンに隈を心配されましたよ。その彼女も一時ホームシックで元の家に帰ってたりしてたみたい。
「お疲れさまでした」
私は自分のついでに淹れたお茶を父の前に置く。
「お茶か、助かる。そっちも仕事は大丈夫だったのか?」
地獄のハードワークを乗り越えた私に怖いモノはない。そんな謎なハイテンションで浮かれてた私に父から呼び出しがあり、また実家に遊びに来ていた。
「ええ、おかげさまで。遠征組が帰ってきた影響で一時的にポーションが枯渇してたみたい」
「俺も使った消耗品の補充しないとな」
「う……ぐぐ」
それが父の冗談だってことはわかります、だって笑ってますもの。でもこの一週間のハードワークが思い返されて変な呻き声が私の口からでる。
「しばらくは本格的に潜る予定はないから安心しろ。余裕のできた時に依頼するからな?」
「はーい。ご注文ありがとうございまーす」
ははーっと、私は頭を下げてそのまま畳の冷たさに身を任してしまう。
先週買った畳シートを敷いてみましたが、本物の畳は違いますね。癒し……最高。背後にも可愛らしい私の癒しが――。
「じー」
「どうしましたか」
背後から猫の視線を感じます。ただ振り返る元気はないのでした。
「マッサージする?」
「――お願いします」
疲れ果てている私にレンがマッサージをしてくれる。お尻を突き出した状態でうつ伏せに寝てたのを、そのまま足を伸ばして邪魔な尻尾をなんとか退ける。
「酷い恰好から、見せられない顔をしてるな」
「へんたーい、みないでくださいー」
やっぱりこの家は落ち着きます。
父とじゃれていると、キッチンで家事をしている母の笑い声も聞こえてくる。離れていてもお互い耳が良いので声が届くのです。
「まだ呼んだ用件を話してないんだがな」
「レンが寂しがってるから、お泊りに来いって事じゃないですか。――あふん、冗談ですのでお尻を叩かないでください」
私の冗談にレンがお尻を叩いて抗議する。ちょっとしたお茶目じゃないですか。
「はあ、それで宴会でもしたいんじゃないですか?」
「さすが俺の娘。身内だけでバーベキューでもやろうと思ってんだ」
「はいはい、お母さんと一緒に準備を手伝えばいいんでしょ」
さっきからキッチンで母が食材を切る音がしてますし、なんなら庭にバーベキューセットが設置されてましたが?
「それもそうなんだが、知り合いで呼びたい奴はいるか? ルシアちゃん達はすでに招待してるぞ」
突然のことですが、父が思い付きで始めたイベントなんでしょう。大きなお仕事が終わった後は、いつも宴会をしてるのでその延長線でのことだと思うけど。
「あの二人以外で呼びたい人ですか……、んん――?」
レンが私の背中に文字を書いてアピールしているのに気付いた。
そうですね、あの人も呼びましょうか。
「管理局の人も呼んでいいですか?」
「ロイド達か? あいつには色々世話になってたな」
……忘れてなんかいません。ええ、忘れてなんかいません。私はてっきり父が呼んでいたと思っていたのです、……飲み仲間ですからね。――ごめんなさい。
「おまえ、その反応は忘れてたな」
「そんな事ナイデスヨー。てっきり飲み友達のお父さんが呼ぶと思ってたんですよ?」
父が疑いの目を向ける。居た堪れなくなった私は早々に話を本題に戻す。
「私の友達を二人も呼んでいい?」
「構わんぞ、その程度なら誤差だからな」
「一体どれだけの食材を持って帰って来たんですか」
遠征終わりのバーベキュー。絶対ドラゴンのお肉とか混ぜて来るに違いない。ココが来ることが分かって、嬉しそうに尻尾に抱き着いてるレンには黙っていましょう。
これでココもシーナちゃんも仕事だったらどうしよう。
ルシアとリューナは新しい家で家具やら、実家に置いてあった冒険者道具やらの引っ越し作業中のはずです。明日のバーベキューまでに終わるといいのですが。
久しぶりに家族だけで過ごした休日の次の日。
事前に約束してたルシアとリューナ、それから父と母の友人達が我が家の庭に続々と集まってくる。
「久しぶりね、ララ」
「ココ! 仕事以外で合うのは一ヵ月ぶり?」
運よく、管理局の三人とも予定が空いてました。遠征組の冒険者が帰ってきて一週間前後、中休みのタイミングが丁度良かったみたいです。
「シーナちゃんとロイドさんもいらっしゃいませ」
「ララさん、ご招待ありがとうございます!」
「招待、ありがとう。アルさんの事だからとんでもない食材があるんだろ?」
「食べてからのお楽しみですよ。ただ来なかったら後悔するくらいの物ではありましたよ」
最終的に二十人程のお客さんを呼んだみたいで、私達の若者組と父の飲み会組に分かれてバーベキューセットに集まります。
「ララもそっちの組に運んでくれる?」
父はウキウキで大量のお酒が入ったクーラーボックスを運び、私も母に呼ばれて手伝いに駆り出される。
「アビーはお父さんのほうじゃなくていいよね?」
食材の入った皿をテーブルに置き、火の点いたバーベキューコンロの調子を確かめるアビーに話しかける。
ヘイルさんと一緒に呼ばれたアビーは一人こっちに混ざる。隣の組では彼女の父親であるヘイルさんが、私の父と母にこき使われながら食材を焼かされているけど。
ただ遊んでるだけなので適当なところで父が代わってあげるんですけどね。
「お酒はこっちでも飲めるからね。それにあっちは華がないわ、――へぷっ!」
生暖かい風を顔に当てられて、アビーから変な声が出る。華がないなんて言うから母のお叱りが飛んできたのね。
アビーはにこにこしてる母に向かってぺこぺこ頭を下げてる。たしかに向こうはいい歳のおじさんばっかりだからね。ちなみにシーナちゃんとココはこっちで、ロイドさんはあっちに混ざってます。
「たしかにこっちは女の子しかいませんからね」
私がコンロに視線を戻すと、ルシアは後ろからレンに抱き着きながら肉だけを網に乗せていた。二人とも目を輝かせてじゅーじゅーと焼ける肉に熱い視線を向けてる。ただでさえ暑くて熱いのによくくっついてられますね。
「二人ともお肉ばっかりで野菜を置く場所がないじゃないですか」
「最初はメインから楽しもう?」
メインであるドラゴン肉がこれでもかと乗せられた網に、リューナが文句を言ってる。野菜も良い物を買ってきてくれたんだけどね。――あっ、私はトウモロコシを所望します。
「次は魚介にしよ」
「バランスよく焼きなさい」
「「……はーい」」
レンもついさっきこれから食べるのがドラゴンのお肉だと知って、大興奮してる。他のみんなも少なからず興奮してか、顔がいつも以上に明るい。
あっちの組と違ってドラゴンのバーベキューなんて初めてだからね。
「そろそろ乾杯するぞ?」
「ええ、こっちも頃合いですよ」
向こうもそろそろ始めようと飲み物を注ぎ始めている。それを見てみんなも自分の飲みたい物を選んでる。
「レン用のジュースは分けてあるので、ここから選んでくださいね」
「わかった!」
今回お酒を飲めないのはレンだけなので、レン専用にジュースコーナーが分けてあります。なので誤飲することはありませんよ。
「それじゃあ、無事遠征を終えた事と色々忙しかったお疲れ会って事で」
「「「「乾杯!」」」」
ぷしゅっと気持ちの良い音を立てたお酒の缶を、私は豪快に味わう。
自然にぷはーっと歓喜の吐息が漏れる。行儀が悪いけど、宴会だからいいんです。
夏の冷たいお酒を心から味わっていると、ルシアとレンが焼けたお肉に手を出し始めていた。
「もいしい!」
「レン? 食べてから喋りましょうね」
さすがに口に食べ物を入れたまましゃべるのは駄目です。そうレンに言うと、喋るのを放棄して食べるのに集中し始めた。
間違ってはいませんが、折角のイベントなんですから……おしゃべりも楽しみましょうよ?。
「ララも早く確保しないと焼けてる肉がなくなりますよ?」
「もー! ルシアとアビーが食べすぎなんですよ!」
ココが遠慮して待っているシーナちゃんの皿にお肉を乗せている。もう一切れしか残ってないじゃないですか!
「どんどん焼いていくぞー」
「おー」
「私のトウモロコシも焼いてよ、ルシア!」
お隣はお酒で盛り上がっていますが、食い気で盛り上がる私達も女の子としてどうなんでしょうね?
「あなた達二人に任せてると駄目ね」
「あー! レンもっと肉を乗せるぞ」
「わかった!」
網の上で陣取り合戦を始めた三人を観戦しつつ、冒険者組以外の私達はお酒とお喋りで何か焼けるのを待っていた。
「今度は夏祭りに皆でいくのもいいですね」
「いいわね。課長! 今度お休み下さい!」
そう次の予定を呟くと、皆も頷き返す。休みが欲しいとココに言われたロイドさんは「俺に言われても知りませんよ」と、少し赤くなった顔で笑っていた。
とりあえず、ここで更新はストップです。
日常系は何故か筆が進まないのです。なんでだろ……引き出しが少ないからかな。
一応まだまだ書きたいネタ自体はあるので、書けそうなら続きを書くかもしれません。
明日からはハイファンタジーで三万字くらい?の短い短期連載しますよ。
ブクマ、感想、評価していただきありがとうございました。




