ララと父竜のバーベキュー その1
女の子だけの買い物を楽しんだ? 次の日。 端末に掛かってきた通話に出てから、母の様子がおかしかった。
「なんだか嬉しそうだけど、何かあった?」
「んー? まだ秘密でーす」
鼻歌混じりのスキップで去っていく母に私は慣れた様子で見送るが、レンは不思議そうに見てる。
まあ、私には大体想像がつきますけどね。
「とういう訳で、おかえりなさい。お父さん」
はい、そういう訳で父が帰ってきましたよ。ルシアと同じ赤い髪を短く刈り上げ、角は彼女より立派です。筋肉隆々ではなく、細マッチョな体型をしていて身長は凄く高いんですよね。
「サラが漏らしらのか? ただいま」
「わかりやすく浮かれてましたからね。見苦しいので落ち着いて欲しいのですが?」
母は心外だって表情をしてますが、いい歳した母のスキップは痛いですよ?
「ララは反抗期か?」
「そうみたいですね。ルシアちゃんの影響でしょうか」
わざとらしく目元を隠して、母はしくしくウソ泣きをしている。そんな大根芝居で騙される人なんていませんよ。
「サラさん……、余を反抗期扱いするのはやめて欲しいのだが。いつまでそのネタで弄られるのだろうな」
「サラさんに子供扱いされてる限りは無理でしょうね」
「一生だな」
「諦めてくださいということです」
リューナにトドメを刺されて、ルシアは廊下にどんよりとしたまま引き返していった。
「いつまでも待たせて悪かったな」
「ううん、レンです」
じっと父を観察していたレンは勇気を振り絞って挨拶する。それに父が豪快な笑顔でレンの頭をなでた。私や母とは違う感触なんですよね、お父さんの大きくてごつごつした手は。
「おう、よろしくな。俺はアルフォンスだ。同業には竜槍なんて呼ばれてるがな」
ちなみに竜槍の由来は相棒の武器からです。魔導仕掛けのランスで、中に仕込まれた魔術回路がドラゴンブレスのように火とか吹いたりするそうです。
「それで俺達が留守の間に何か問題はなかったか」
リビングに移動した後、久しぶりの我が家に胡坐をかいてリラックスしている父が私に尋ねる。
「突然父が養子を取った事でしょうか?」
家族で机を囲んで家族会議を開く。ルシアとリューナは少し離れた場所でお土産の一つを開けて摘まんでる
「可愛い娘だろ、問題あるか?」
「いいえ、ナイスですよ。お父さん」
「ロニさんのバカ。どっちも――みんな暴走するじゃない」
がっちりと握手しあう私と父、そして頷く母を見て、レンはロニに助けを求めるけれど今日もお留守番なんです。
「それで帰ってくるのはもう少し遅かったはずでは?」
「そりゃ、あんな写真が送られてきたらな」
「へっ?」
父の取り出した端末に写ってたのは、二日間のしゃいでいた私達の写真でした。ちょくちょく母が端末で撮ってたけど、父に送ってたのですか。それって自慢するためですよね?
「こーんこーん」
私がそう思って母を見ると顔を逸らしている。はい、その通りでしたか。
「そういうわけで無理やり管理局への報告やら手続きを終わらせて帰ってきた。レンの手続き関連は最優先で済ませてきたからな?」
若干不安な事を言う父に、母は一瞬眉を顰めるがレンの手続きさえちゃんとしてたら文句はないみたい。
「そっちで報告することがないなら、ちょいと真面目な話だ」
そう言って父は荷物の中から小さな箱を取り出す。
「ロベルトとアイリス殿の遺書だ。あとで落ち着いてから読むといい」
「はい」
レンは手渡された簡素な素材でできた箱を大事に抱きかかえる。冒険者なら遺書を残してる事も多い、特に攻略されていないダンジョンに入るなら尚更。
リビングには重く息苦しい空気が漂います。私とレン以外はみんな冒険者ですからね、思う所もあるでしょう。
「葬儀やらなんやらはこの一週間で済ませる。忙しいと思うが、疲れたら言ってくれな」
「ありがとうございます」
「ははは。付き合いが短くとも、一緒に酒を酌み交わしたダチだからな。これくらいはやらせてくれ」
こういう人だから友人が多いんですよね、お父さん。うちの常連さんの多くは、そういう繋がりで来てくださった方が多いですから。お店を開いて、初めて知った父の顔ですね。
「それとロベルト達の拠点をルシアちゃん達が使いたいんだろ?」
「そう、サラさんがちゃんとした拠点を持てって」
「俺も賛成だな。魔導具がある程度支給される野良ダンジョンの攻略と違って、こっちじゃ魔導具は自腹かレンタルだぞ。ロベルトの家もどうせこの近くで、ララの家も近いだろ?」
そうなんです。レンのお家も私の家も、実家もぜーんぶ管理局のある地区なので近いんです。久しぶりだったからテンションが上がって同居してただけで、二人が出ていくのも時間の問題だったと思うな。
「とりあえず移動中に契約書の原案用意したから相談して決めるぞ」
「さすが年の功、アル兄さんは頼りになるな」
「娘に良い所を見せないといけないからな。徹夜で書いてきたんだぞ?」
そう言って父達が固まって相談を始めた。そちらに私は関与してないので、母の横に移動して、その様子を眺めてます。
「お母さんは冒険者を引退する気はないの?」
「――まだまだ続けるわよ。Sランク冒険者が簡単に引退できないってのもあるけど、私達は覚悟を持ってこの仕事を選んだのよ。もちろん、アルもルシアちゃんもリューナちゃんもね」
「そっか……」
いつにも増して優しく凛々しい母の横顔を見ながら、私はずっとこの光景が続いてほしいと願った。




