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ララと母狐のお泊り会 その5

 喧嘩腰な母は男の人――ヘイルさんをおちょくる様に言い合っている。いや一方的に母が弄ってるだけですね。


「いいのか、あれ?」

「いつものことです。気にしないでください」


 作業場でお仕事中の技師さんたちは一切こちらを見ません。日常風景なので気にするのも時間の無駄だと悟ったのでしょうね。


 ちなみに工房の責任者であるヘイルさんは50代の男性。娘さんのアビーとは違って彼はただのヒューマンで、奥さんが兎の獣人さんなのです。本来なら煙草の似合う渋い男性なんでしょうが、母と父に遊ばれてる姿のせいでなんというか……。いじられキャラのイメージで固まってしまって。


「お母さん、遊んでないで紹介したら?」

「あら、そうだったわね」

「この親にしてこの娘有りか。どういう教育したんだ?」


 せっかく助け舟を出したのにヘイルさんったらひどいですね。けど私からは何もいいません、にっこりとほほ笑むだけにしときましょう。じゃないと――、やっぱり話が脱線しそうになる。


「あら、まだお話が足りなかった?」

「おかーさーん」

「はいはい」


 まだ遊び足りない母が渋々と、ルシア達をヘイルさんに紹介する。勝手に話を進めてるけどちゃんと了承は取ってるのかな。


「紹介されても今のうちじゃ、契約はできんぞ。いくらあんたからでもな」

「ほー。アンナとの間を取り持ってほしいって土下座するあなたに、クランへ推薦してあげたのは誰でしたっけ?」


 アンナさんはアビーのお母さん、つまりヘイルさんの奥さんです。お母さんったらそんな事もしてたんですね。


 母は私に「他にも上手くいくように、色々応援してあげたのよ」と耳打ちする。一体何をやらかしたんでしょう。


「それは感謝してる、だが、うちには既に契約してるクランもある。許容量以上の仕事は受けられん」

「仕方ないわね」


 ヘイルさんも職人さんですからね。中途半端な仕事になるくらいなら断りますよ?


「――私がやろうか?」

「アビーか……。お前は施設担当だろ?」


 助けの手を差し出したのはアビーでした。アビーの担当は主に防犯用などの設備設置とそのメンテナンス等々です。


「ワッツも私の代わりができるぐらいには育ってきてるし、私がそっちに関わってもいいでしょ?」


 冒険者の魔導具というのは魔導技師の腕がもっとも反映されるモノです。均一で使い勝手がほぼ固定された設置型の魔導具と違って、カスタマイズによって使い勝手が変わる冒険者の魔導具は繊細な技術が求められる。


「……そっちはどうなんだ」

「私達? ――どうしましょうか?」

「設置型をメインにメンテナンスしてただけで、冒険者用のメンテナンスも手伝ってるから問題はないはずよ」


 ヘイルさんに聞かれた母はそのまま、ルシア達に問い掛ける。友人の娘だからと、仕事を頼むなんてことはしない。命の掛かった道具に中途半端な事ができないのは皆もわかってるから。


 この中で仕事面での関わりがあるのは私だけですし、ちょっと手助けしてしまいましょう。


「うちのメンテナンスは丁寧にやってもらってますよ?」

「人格面で問題が無いのはいいが……」


 ルシアもリューナも迷っている。冒険者と装備のメンテを請け負う技師は対等な信頼関係が大切。母みたいに冒険者側が圧倒的に上を取ってる関係性というのも珍しいと思いますが、積み重ねてきた信頼がありますから。


「お試しに仕事を頼んだらいいんじゃないかしら?」

「こっちはそれで構わんぞ。こいつの経験が不足してる感は否めないが、技術については保証しよう。しばらくは俺らもサポートするしな」


 二人はそれならばとアビーに仕事を頼むことにした。


「さっそく魔導具の状態と使い勝手の確認をするから、試射場へ行こうか」


 メンテの為に連れてきたブルーから銃器の入ったケースを取り出し、三人は仕様を決めるために場所を移した。


「じゃあ、こっちはブルーにメンテしておいてほしいモノ全部入れといたから。あとはよろしくね」

「はー、また無茶振りか」


 ブルーのアイテムボックスを見て、ヘイルさんがため息を付く。二ヵ月ぶりのメンテですからね、現地で多少は手入れをしてもらっていたとはいえ、膨大な量が溜まってる事でしょう。


 ダンジョン遠征があると大量のポーションを供給しないといけない私も他人事じゃないですよ。


「別に期限は設けないんだからブラックな依頼じゃないでしょ?」

「遅いと文句を言うんだろ?」

「さあ、どうでしょう」


 母がヘイルさんにチクチク遊んでいるけれど、こちらにも流れ弾が刺さってくる。私は肩を落としているヘイルさんの肩――は遠いから背中に手を置き、励ましの言葉を贈る。


「ヘイルさんも頑張ってください」

「錬金術師の嬢ちゃんも分かるか」

「もちろん、期日前日なんて無くなればいいのに」

「突然の仕様変更もな」

「――うちは効果が固定なので、それはないですね」

「ちくしょうめ」


 レンと母は並んで私達に呆れている。別に漫才をしてるのではなく、社会の闇に憤ってるだけなんですけど?


 私とヘイルさんはルシア達が帰ってくるまで。モノ造りに携わる者にあるあるな話で愚痴を溢し続け、最後はアンナさんに一喝されて解散となりました。


 尚、アビーさんはルシア達の御眼鏡に適って専属契約となりました。無事にメンテナンスをしてくれる技師も見つけたので、ヘイルの工房を出て魔導具巡りをして私達は自宅に帰りましたとさ。

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