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ララと仲間ととある日常 その2

「うぅ、リューナ……。おかしくありませんか?」


 私はダンジョンの森でリューナに泣きつく。ルシアは羞恥心というモノはないでしょうが、リューナは私の気持ちを分かってくれますよね。


「ララ、我慢してください。強化スーツが恥ずかしいのはわかるけど、命には代えられないわ」

「それはわかってますよ――」


 分かっています。ええ、分かってますよ? 歩兵用アーマーや強化スーツと呼ばれる防具は体のラインがきっちり出てしまうボディスーツなのです。


 ミスリルを含んだ金属繊維で作られたボディスーツは全身に魔術回路が刻まれ、下級の魔物なら素手で勝てるほどの身体強化が可能です。


 そう、その身体強化が癖ものなんです。身体強化は体に密着する形でなくては効果を発揮しません。金属や皮鎧を着るのはデメリットしかありませんし、装甲を急所に張り付けるだけで十分な防御性能が得られてしまう。


 その上防寒、防暑とマナの消費さえ賄えれば環境適応能力も折り紙付きの高性能品。この優しくない見た目以外は。


 デザインが恥ずかしいからと、たまにしか使わないものにお金をかけて特注するのも勿体ないです。


「だいじょうぶ、ララはきれいだよ?」

「レンちゃん! ありがとうございます」


 綺麗と言ってくれるのはうれしいですが、それは私の尻尾ですよ? 抱き着いてるレンちゃんや。


「いい加減強化スーツに慣れたらどうだ」

「私がこれを着てまだ一ヵ月も経っていないんですよ!」


 師匠の元で修行していた頃は、現地で採取するなんてことは滅多にありませんでした。アーマーを着てダンジョンに潜るのは、二人では危険だと数えられる程度でしょうか。戦闘訓練は生身で多少してましたが、基本は銃と魔術の遠距離からのゴリ押しです。


「私を連れてきたという事は素材の回収が目的だったのではないですか?」

「わかりました! 素材を集めましょう! みなさん!」

 

 自棄っぱちな私はずんずんと森の中を進む。そんな私に犬型ロボットのロニから冷たい視線を感じます。ロボットの癖に。


「場所はこの辺りでいいだろ? 役割はいつも通り、余が周囲警戒。ララとリューナが採取。レンは私の傍で索敵を頼む」


 この役割は私達、幼馴染三人の性格を考えた時自然と決まったモノでした。知識の面で不安のあるルシアに必要な植物の発見は難しい。見つけても雑に採取して駄目にするのが目に浮かびますよ……。

 

 レンが索敵を担当するのは私より感覚が鋭いからです。採取を担当してもらうのはもう少し成長してから。目先の事に集中できるのはいいのですが、視野を広く見れないと危険ですからね。




 数時間の探索で何度か魔物に遭遇しましたが、ルシアとリューナの敵ではありません。さすがBランクの冒険者です。

 

 薬草の方ですが、沢山の群生地を見つけられました。ダンジョンでは絶滅を考える必要もないので、根こそぎロニのアイテムボックスに突っ込んでいきます。


「血止めに殺菌、こちらは汎用性の高い毒消しに使えますねー。希少な薬草はありませんが構いません、構いませんとも。値段の高い商品より消費の多い商品です。こんこーん」


 錬金術師にとってもダンジョンは宝の山です。ふふふ、これもあれも手間暇掛ければちゃーんと売り物になりますよー。


「リューナ、ララの目が欲望に淀んでおるぞ」

「ワタシ達があまり来られなかった五年で何かあったのかしら」

「シャラップ! 名家のお嬢様にはお店経営の大変さがわからないのです!」


 私のような命に係わる商品を扱う人間にとって信用とは文字通り死活問題です。師匠の元で修行し、錬金術師の免許を取ってお店を開いても最低限の信用しかついてこないのです! お客さんに使ってもらって初めて信用が生まれるのですよ!


「クローズドエリアは独占できるのでホクホクですねー」

「オープンエリアは助け合いも足の引っ張り合いもどっちも起こりえるからな」


 ダンジョンにはさまざまなルールがあるのです。その中にあるのがクローズドとオープンです。クローズドダンジョンは進入制限があり他の冒険者とマップが被らないダンジョンとなります。これは魔物との戦いがメインとなる試練型に多いダンジョンです。

 

 オープンはそういった制限がなく、共有のマップです。私は素材の採取がメインですので、フィールドの冒険をするオープンの多い探索型に潜ることが多いです。ルシアはリューナを連れて試練型に挑戦しているみたいですが。


「それでボスはどうする?」 


 探索型にはオープンが多いと言いましたが、当然例外があります。それがボスが存在する階層です。ここは次の層にいくには門番のボスを倒さなくてはいけない、クローズド階層となります。


「熊の素材ですか……。肝は胃薬、眼球は触媒、心臓は強心剤。どれも特に不足していませんが、管理局の買取ならそれなりのお値段でしょう。状態の良いモノなら」

「銃で戦うと素材の質も悪くなるからな。余なら首を落とすのは容易いぞ?」

 

 ルシアが背負う大剣をコンコンと叩いている。あれはルシアの家の所有する魔剣で、家宝とまでいかなくても業物に分類されます。


「そうですね。目標は十分に達成しましたし、ボスも狩っておきましょう。レンちゃんもいいですか?」

「わたしは見てるだけ?」

「もちろんです。ルシアに稽古してもらっていてもボスと戦うのはまだまだ早いです。今回はロニと一緒に見学ですよ」

「わかった」


 レンは不満もなく頷いている。レンのご両親の事を考えれば無茶な事はしないでしょう……。


 それよりも何か近づいてきてますね。レンも気付いて音の方を確認しています。


「ボスは良いですが、その前に前哨戦ね」

 

 私達の様子を見てリューナも敵が近づいてきていることに気が付く。


「数は4匹。足音は四足歩行で軽い――狼系ですかね」

「それならフォレストウルフだな。ボス前の軽い運動といくか」


 ここで現れる四足歩行の魔物は他にボスを除くと猪くらいですかね。足音の重量で考えれば狼一択です。 


「ララは魔術の用意だけお願い」

「わかりました」


 ルシアが大剣を抜き、軽く振り回す。その後ろではリューナが魔術の準備を始め、私も念のためにとマナを貯めていつでも魔術に移れるように備えます。


「見えたよ!」


 森の木々を避けながら狼がその姿を見せた。大きさは大型犬より少し大きいくらい、木と同化する茶色い毛を見て私は少し残念に思います。

 

 あの毛皮では高く売る事は難しいでしょう。白や黒の狼なんてこんな階級のダンジョンで出てこないですよね。


 ルシアは大剣を構えいつでもかかってこいとマナを滾らせる。


「ワタシが先手を取るわ!」


 リューナが左手の指輪型の魔道具を狼に向けて、魔術を解き放つ。


「サンダーアロー!」


 魔術に名前を唱える必要はありませんが、不意打ちを除きフレンドリーファイアを防ぐため魔術名を口に出すのが冒険者のマナーです。

 

 黄のマナで作られた雷の矢が後続二匹の狼を足止めする。正確に脚を打ち抜き、前後の狼を分断しました。


「ナイス、リューナ! さあ、余の牙を喰らいなさい!」


 ルシアの魔剣が赤熱する。炎を纏っているわけではなく、ただ内から熱を発しています。視覚的に地味かもしれませんが、素材を無駄に傷つけず火力を上げられる優秀な魔剣だと私は思うよ。本人はもっと派手な方がよかった言っていましたが、今は愛着がわいているようです。


 私が余計な事を考えていると、先行する狼二匹をルシアが横に真っ二つにしていました。

 

 竜人族の種族魔術であるドラゴンスケイルという鉄壁の防御があるからか、攻撃一辺倒な姿勢です。リューナ曰く、強敵にはちゃんと慎重に戦っているそうですから私からは何も言いません。


「お疲れ様」

「リューナ、ありがと。ナイスコントロール」


 リューナが足を射抜いた狼もルシアが首を落として襲撃を終わらせました。二人とも戦い方がスマートでカッコいいですね。


 私は火力で殲滅しかできませんので、もう少し戦い方を学んだ方が良いでしょうか。


「私達も解体のお手伝いに行きましょうか」

「うん」

 

 私は使わなかったマナをロニに補給して、レンと共に狼の解体に向かった。

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