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ルシアと幼馴染とお引越し その5

ストックが尽きたよ!――という訳でもう一つの方を明日から投下します。

「聖剣使いの神話喰い~チートな聖剣の扱いにはご注意を~」 が今考えてるタイトルかな。

 余達が狩ってきた食材をララに手渡すと、慣れた手つきでさらっと刺身にしてしまった。


 レンが来る以前からダンジョン都市に来たら、管理局のデータベースの魔物を眺めてなにを作ってもらおうと考えるのが余の楽しみであった。


 実家関係で良く知ってる冒険者仲間を誘って、ドラゴンを狩ってドラゴンステーキを作ったりもした。


 そんなララの料理が食卓に並ぶ。


「――美味しそう」

「そうでしょう! ルシアとリューナがダンジョンで取ってきてくれたんですよ」


 脂の乗った赤身刺身と貝にイカにイクラと、レンが目の前に並ぶ豪華絢爛な海鮮に目を輝かせる。こうまで喜んでくれると取って来た甲斐があるな。


「ありがとう! ルシアさん、リューナさん!」

「どういたしまして」


 レンは余の前でちょこんとお辞儀する。しかし、さん付けは距離感を感じるな。こういうのは形から入るべきか。


「レンよ、余らにさん付けは必要ないぞ」

「いいの?」

「うむ、呼び捨てで構わん。なあ?」

「私はお姉ちゃんでもいいんですよ?」


 余が二人にも賛同を求めるとララがお姉ちゃん呼びを提案する。それを聞いたレンが恥ずかしがってはいるが満更でもない。 


 ララは実際義姉だからおかしくないが、なんだが釈然とせん。余もそちらの方が良いぞ。


「ずるいぞ、ララ!」

「なんですか、私は姉であなたは居候でしょ?」

「ちゃんと家賃分働いてるじゃないか」

「バカ言ってないで歓迎会始めたら?……」


 余とララがバチバチと火花を散らしているとリューナの冷たい声が制止する。


「はい、わかりました。直ちに席に着かせてもらいます」


 余がララと並んでリューナに敬礼する姿を、レンが椅子の後ろで笑ってる声が聞こえた。


 ララも案外リューナに叱られる事が多いから、こういう癖が染みついている。


 リューナの目の笑っていない笑顔に急かされて、席に着く。歓迎会の音頭は主催者であるララが取るべきだろう。余がそう思ってララを見ると、それが伝わったのが頷いてコップを取る。


「それでは、レンがうちに来てくれたことを歓迎して――」


 ララの音頭に合わせて、余達はジュースの入ったコップを「乾杯」と突き上げた。レンがここにきて一週間程度経ったらしいが、これで一つの区切りになればいいのだが。


 余も冒険者である以上人の死に関わる事が少なくない。幸運な事に知人を亡くしたことはないが、レンがこのまま立ち直れる事を祈るとしよう。


 余は楽しそうに食事を盛り付ける彼女を温かく見守りながら、一族の神に祈りをささげた。




 余の心境を知らない三人は楽しく食事をする。レン(子犬)はララの乾杯(待て)が終わるとすぐ魚を口に入れる。お土産の非売品の醤油の味が気になってしかたなく、レンはずっとそれを見ていたからな。


「美味しいよ!」

「――この醤油は買えないのですかね」

「まだ販売してないって」

「……残念です」


 シロからもらった醤油が美味しいと三人が絶賛している。余も食べてみたが確かに美味しい。甘めの醤油に魚の脂が溶ける。さすが魚愛に走る猫、漁師会侮れない。


 正式に販売が始まったら必ず買うと、試作品だと聞いたレンとララが頷き合っている。


「レンは来年からどうするの?」

「冒険者になる!」

「ふむ、なら冒険者学校か。個人的に余が鍛えてやろう」


 この国では15まで義務教育でそこから自分が進む分野の学校に通うことになる。その中で冒険者向けに戦闘技術や知識を学ぶのが冒険者学校である。


 余とリューナは王都の魔導学園に通っていたがあそこは若干軍人に近いところがある。我らは軍人の道を蹴って冒険者になったがな。


「いいの?」

「構わん、なんなら余達のパーティに入るか?」

「ぐぬぬ、ルシアがレンちゃんを連れて行こうとしてる」


 どこからか取り出したハンカチを噛みながらララが抗議してる。よほど歓迎会に気合を入れてたんだな、色々小道具を仕込んでるんじゃないか?


「余のパーティなら活動拠点はここだぞ?」

「レンちゃん! ルシア達と組みましょう。いっその事、家も増築して――」


 ハイテンションなララの暴走は止まらない。手首がぐるぐる回るわ、軽く増築を決めようとするわ。これは余達が来たタイミングが良かったな。ロニだけじゃ、あの暴走は止められない気がする。


「アルさん達が帰ってきたら相談するんでしょ? 少し落ち着きなさい」

「いーやーでーす。レンはこのままウチで暮らすんです。こんこん」


 アル兄とサラさんが留守にしてそろそろ二ヵ月だったか。随分貯め込んでいたみたいだな、ララは昔から寂しがり屋であったな。


「わたしもここに居たいです」

「レンちゃぁぁあん。いいですとも、あの二人と戦ってでも勝ち取ってみせましょう!」

「いやいや、その程度で親子喧嘩なんて起こすなよ」


 感涙にむせぶララがレンに抱き着いているが、「その程度」と聞いてぎろりと余を睨んで威嚇する。


 レンは余達に借りてきた猫感があるが、ララには大分心を開いてるように見えるからな。あんな可愛い義妹に懐かれるのが羨ましい。


「そうよ。二人とも冒険者の依頼が忙しくてララに任せることになるんだから、少しくらい我慢してあげなさい」


 ララが子供の頃は極力日帰り以外の依頼を断り(断固拒否)していたが、さすがに今の状況でそれは通じないだろう。


「むむむ、そうでしたね。ただ、いざという時のために劇物の一つくらい――」 

「何を作るつもりだ」


 ララのあからさまな悪い顔。師匠の悪影響を受けてるな、あの悪戯小人め。まあ、根が優しいララじゃ高が知れてるでしょ。


「除毛剤?」

「恐ろしい事を考えるのはやめなさい」


 前言撤回。――ララが想像の斜め上を行く物を考えていた。


 実の親にそこまでやるのか? いや錬金術なら増毛剤で簡単に元に戻るなら取引としては有りなのか? いやいや無しだろ。


「ジョウダンデスヨー。そもそも商品としてもうウチで取り扱ってますよ?」

「売れるのか?」

「化学系の物と違って肌に合わないってことがありませんし、魔物皮の下処理用に業者さんへ定期納品したりしてますよ」


 以外な販路に余とリューナも素直に感嘆する。てっきり管理局や冒険者クラン向けの錬成品ばかりを作っていると思っておった。


「ララも色々やってるのですね」


 魔物の皮は動物とは違って化学的な薬品に抵抗するものがあるので、革細工の業界も錬金術師のお得意様だそうだ。


 その業界の人に依頼されて、人体に影響が少なくコストの安い物を開発するのが大変だったと愚痴を漏らす。


「そりゃ5年もお店をやってると色々苦労してますとも。業者さんに使ってもらうためにどれだけ試行錯誤したか。お薬を使ってないのに、私の尻尾に円形脱毛が――」

「わかった! わかったから、――もういいんだ、ララ」


 その頃のプレッシャーとトラウマを思い出し、ララが自分の尻尾を抱える。


 余が遊びに来た時に尻尾を頑なに隠していた時期があったが、あの頃か? 夏の暑い時期だったからトリミングにでも失敗したと思っていたが……。


 その後もララはお酒も入っていないのにもかかわらず苦労話が続いた。レンは生真面目にその話を聞いていたが、そんなもん余達が聞いてられるか。


 面倒になった余はワインセラーから良さげなワインを拝借して、リューナと一緒にグラスに注ぐ。


 それを見たララも文句を言うが、グラスを渡すとすぐにご機嫌になって一緒に晩酌にする。



 途中で寝落ちしたレンをベッドまで運び、三人で大人の時間を大いに堪能することにした。


 子供の頃からお泊りの時は三人で隠れて、朝までおしゃべりをしていた。この時間がずっと続けばいいのに、そう思っていた時間。それが今、実現した。


 あの頃より皆、ずっと大きくなったけれどね……。

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