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ルシアと幼馴染とお引越し その1

ルシアの口調をどの程度癖をつけるか迷っててごっちゃになっている場所があるかもしれません。

のじゃ口調にするか、ボーイッシュな感じにするか、女の子っぽさも出した方が良いのか。ルシアは今もキャラがブレるんだよね……。

 余の住む――いや拘束されていた王都から列車に揺られて一時間。空調の効いた車内とは打って変わって、暑苦しい野外に余の額にじわりと汗が流れる。


「づがれだー、あづいーー」


 列車の座席にずっと座ってて固まった体を、じりじりと照らす太陽の下で解す。


 余がこの都市に来るのも数か月ぶりか。ララに会えるのが待ち遠しい。


「ルシア、お腹が見えるから気を付けなさい」

「はいはい。さあ、ララのお店に行こう」


 幼馴染のリューナと共に、歩きなれた街並みをまっすぐに進む。


 相変わらず人が多いな、さすが王国有数のダンジョン都市。王都はもう少し整ってるというか淡泊というか。賑やかなほうが余は好きだ。


「ララには連絡を入れてるんですよね?」

「え? なんで?」

「……アポなしってバカですか」


 長い耳が下がってる、そこまで呆れなくても……。良いじゃないか、サプライズ訪問。


「どうせララはお店かアトリエにいるんだから、連絡なしでも大丈夫だって」

「親しき中にも礼儀あり、よ。留守だったら宿を探すところからかしら……。今からでも連絡したら?」

「余の気分はサプライズする気になってるから嫌」

「居なかったら知らないからね」


 リューナがぐだぐだ文句を言うが、そんなもの知らない。余は驚くララの顔が見たいのだ。




 余がララリアと出会ったのは実家の庭園だった。余の実家は十家と呼ばれる軍と政治において大きな影響力を持つ一族の中のひとつ。主に竜人族が集まる名家だった。


「リューナ、こっちこっち」

「逃げたら怒られるよ?」

「いいの。あんな酔っ払いの集まり」


 新年のお祝いに分家を含めて一族一同が揃った新年会。


 長寿で子供の生まれにくい竜人族の集まりだから、若い子供はほとんどなく数百歳越えが当たり前の爺さんばあさんばっかり。見た目はおじさん、おばさん程度だけど中身はアレだよ。


 エルフであるリューナがここにいるのは、余が無理やり連れてきたからだ。


 留守にしてる弟に憤慨しつつも、余達は誰にも見つからないように庭園へ逃げ込む。


「ここなら酔っ払いの爺どもにからまれない!」

「ちゃっかり食べ物はとってきてるんだもん……ね」

「ふっふっふ。リューナも余の戦利品を持ったんだから共犯でしょ?」


 宴会に並んでいた料理が山盛りの皿と、厨房から盗ってきたお菓子をポケットから取り出し庭園に広げる。子供の余にとって目の前の光景はお宝だった。


「それにしても爺どもめ、余を見つけるたびに頭を撫でようとしよる。余は幼子ではないぞ」

「お菓子を貰えるからってほいほい寄っていくルシアもルシアだと思うけど?」


 だって爺どもがくれるお菓子ってどれも高級品で美味しいんだもん。頬に空気とお菓子を詰めてリューナに抗議するが、ため息しか返ってこない。


「そっちはどうなの? 竜人と変わらないくらい年寄りが多いでしょ」

「エルフは竜人と違って落ち着いてるからね。でも子供扱いは変わらないよ」


 リューナのところのエルフも竜人と変わらないらしい。酔っ払いじゃないぶんエルフのほうが羨ましいな。


  余達が日頃の鬱憤と愚痴を漏らしていると、リューナの耳がピクピク動く。もしかして誰かが探しに来たか。


「人の声がする」

「追手?」

「追手ってなによ。寝息と寝言かな、女の子の声がする」


 先客が居たのかな。なんとなく気になって余は、興味がなさそうなリューナを無理やり立たせて音の方向を聞き出した。




「今日の客に獣人っていたっけ」


 竜仙花っていう色取り取りな花が咲き誇る庭園の中で、ベンチに狐の少女が一人で寝てる。


 少女を起こさないように余とリューナは小声で話しながら身を隠す。


「えーっと、たしか九尾のサラさんじゃないかな?」

「あー! あの尻尾がもふもふしてる冒険者のお姉さん!」


 分家のアルフォンス兄さんのお嫁さんが狐の獣人だっけ。九尾と言っても尻尾が九本あるんじゃなくて魔術の並列行使が得意だからそう呼ばれてる。


「じゃあ余の親戚だな」


 アル兄もサラ姉さんも宴会場にいるはずだけど、彼女はどうしてここにいるんだろう。警戒心が無くなった余はもう少し近くで様子を見ようと前に出る。


「――ちょ、ちょっとルシア。何をする気!」


 少しだけと思っていたけど、ふらふらとベンチに近づく。あのふわふわ尻尾の誘惑は余の正気を奪う蠱惑な危険物だな。


「ちょっとだけ、ちょっとだけだから。さきっちょだけ」

「何訳わからないことを言ってるのよ。手をわさわささせないで――」


 遠くからでも放たれてた傾国の魔性が、目の前にあるとさらに膨れ上がる。興奮を抑えて「ゆっくり、ゆっくり、優しく――」と呟いて真っ白な尻尾に触れる。


「にゃああああああ」

「ぎにゃあああああ」

「きゃああああああ」


 なになに! この人をダメにするもふもふ。思わず、ぎゅっと握っちゃう。顔を埋めてもいいですか。


 もふもふで暴走する余。尻尾を握られて飛び起きるララ。突然の大声に驚くリューナ。


 あまりの混乱にララはベンチの背に隠れた。当時15歳だった余、この日ララの尻尾狂いになったのだった。


「――誰!? 尻尾触ったのは誰ですか!?」


 尻尾を小さく丸めて、背もたれからぴょこんと耳を出しながら威嚇するララ。何この可愛い生き物。


 うちに持って帰ってもいいかな? だめ? いいじゃない、リューナも触りたい放題だよ?


「うちのバカが申し訳ありません」

「うむ、悪かった! が、素晴らしい尻尾だった! ――い、痛い。やめてくれリューナ」


 満足、満足と頷く余の頭をリューナが思いっきり叩く。


「どちら様ですか?」

「リューナ=ヒルデです」

「余はルシア=フリードだ」


 余達の名前を聞いてララは驚いている。まあ、ここにいる子供は一族の子供に決まっているんだけど。ララも一応名家の末席なのに、完全にそれが抜けてる。


「――私はララリナ=フォレスティアです」


 若干余に怯えていたが、沢山の知らない大人に緊張疲れしていたララは同い年の余達とすぐに打ち解けることができた。


「ララは錬金術が使えるのですか!」

「まだ弟子入りしたってだけで、少ししか錬金術を使ったことはないよ!?」


 余達が出会ったときには、すでにララはあの錬金術師に弟子入りしていた。


 本の虫であったリューナは、いろんな知識をスポンジが水を吸うように吸収していた。特に一般にはあまり情報がない錬金術には殊更に興味を持っている。


 けれど錬金術師といえば小人だ。なにせ錬金術は古代から奴らの得意分野であった。当然十家には錬金術に優れた“小人”の一族もいる。


 全ての小人がそうだとは言わないけど、基本やつらはちゃらんぽらんだ。常に何か悪戯をできないか考えてる種族、それが他の種族が持つ常識。


 そんな小人に子供で真面目なリューナが太刀打ちできるわけもない、それは本人も理解して会う前から苦手意識を持っている。


 その知的好奇心を満たすチャンスがララと一緒に出会うことになる。


「でも使ったことはあるのでしょう?」


 顔を赤くして興奮するリューナが珍しく、余は笑っている。そんな余にララが慌てて助けを求める。


「そうだけど――。るーちゃん、笑ってないでたすけてよー」


 そういえばこの頃はララに、るーちゃんって呼ばれていたっけ。大人になるにつれて今の呼び方になっちゃったけど。


 余達の両親が探しに来るまで、お菓子と料理とジュースを散らかしながら子供だけの宴会をしていた。その惨状に三人とも正座で怒られたのは今では良い思い出だよ。


 その後はララはダンジョン都市アバンパラディに帰ってしまった。でも、連絡先を交換してお互いの家に遊びに行ったりしている。


 こうして余とリューナは、ララの親友として十五年経った今でも付き合い続けて来た。


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