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初めてのデートの場合(下)

「いやー、ちょっと長かったけど良いもん見れたなぁ」

 何事もなく映画の鑑賞を終えて、ホールから出てきた浩太は伸びをしながら言った。

「ホントね。私はこのシリーズってレンタルでしか見たことがなかったけど、映画館でみるとやっぱり迫力が違うなって思った」

 京子も浩太の意見に同意した。すると浩太はちょっと嬉しそうな表情になった。

「そうだろ?まぁ京子の見たかった奴もいい映画だとは思うけど、今日はこっちの方が良かったよな?」

「うーん、あれはあれですっごく見たかったりもするんだけど、今日のところはそういうことにしておいてあげる」

 京子が見たかった映画というのは、こちらも最近封切られたばかりのアニメ映画で、重厚なストーリーと美しいCGが評判を集めている。同じ映画館で見ることが出来たのだが、朝一の放映がなく電車の時間との兼ね合いもあって京子のほうが諦めたのだった。

「じゃあ、また近いうちに映画を見に行くか?」

「そんなにお小遣いに余裕があるならね」

「それが問題だよなぁ……」

「出来ないことをそんな簡単そうに言わないの」

 そんなことを喋りつつ、二人は次の目的地へと向かった。

 二人のいた映画館は比較的大きな国道沿いに建っていて、周辺は開発も進み様々な飲食店や大型商業施設が立ち並んでいる。

 二人の次の目当てはその中で最近話題になっているラーメン店であった。

 その店の売りは野菜たっぷりの味噌ラーメンで、標準サイズで六〇〇円(税込み)という高校生でも手の出せる価格設定もあって、幅広い客層から支持を集めつつあった。

「……にしても、京子がラーメン推しだとは思わなかった」

「もうちょっとオシャレなお店も考えたけど、結局そういうお店っていいお金が取られちゃうでしょ?それなら、手頃で美味しいもののほうがいいなって思ったの」

「そうだな。俺もそんなに余裕があるわけじゃないし」

「でしょ?」

 店につくと、昼の混雑には一歩早い時間帯だったのか並ぶこともなく、すんなりとテーブル席に案内された。

 ほどなくお目当ての味噌ラーメンも届き、二人はラーメンを食べながら気楽なおしゃべりを始めた。

「京子は中間テストどんな感じだったん?」

「ん~?まぁ、ほどほどってとこかな……浩太は?」

「少し危ない教科もあったけど、なんとかしのいだ」

「気をつけてよ。一年生から赤点連続で留年なんて冗談にもならないわよ」

「分かってるって。今回はたまたま悪かっただけだから」

「本当に大丈夫かしら……?浩太って中学の時も得意と苦手がはっきりしすぎだったし」

「んなこと言ったって、苦手なものは苦手なんだから仕方ないだろ」

「だからって、苦手を放置していると後で辛くなるわよ」

「そういう京子はどうなんだよ?苦手な科目くらいあるだろ?」

「そりゃまぁ、苦手くらいはあるけど、私は苦手なものから必ずやるようにしてるし」

「面倒くさくない?」

「嫌だなぁ、とは思うけど、けどそこでやらないと後で余計面倒なことになるしね」

「そういう考え方もあるのか」

「浩太も必要以上に嫌がってないで、きちんとやりなさいよ」

「はいはいはい、気をつけますよ……っと」

 と、ちょうどそこで浩太がラーメンを完食した。

「早いね浩太。私なんて今ちょうど半分食べ終わったとこなのに」

「そうか?そんなに早食いのつもりもないけどな。男ならこれくらいだろ」

「男女の差って、やっぱりあるわね」

 残りのラーメンをすすりつつ、京子はしみじみと言った。

「京子はそういうの気になるのか?」

「それほどでもないけど、ちょっと前まではこんなに身長に差ができるなんて思ってもみなかったなぁ」

「そりゃまぁ、四年くらい前までは小学生だったわけだし」

「小学生の頃はそれでもまだ同じくらいの背格好だったけど、中学に入ってすぐくらいにはもう追い抜かれちゃって、今じゃ全然だし。それを考えると、ね」

「そう言われりゃ、小学校の頃は京子と俺って同じくらいの身長だったよな。今まで忘れてたけど」

「まぁでも、浩太がこれで今も私と同じくらいの身長だったりしたら、それはそれで少しがっかりだしね。浩太がおっきくなってくれて私は嬉しいわよ」

 そう言ってから、京子は残りのラーメンをすべて食べ終えた。

「そう言われると、何だか複雑な気分だな」

 浩太が神妙な表情でそう言った。

「何が?」

「いや、そうなるともし俺の背が高くなかったら、今こうやって京子と話が出来てなかったんじゃないかって、そう思っちゃってさ」

 京子はその浩太の言葉に一瞬戸惑ったような表情を浮かべ、すぐにいたずらっぽい微笑みを浮かべた。

「バカね。冗談に決まってるじゃない」

 そうかわしつつも、相変わらず真っ直ぐな浩太の思いを感じ取って、京子は内心とても嬉しかった。



 京子と浩太はラーメン屋を出たあと、近くのショッピングモールでウィンドウショッピングを楽しんだり、クレープ屋で思い思いのクレープを食べたりしながら、のんびりと二人の時間を過ごした。



 そして帰り道になり、浩太が「予定にないけど、どうしても寄りたい所がある」と言い出した。

「一体どこに行きたいの?」

「来りゃ分かる……っていうか、俺達の帰り道と同じ方向で行ける場所なんてそう多くないだろ?」

「まぁね」

 京子も薄々察してはいたが、何となく浩太の言う通りに動いていたい気分であった。

 そして、辿り着いたのは京子の予想通り、二人が通っていた小学校の前だった。

 休日の夕方ということもあり、当然だが中には入れない。

「懐かしいなぁ。全然変わってない……」

「もう卒業してから四年以上か……何だかんだで時間って経ってるんだな」

「そうね……考えてみると、卒業してから一度も顔を出してないけど」

「俺も……昼間に話をしてたら、妙に懐かしくなっちまってさ」

「浩太も意外とセンチメンタルよね」

「そういう京子はどうなんだよ?」

「私も人のことは言えない」

 そう言ってから二人とも顔を見合わせて、そして笑いあった。

 しばらく二人で夕日に照らされる小学校の校舎を眺めていたが、ややあってから浩太が妙に真面目な表情で京子を見つめた。

「京子」

「どうしたの、浩太?」

「この間言ったよな。俺、京子に頼りにされるような大人の男になるって」

「うん、しっかり覚えてるけど……」

「でもさ、よく考えたら、俺、もっと大切なことを言い忘れていたよな?」

「え……!?」

 京子は小さく息を呑んだ。浩太の眼差しは真剣そのものだ。

「今、ここでそれを言ってもいいよな」

「…………」

 京子はその言葉の意味するところを頭で慎重に吟味した。

 そして、頭の中で結論を出すと穏やかな微笑みを浮かべながら右手の人差指を浩太の口元にやってこう言った。

「……ダ~メ!」

「えっ!な、なんで……??」

 せっかくとっておきの言葉を言おうとしたのに露骨にはしごを外されて、浩太はとたんに情けない表情に変わってしまった。

「ダメダメ。そんな風に格好つけて決めようったってそうは問屋が卸さないんだから。そんな風に小細工してるようじゃ、まだまだ大人の男には遠いんじゃないの?私が納得行く状況になるまで、そのセリフは言わせないんだからね」

「んな無茶苦茶な……!?」

 自分で言いだしたことを逆手に取られた挙げ句に屁理屈に使われてしまい、浩太は不満たらたらといった表情を浮かべた。

「そんなに情けない顔しないでよ。今はまだ早いってだけなんだし」

「じゃあ、いつならいいんだよ?」

「さぁね?浩太の頑張り次第なんじゃない?」

 そう言って浩太を煙に巻きつつ、京子はスタスタと歩き出してしまう。

「さ、今日はもう帰りましょ。今日はありがとね浩太。またそのうちに出かけましょ?」

「くっそ~、マジで今に見てろよ京子!!」

 この間と全く同じような言葉を吐きつつ、慌ててこちらを追いかけてくる浩太を、京子は期待の眼差しで見ながら、こんなことを思っていた。

(そのセリフは、私だけの宝物なんだから……!)

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