01 使徒になりました。
不定期更新です。
僕、リオテレスは前世の記憶を持っている。
曖昧で、顔すらも思い出せないがそこで僕は確かに、失い、裏切られ、どん底で這いつくばり、早くして後悔しながら死んでいた。
物心ついたときからあるその記憶は、「覚束ない子供の考える妄想」などではなく、「現実」だという確信があった。
まあ、この際これがただの現実か否かはどうでもいい。
別に、言ったところでバカにされるだけのこの話を、誰かに言う訳でもないのだから。
自分で完結していればそれで済む話だ。
さて、僕は前世の僕に思うことがある。
馬鹿だな、僕。
そもそも失うまでにも、裏切られるまでにもきちんと過程があった。
そもそも前世の僕のコミュニケーション能力に難があった訳だし、それで他人を不快にさせたこともあったはずなのだ。
それなのに、それを改善しようともせず、失い、裏切られる時もただ傍観していただけで抗いもせず勝手に絶望していった...
正直あり得ない。これが僕だと認めたくないくらいに。
他人と割りきったらこんな人生もあるんだろうと思うことま出来るんだろうがそうもいかない。
記憶が断片的で、しかもついこの間思い出したことに感謝しなくては。
生まれたときからそのままの記憶があれば人格が変わっていたのかも知れないのだから。
僕なら絶対にこんなことにはならないし、しない。
これからぼくはこのアルカラ(前世の世界でいうところの「地球」ののようなもの)で生きるわけだが、これでも僕の前世なのだ。
やはり不安は残る。
前世の世界はなんと魔法がない。
その代わりに科学というものが発展いたけど、こっちの魔法とは矛盾する点がいくつか存在した。
こちらとは概念や物理法則も違うようなのでこの辺は使えるところは使っていこうとは思っているが。
これからのプランについて再考する。
大気中に存在する、魔力の源である魔素から生まれる魔物は人間の魔力を好むため、欲望のままに人を襲う。つまり、敵対関係にあるのだ。なかには自我のある魔物もいるらしいが。
それらを退治するのは主に冒険者である。この世界には冒険者ギルドなるものがあり、それらは各国とは独立した、世界中に広がる組織である。
世界中に影響力を持つ冒険者ギルドでランクを上げていけばそれだけ社会的地位も確かなものとなるため、平民の僕でも実力で成功することができ、かつ、自由なのだ。
ランクが上がれば色々と義務はあるらしいが王国の騎士団とかに比べれば大したことはない。
せっかく富、権力、名声を手にいれても、自由じゃないと意味がないしね。
だから僕は冒険者になってSランクを目指そうかな。
Sランクになれば、国から下級貴族と同等程度の権力は保証してくれるのに、これといった義務はない。魔物が攻めてきたときは国を守らないといけないことくらい。あと王家の依頼が来るとか。
その分、門はかなーり狭いけど効率よく努力すればなれる信じてます!
五歳、明日になれば「スキル」が得られる。そうなれば魔法に格闘技、剣術を父さんと母さんに教えてもらえるようになる。
もう楽しみで今日は寝られそうにない。これも部分的にとは言え前世の記憶があるからなんだろうか。
「ん?ここ…どこ?」
さっきまで王国辺境の村にある家のなにもない庭で、明日が楽しみで寝付けず夜空を眺めていたはずなのに、気がつくと、白いよくわからない空間と人?のフォルムだけのような、よくわからないのがいた。
「ふふっ、よくわからないのか。とりあえず説明するから、よく聞いてね」
さりげなく心読めますよ発言。
(なるほど。神的なあれかな?)
「正しくは管理者。便宜上そう呼んでくれてもいいよ。それにしても早かったね」
表情が読めないのでよくわからないが、少し笑ったように思えた。
(そりゃあまあ、このよくわからない空間に到底人とは思えない何かがいるんだし。そうだとしても別に不思議はないよ。それに、神様はいるって教わったしね)
「流石、適応能力が高いね。もう心が読める相手とのやり取りについていけてるよ」
(流石?それより、用件を聞きたいんだけど?こんなところに読んだんだから、なにか用があるんでしょ?)
「察しがいいね!そうだよ。簡潔にいうと、君に私の使徒になってほしいんだよね」
(ええ……いきなりそんなこと言われてもなあ。とりあえず、理由を聞いていい?)
「そうだね。君にその権利がある。とは言っても不干渉誓約で言えることはあまりないんだけど。今この世界、アルカラに魔王の誕生が近づいているのをしっているよね?」
(うん。母さんと父さんが話していたね。ちょっと遅いけど約百年が経って新たな魔王が誕生するらしい連絡が入ったって)
「そうそう。でね、これちょっと訳ありで、今回の魔王、実は元神様の生まれ変わりなんだ。十万年前に私に負けた僕と同じ最上位の。私のミスで転生させちゃって…だからかなりヤバめなんだよね」
内容の深刻さとは裏腹に、声のトーンはめっちゃ軽い。
(それが使徒とどう関係するの?あ、もしかして…)
「ふふっ、察しが良いね。そう、君に倒してもらおうと思って」
(だからなんでやねん!?魔王が誕生したら異世界から勇者が召還されるんだからその人にまかせればええやんけ!)
おっと、思わず変な口調に…
「はっはっは。まあそう言わずに、君は勇者が魔王に勝てそうになかったら信託で協力するよう言うから、とりあえずはひたすら強くなってくれるだけでいいんだ。
それに、この世界は強ければそれだけ有利なのは知ってるだろう?勝ち組人生になるのは君も望んでいたじゃないか。強くなって損はないし、行動も特に縛るようなことはしない。力も与える。ほら、いいことばかりだ」
(うーん、信用できないけど、ここから出るにはあなたに従うしかなさそうだしね。うん。飲んであげるよ。でも、魔王は倒せる保証はないよ?僕が戦うのはあの勇者ですら厳しいときなんだ)
「ああ、それは気にしなくていい。
君は人格、素質、遺伝子、環境、あらゆる面で判断して君を選んだ訳だし。
今から直接力も授けるからしね。スキルはランダムだけど、もうすでに確定しているよ。スキルに関しては管理者が決めるんじゃなくて世界が決めるんだ。管理者は事前に確認できるだけ。
どうなるかはわからないけど、これで勝てなかったらすっきり諦めるよ。新しくやり直すこともまあ、出来ないこともないしね」
そんなおっそろしいことを言って僕の頭に手をおいて、よくわからないエネルギー?みたいなものが注がれるのがわかった。
(うん。特に力が沸いてくるわけでもない。というか何か変わったこともないような…)
「君に、スキルと合わせて疲れる異能と私の神気を限界まで与えた。これで君は正式に僕の使徒となったよ。神気は今は感じることもできないと思うけど、確かに備わっているから安心して。おっともう時間切れだ。じゃあ最後に1つだけ。戻ったら頑張って耐えてね」
「は?」
ど、どういう意味だ…?
「では、貴方に波瀾万丈になるであろう(願望)新たな人生に、幸(笑)多からんことを」
(ちょっと待って――――――)
最後まで言い切る前に僕はまた、元居た場所に吸い込まれるように戻っていった。
絶対楽しんでるな…
不定期更新です。