プロローグ2
光が収まるとそこは山の中であった。まだ日も高い。
11年前のことだから、山のどの辺りにいたかまでは覚えてないけど、記憶が確かなら麓にはたどり着けるはずだ。
登山装備ではないけれど、私の全身は付与魔法で強化されているので大丈夫だろう。
体も軽いし1時間程度で下山できた。
まずは、近くのコンビニで日時の確認だ。時間のずれがあるといろいろ面倒だしな、ずれてなくても面倒だけど…よし!といってもいいわけではないけど、こちらでも11年経っている。
では、身分証がないので警察署だろう。捜索願いがでているかもしれないし、現金もない。ひとまず近くの交番で、事情を話すしかないだろう。信じてくれるといいが…
ちなみに現金はないけど、換金できそうな宝石類を残った私財から持ってきたので、身分証さえどうにかできれば当面は生活できるはずだ。勿論、魔法で隠しているよ。
交番の場所はひとまずコンビニで聞き、最寄りの交番に駆け込み神隠しの件を話した。お巡りさんは二人いて若い方は信じていないようだったが、年配のお巡りさんは、私が神隠しにあった際に、捜索隊として山へ入って捜索してくれたらしく、そのことを覚えてくれていたので助かった。少し大きな警察署まで送ってくれることになり助かりました。
警察署に着いた私は、改めて説明し、捜索願いが出されていることも確認できた。実家へ連絡し確認もしてもらい、私も少し話させてもらった。実家の母は泣きながら無事を祝ってくれたが、迎えにこれる距離でもない。とりあえず実家には帰ることを伝え、運転免許の復活を署員に相談したけど、すぐには無理なようだ。調書だなんだと1日拘束され、次の日には病院での検査、カウンセリングをうけようやく解放されたのは夕方だった。異世界で過ごしてましたと、どちらでも答えたけどこれは信じてもらえなかったようで、苦労した。
当然だけど、以前住んでいた賃貸は引き払われているし、銀行印もないし、職場は解雇されてる。全くお金の宛がないのでどうやって田舎まで帰るかと考えていると、どこから聞き付けたのか、新聞記者と、雑誌記者が現れたので旅費程度のギャラが出るならばとインタビューを受けることにした。テレビは来ないのかと思ったけど目立ちすぎるより良かったとも言える。
そうして電車やバスを乗り継いで、実家にたどり着いたのは帰還から4日後の昼間になった。
両親や祖父母、近くの親戚等に迎えられ、無事を喜ばれた。ちょっとした飲み会へと突入し、私の好物や久々のビールに少し涙が出た。これからのこともいろいろ相談したが、暫くは実家で過ごしながら手続き等を済ませ落ち着くことにした。
帰ってきたとはいえこのままニートになるわけにもいかないしどうしたものだろうか。せっかく習得した付与魔法を遊ばせる訳にもいかないが、公表するのも憚られる。
悩みながら過ごすこと数日。田舎に残っていた友人と話したり、地方新聞を読み漁ったりしていて気になったのは、急激な過疎化だ。少年時代から深刻であったのだが、このまま見過ごしていいものかと考えるようになった。幸いなんとかできるかもしれない力を手に入れたのだから、故郷への恩返しをなんとかしたい。
今さら企業勤めも何か違う気がする。残りの人生を故郷の発展に注ごう。私は決意した。
決意したからには行動あるのみ。友人の親が村議をしているということで、改めて現状を聞いてみると、思ったよりも深刻だということがわかった。毎年年寄りは数十人亡くなっていくし、子供は数人しか増えない。人口は2000人を割り込み、目立った産業もない、議員の成り手もおらず、20年もすれば消滅もあり得るとのことだ。
こうしてはいられない。自重している場合でもないだろう。私が救うのだ。この村を!魔物の驚異ではなく、人との争いでもなく、村おこしのためにこの力を使おう。