ショートショート「臨死体験」
作中に説明が無い場合はN博士とW君の二人が登場します。
N博士:発明家。
W君:N博士の助手兼モルモット。
「W君やちょっと死んでみないかね」
「N博士、ちょっと一杯飲みに行こうみたいな雰囲気で、物騒なことを言わないで下さいよ」
「いやなに人間は死ぬ瞬間に脳内麻薬がドパーっと放出されて、頭の中がお花畑状態になって、最高の快楽だと本に書いてあったんじゃ」
「だからって臨死体験はないでしょう」
「何事も経験じゃから」
「失敗したら二度と何も経験できなくなるような実験はやめましょうよ。そもそも気持ちよかったかどうかって、客観的にどうやって判断するんですか」
「チッ」
「チッって、聞こえるように言わないで下さいよ」
「仕方ない、老い先短いワシが実験台になろう」
「えっ、博士が自らなんて珍しい。でも、僕じゃ操作手順は分かりませんよ」
「自動化されとるから安心せい」
「測定用のこいつを被って、身体に電極をつけて、この薬を飲めばお花畑へレッツゴーじゃ」
「いやいや、レッツゴーって一緒に行くって意味じゃないですか」
「まったく細かいのう、ノリじゃよノリ。では本当に行ってくるぞ」
「往生する方の逝くじゃないでしょうね。自殺幇助で訴えられるのは嫌ですからね」
「うぉ、はぁはぁ、ふぅぅ」
「博士、無事でしたか」
「ここは。あぁ、なんじゃ、そうかぁ、そうじゃったな実験じゃったか」
「どうでしたか」
「すばらしい、幸せと思える感覚が全身の細胞一つ一つから発せられておった。これは、すごいぞ。もういつ死んでもいいわい。
ただ、これは危険じゃな。封印した方がいいかもしれん」
その夜。
「博士があんなに興奮するなんて、封印する前に僕もちょっとやってみていいよね」
翌朝。
「W君やっちまったか。だから危険と言ったのに。あの幸福感が強すぎて、戻ってきた瞬間のガッカリ感ときたら、臨死体験の世界に戻りたくもなるわな。
何度も臨死体験を繰り返して、戻ってこれなくなったか」
あとがき
バッドエンドな話です。
死ぬ瞬間は、苦痛を紛らわせるために脳内麻薬がドパドパと放出されるらしいですが、実際はどうなんでしょうね。そんな話をメンタリストDaigo様がYouTubeで紹介していたのが、ネタ元となっています。
最初の6行まで書いてから、一月ほど放置されていましたのですが、気分を変えて博士が実験台になったら、すんなり最後まで書けました。話が書ける時はそんなもんです。
なぜか、W君と書くつもりがK君と書いていることがあります。K君って誰だよと、自分でツッコミを入れてしまいます。私のイニシャルでもないし、別次元の私の意識が流れてきているのでしょうか? 謎です。
そんなわけで言っておきますが「K君、お前に出番は無いわ!」。