006
「ほらほら邪魔よ! 私の華麗なテクニックで追い抜いてあげるわ!」
「楓先生もうちょと安全運転で!」
「何を言ってるのよ! 車の運転は攻めてこそ面白いんじゃない!」
楓先生は俺が乗り込むやアクセル全開で、前に走る車から通行人まで無理やり割り込み追い抜いていく。
それでも一向に事故る様子はない。
何度もぶつかりそうになるが、全く持って車にかすりさえしない。
「大丈夫よ! えっと」
「雲気霞です」
「雲気君ね! 覚えたわ。大丈夫よ! 私は免許取ってから君にぶつかった以外無事故なんだから! だから雲気君この事は秘密よ!」
それで安心できるわけない気がするが。
自信に満ち溢れたその言葉に思わず信じそうになる。
「ほら見えてきたわ! 教師用の駐車場よ!」
「って! なんでアクセルで加速するんですか!」
前方100メートルほど先に駐車場らしきものが見えると楓先生がアクセルで加速。
思わず声が出る。
「何って、駐車する時は加速した後の急ブレーキ停車が刺激的で面白いじゃない! 口閉じといて舌噛むわよ!」
キキージャリジャリと急ブレーキ音と駐車場の砂利が大きな音を立てる。
運がいい事に駐車場はガラガラそのまま斜めに駐車場に侵入。
駐車スペースのある車と車の間に結構なスピードで進行方向を正し直進。
「どう私のドライビングテクニックは?」
「凄いですけど。ちょっと……」
心の中だけ正直に言おう出来れば二度とごめんだ。
「じゃあここでいいわよね? 私は職員室に行かないといけないから! 後一応保健室へ行ってね! じゃあまたね雲気君」
「大丈夫です楓先生」
そういって速足でかけていく楓先生をしり目に、楓先生の車の先端を覗き込んだ。
あと数センチで壁にぶつかる程度の距離で停車していた。
まさに神業だ。
そんなこんなで俺は学校へ向かう。
俺の通う学校北川高校は大して有名はないが、ここら一帯の高校では一番生徒数が多い。
そのため部活動がやったら多いのが特徴だ。
部になっていない同好会を合わせればほぼすべての生徒は同好会か部に参加している。
当然一年である俺もだ。
暫く歩くと北川高校が見えてきたので、校門を通って下駄箱へ急ぐ。
自分の下駄箱を開けると。
どさーと何枚もの手紙があふれ出てきた。
「はぁ……またか」
一応全ての手紙の表を確認し、近くのごみ箱へ捨てた。
「雲気またラブレターもらったのか?」
「斎藤分かってるくせに嫌味は止めろ!」
「悪い悪い厄除けの雲気さん」
このおちゃらけている男は斎藤俺の悪友だ。
容姿は短髪の可もなく不可もなく普通としか言いえないような印象が薄い奴だ。
そのキャラづけのためこんなおちゃらけているのだ。
「何度言うが、俺に他人の不幸を肩代わりする力はなっぶ!?」
斎藤と会話しながら上履きに履き替えようとして盛大にすっころんだ。
周りの連中がざわめきだす。
言っている事は簡単に予想できる。
俺が手紙の送り主の不運を肩代わりしたとかそんなところだろう。
本当に俺にそんな力はないのだが……。
いつの間にか俺に手紙を出せば不運を肩代わりしてくれるそんな噂が学校中に広まり、いつも下駄箱は手紙で一杯だ。
それが目的で手紙を俺に出す連中は厄除けの雲気などと書いているので一目瞭然。
本物のラブレターである確率は皆無だ。
すっころんだが、鼻血はでていない。
楓先生は保健室に行けと言っていたが、大丈夫だ。
不運に会い続けるには体のコンディションが大事。
いつでも万全の状態で不運に耐えられよう。
コンディション管理はばっちしだ。
「大丈夫か雲気?」
「大丈夫だっばあ!?」
後ろからの衝撃でまた転んで顔面を強打。
「いったーい」
後ろから可愛らしい声が響く。
またか。
「それはこっちのセリフだ! 鮎川!」
「えへへへごめん雲気っち!」