遭遇
とばしてる〜
俺は家から出て5時間ほど森を走っている。
バンプの身体能力は高い、俺自身父さんに鍛えて貰うまで知らなかった。
「そろそろ魔物と会ってもいい頃なんだよなぁ」
俺は短槍を片手に森を走っている。槍は父さんが昔冒険者時代に使っていた槍を貰った。
父さんは母さんの眷属になってからは自身の血で槍を作れる様だ。カッコよかった。
「あれ俺もやりたいなぁ〜 でも俺のスキルが魔力領域を占めてるから出来ないし。
まぁいいか、父さんから貰った槍使いやすいし」
父さんは二本の槍をくれた。槍といっても特殊な槍で刃が大きい。棒の先に短剣でも付けたのか?と思うほどだ。
今持つ漆黒の短槍は全長が1mほどで刃が40cmほどある。剣としての運用も可能との事だ。
背負う金色の長槍は全長1.5mほどあり刃が50cmある見かけだけなら斬馬刀が近いが刃の幅は槍なので棒より少しだけ大きい感じだ。
父さん曰く
これはモンスターが体内で合成したもので形状の都合で私以外使えない槍だったそうだ。
「でも使ってみるとしっくり来るんだよねこれ。まぁ剣技と槍技両方うまくなきゃ使えないけど」
剣技と槍技は根本的に異なる。身体の運びが違うからだ。父は私にこの武器を使う事前提の修行をした。もはやこの槍達は身体の一部の様に扱える。
そんなこんなで走る事15時間やっと街道に出た。さてと街道を右って言ってたな。
しかし、左から血の匂いがする。獣の血の匂いでは無い、恐らく人だろう。
「どうすっかなぁ、とりま見に行くか?
でもバンプバレするのとかマジ勘弁だしなぁ」
しばし考える。
「はぁー。行くか」
血の匂いがする方向へ走る。
そこにはでっぷりとした腹の男が息絶えていた。身なりはかなりいい、貴族か商人かどっちらかだろうと思う。
その少し先の馬車の周りには無残な死体の山
皆ボロボロの服を着た男女の死体が転がる。
そして生きている男女を襲う魔物、大きな体の黒い狼。ヘルハウンドだ。父さんとの修行でよく倒したが、一般的にはAランクの魔物だ。何でこんなとこにいんだよ!
「面倒くさいが! とにかく死んどけ、犬ッコロ!!」
俺は一瞬で距離を詰め短槍を剣の様にしてなぎ払いヘルハウンドの喉元を切り裂く。
怯んだところに心臓のある場所目掛けて短槍を突き刺した。
漆黒の短槍に貫かれヘルハウンドは生き絶える。
「誰か!生き残りはいるか!」
俺は声を張り上げた。
「た、助けてください!お願いします!」
声は死体の山の中から聞こえた。
急いで死体をどかすと金髪の少女と銀髪の少女が血で濡れていた。
「大丈夫か?何があった?」
少女達を助けた後、二人以外の生存者なしだった事を確認して近くの川まで来た。
血を流すためだ。
俺は大きな岩の後ろに座り、少女達を見ないようにしながら話を聞いた。
体を流し終わった二人を連れてその場を離れる。血の匂いは魔物を引き寄せる。
「助けて頂いてありがとうこざいました」
「気にすんな、成り行きだ」
金髪の少女は礼儀正しくお礼を言う。
銀髪の少女は喋らない。
二人の顔は瓜二つである、双子なのだろう。
金髪の少女から話を聞いた事をまとめると
この子達は奴隷であのデブ男が商人、デブ男が気に入らない奴隷を縄に縛り馬車で引きずり回してたらヘルハウンドが来て襲われた。
「その男バカなの?この森は魔物の宝庫だよ
そんなとこで餌引きずっていたら襲われるわ」
俺は実に呆れた。
少女達も憤りを感じているようだ。
他の奴隷達は若かったこの子達を守って死んだようだ。
「これからどうするの? 故郷に帰るの?」
「私達に故郷はありません。奴隷の町で生まれて奴隷として出荷される... それだけです」
少女達こそ本当の意味で途方に暮れているのだろう。俺は持っていた食料で飯を作り彼女たちに渡した。
「いいのですか? 私達に貴重な食料を使ってしまって...」
「大丈夫だ、気にせず食いな。せっかく可愛い顔してるのにそんなガリガリじゃもったいないだろ?」
「可愛くなんて... ですが本当にありがとうこざいます!」
少女達は美味しそうに食べた。銀髪の子も笑っている。人助けも捨てたもんじゃ無いな。
「それより名前は?」
「私が1025 この子が1026です」
「それ番号じゃない?名前ないの?
俺はアトラスよろしく」
「よろしくお願いします、アトラス様
私達は製造された製品なので個体番号はあっても名前はありません」
「...コクコク」
銀髪の子が反応した。
「そっか、じぁ俺と一緒に来るか?
行くあてないんだろう?」
「よろしいのでしょうか?」
「大丈夫、でもこれだけは言っておかないといけない。俺はバンプだ。」
少女の顔に動揺が浮かぶ、少し怯えている。
世間ではバンプをどう認識してんだよ!
「バ、バンプと言うことは...私達は食べられてしまうのでしょう...か?」
「いや、食わんから!バンプが血を吸うのは契約の時だけだから」
少女は困惑している。バンプは人食いらしい。
いやいや、おかしいだろ!人食う要素ないよ
「ですが私達も他に道はありません...
どうかご主人様!...食べるなら私だけにこの子には手を出さないで下さい!」
「ダメ!お姉ちゃんを食べないで!」
銀髪の子が泣きながら懇願してくる。
俺悪くないよね?
「大丈夫だから!バンプは人食べないから!」
「ほ、本当?」
「あぁ食べるならさっきの死体の山の食べるだろ?あんなの食いたくもないわ!」
「...信じる、ご主人」
何とかバンプの誤解を解き二人と話す。
二人は一先ず奴隷として俺に使えるらしい。
俺は奴隷じゃなくていいと言ったのだが。
奴隷として生まれた私達です奴隷としてしか生きて行けませんよ。との事だ。後で解放してあげよう。自由がないのは辛い。
「ひとまず分かった。とにかく君達に名前をあげよう」
「そんな、もっないないですよ。
私達などお前で十分ですよ。」
「ご主人何でも言って、出来る限り頑張る」
やはりこの子達を見て思った。物じゃなく人として生きて欲しいと。
「いいや付ける、これ命令な!金髪の子が
アリシア 銀髪の子がユーリだ!」
「アリシア...」
「ユーリ...」
二人は自分の名前を噛みしめるように呟く。
そして俺の前に跪くと言葉を紡ぐ。
「「私アリシア(ユーリ)はご主人様(ご主人)を主人とし、この身この心の全てをあなた様に捧げ死ぬまで尽くす事を誓います」」
そう言い終わると彼女達は俺の手を取り口づけをする。
俺の手の甲には金の紋章と銀の紋章が刻まれた。彼女達の胸の中央部にも同じ紋章が見える。
「これは?」
「一部の高級奴隷は主人の専用の証をつける隷属を使う事ができます。まぁほとんど無理やり使わされての隷属ですが」
「...今回は、私達の意思で隷属したよ。
ご主人!ユーリ頑張る」
「分かった。じぁ君達の体調が良くなったら忠誠に答えよう。ひとまず今日は休みな。
これ布団ね、警戒は俺がやるからゆっくり休むこと。命令ね!」
「はい、ありがとうこざいますご主人様」
「あ、ありがとう。ご主人!」
しばらくして彼女達は寝た。
明日は頑張って町目指してみるか。
そんな事を考えて夜は更けるのだった。
ありがとうこざいました