4話~サル顔との遭遇~
行くあてもなく歩き続ける信長と犬千代。
「ホントに目的もなくブラブラするだけですか?」
「さっきも言ったがブラブラするのが目的だ」
とても偉そうに上体をそらす信長。
「じゃあどこをブラブラするんですか?」
「ココでブラブラしてるじゃないか」
キレてもいいと思うぞ…犬千代。
「では若はどこの市に行くつもりなんですか?」
キレなくていいのか?
「どの位置に行くかは俺の気分と足次第だな」
キレろよ!!めんどくせぇよ信長…
「では港へ行きましょう。外来品も出回っているかも知れません」
「いや、でも俺の足がこっちへ…」
「こっちですぞ若ぁ!!」
「ぉ、おぉ…」
ナイス犬千代!!信長がしんなりしてるぞ!!
移動中…
スタコラサッサ♪
いや、あの…すみませんでした…
「いやぁそれにしてもいつも栄えてますねぇ、この港は」
「無論だ。爺ぃの港だからな」
訳が分からないので補足をすると、信長の祖父、先代の織田家当主は尾張にあるこの港に目をつけた。
投資を繰り返した結果、信長の父・信秀の代で実を結び、爆発的な経済成長が起きた…
今では尾張の中心部、清洲の町にも活気では引けをとらない市場にまで成長しているのだ。
「信秀様の連戦連勝は、この港の経済力があったからでもありますしね」
犬千代の家は小さいながら自分の領地を持っている。
なので戦をするにもただついて行くだけでなく、莫大な資金が必要なのが身に染みてわかっているのだ。
そのせいか、ちょっとケチでもある…
「さぁさぁ、針のゲリラ販売始めるよー!!」
どこからか元気のいい声が聞こえてくる…
声の正体を確認すると、耳のデカい少年が麻を敷いて大小の針を並べていた。
「見ろよ犬、ガキが針売ってるよ」
「確かに…妙ですね。10にも満たない子どもが1人で行商とは」
つぶやく2人を尻目にチラホラ人が集まってきた…
「三河武士の鎧から頂戴したありがた~い鉄は尾張の鉄とは強度が違う!!」
「鍛えた針は尾張の針の1.5倍の耐久力を保証!!」
「なのに値段は尾張の針の7割!!お得度は2倍!!」
「更に今回、購入と同時にお渡しする保証書を次回持って来れば、壊れた針を無料で新品と取り替えるサービスまでつけちゃおう!!」
次々と売り文句を叫ぶ度に、ポンポンと面白いように売れていく針…
「口が上手いな、アイツ…」
「えぇ、それにただ叫んでる訳ではないみたいです。あれ、見ててください」
「コレください」
「お目が高い!!、お母さん、さてはプロですね?お子様に練習用もどうですか?長い針の半額でお売りしますよ?」
「まぁ…じゃあ短い針も3本ください」
「ありがとうございます!!お子様方が短い針を卒業したら、また来て下さいね。その時には昔の針と半額で長い針と交換しましょう!!」
「あら、わるいわねぇ。ではまた…」
「ありがとうございました!!」
「あのように、ただ売るだけでなく、何故、求めているかを読み取って商売してるんです」
「ほぅ…大したガキだな」
そうこうしているうちに持っていた針が完売。少年は早々に荷物をまとめて、帰ろうとしていた。
「おい、ちょっといいか?」
信長は興味本位で少年に訪ねる。
「すみません、もう針は…これは、織田の世継ぎ様…」
「信長だ。今日は空いているか?話しがしたい」
「えっと…明日の仕込みがあって終われば時間とれますが多分夕方になると思います」
すんなりと言っているが大変な事である。
目上の人物である領主の息子の用件を後にまわしているのだから…
少々驚いたが別に憤怒の感情はない様子の信長。
「なら仕事をしながらでいい…。もちろん仕事の妨げにならないようにする」
「わかりました。ではこちらへ――」
「待て、こっちに馬がある。乗っけて行くからついて来い」
(若…絶対馬パクる気だ…)
当時、日本の馬は小柄で速さよりも力強い走りが特徴的である。
なので一般人のダッシュとさほど変わらないが鎧武者を乗せても平気な顔で走る事ができる。
体力が売りの日本の馬は長距離移動や荷物運搬に向いているだ。
したがってちょっとそこまでの散歩に馬を連れて来る訳がないのだ…
(うーん…若が馬を買うのは有り得ないしなぁ……。あぁ…頭が痛い…)
つづく…
そういえば史実ではこの頃は家康は捕虜になってないそうですが…
この作品では捕虜になってたって事にします!!
では^^