寂しさにさよなら
ゴールデンウィーク最終日の今日。
新幹線のホームで……。
今日はゴールデンウィーク最終日。
久し振りに会えたあなたとも、またしばらく離ればなれになる日。
付き合いだしてもう1年は経つだろうか。初めのころは週2~3回のペースでデートを重ねてきた。
デートといっても可愛いもので、食事に行ったり遊園地に行ったり……。
ただ一緒にいられるだけで充分楽しかった。……そう、あの日までは。
昨年10月に彼は転勤になって、私との距離は600キロ。
転勤前の1ヶ月間は、会えなくなるのをかき消すように、時間の許す限り連絡を取り合った。電話にメール、食事に映画……。恋人達が喜んで出かけるような観光地にも積極的に訪れた。期限付きの高揚感。
その日が近づくにつれ、寂しい気持ちが込み上げてくるが、それを追いやるようにお互い必要以上に明るく振る舞っていた。
いよいよ明日彼が出発するという日。静かな時間を過ごそうと、彼が有名な老舗ホテルのレストランでの食事を提案してきた。想い出にと前々から予約を入れていたらしい。
フランス料理のフルコース。流石に美味しい。美味しいに決まってる。
でも少しほろ苦い。
今日の私はどうかしている。メインのお肉料理と一緒に飲めないワインなんかを頼んで、心配する彼をよそにゴクリと一口。結局半分も飲まないうちに顔は真っ赤になるは、心臓はドキドキするは。もう食事どころではなくなっていた。
どうにかこうにか食事を終え、いざ帰ろうとしたけれど、今度は気持ち悪くなってきた。
ああ、もう私なにやってるんだろう。想い出が台無しだ。
でも彼は、これもまた印象に残るいい想い出だよって。
本当はその時プロポーズをするつもりだったと後で聞いた。私ってなんて間が悪いのだろう。
次の日新幹線のホームまで彼を見送った。少しずつ、少しずつ迫る出発の時間。昨夜はなかなか寝つけなかった。
いつもに増して明るく振る舞う彼。私が少し寂しげに俯くと、「すぐ会えるから」と。
600キロも離れているのにすぐ会えるなんて、ウソツキ。
「大型連休は勿論、月に1度は必ず会いに帰って来るから」
「出来ない約束はしない方がいいよ」
「……できるよ」
凄く真剣に、目を見て優しくそう言ってくれる彼のことを、素直に信じられた。
発車の合図とともに新幹線に乗り込む彼。ゆっくりと締まるドア。そのガラス越しに彼は何かを言っている。私が聞こえないそぶりで聞き返すと、何度も何度も言ってくれた。
最後まで解らなかったふりをしていたが、ホントは解ってたんだ。
「愛してる」
そう言っていたことは。でも何度も聞きたかったから……。
やがて彼を乗せてゆっくりと動き出す。初めは小さく、そしてだんだんと大きく手を振る2人。
新幹線は速い。あっという間に見えなくなる。
ただ1人残されたホームで、例えようのない喪失感が全身を包み込む。
旅立つ者より見送る方が寂しいとはよく言ったものだ。
その日は家に帰ってからも、彼からの「無事に着いたよ」との連絡が入るまでずっと泣いていた気がする。
それからも彼は約束通り、月1回は600キロの道程を会いに来てくれた。そしてクリスマスもお正月も。今回のゴールデンウィークも。
今まさに発車のベルが鳴っている。
またしばらく会えない。この辛さを何度味わえばいいのか。この先何度。
このまま続けていくのか、距離をおくのか。
考える時期にきているのかもしれない。
もう寂しさにさよならしたい。
今朝起きて、「ああ、ゴールデンウィーク最終日か」とふと思い、
そのまま一気に書き上げました。出来たてのほやほやです。
このお話のようなカップルもいるのじゃないかな、なんて。
素敵な1日をお過ごし下さい。
お読み下さりありがとうございました!