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双后恋魔 プリンセッサ  作者: 月川 ふ黒ウ


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28/28

十年後の笑い話に

最終回です。

「お帰り。お疲れ様」


 濃緑色の光に包まれながらプリンセッサから降りると、真っ先にミィシャが出迎えてくれた。彼女も強化鎧は脱いでいる。


「うん。色々ありがと。ミィシャさんもお疲れ様」

「いいわよ。かわいい妹のためだもん」


 ばっと首を抱えてげんこつでトーニャの頭をぐりぐりといじる。

 抵抗もせずトーニャは、どこか嬉しそうに受け入れる。


「……うん」

「トーニャさん、ありがとうございました」


 そんなふたりを見つめながら、ボスがいまにも泣き出しそうな顔で言う。


「いいわよ。あたしだって責任、少しはあるんだし」

「そんなこと」

「あるわよ。たぶん、この街でアーマー・ギア使ったことのある連中は全員、あの悪意の塊の生みの親なんだから」


 ミィシャが引き継ぎ、ボスの首も絡め取って、トーニャとボスのひたいをぐりぐりと押しつける。さすがにこれにはがまんが出来ず、トーニャは腕を振り解いて怒鳴る。


「もう、痛いってばミィシャさん!」

「それぐらい、心配してたってこと」視線を上げ、「ほら、ティロ坊もおいで。かわいがってあ、げ、る、から」


 ぱちん、とウィンクして見せるが、ティロはうつむいただけで動こうとはしなかった。


「大丈夫よ。怒ってない。ヌェバとか街の人たちから色々とあんたの情報、もらってたから。左肩下げるクセはまだ直ってないけど、修行はちゃんとやってたみたいだし、お姉ちゃんとも和解できたみたいだし」


 ぱっとふたりを開放し、するりとティロの懐に入るミィシャ。


「長女としては、あんたが無事だったからもう、何も言うことは無いから」


 優しく抱きしめ、背中をぽんぽん、と叩く。


「お、俺……」


 す、とミィシャはティロの耳元に口を寄せ、彼にしか聞こえない音量で囁く。

 え、と目を見開き、顔を離してミィシャの顔を見る。


「似合わないわよ、俺って呼び方」


 ふふ、と大人っぽく微笑み、ティロの肩をとん、と叩いてミィシャはトーニャたちの元へ戻る。

 なにを囁いたのかを聞きたかったが、決して教えてはくれないだろうとトーニャは諦め、代わりに大きく手を叩く。


「さ、帰ってごはんにするわよ。ティロ、あんたも来るのよ」

「俺は、いいよ。そんな気分じゃないし」

「だめよ。ていうかなに遠慮してんの。あ、まさかやっぱりお金のこと心配してるの? 大丈夫だって言ったでしょ。こういうときのお金だってちゃんと用意してあるって」

「そうじゃない。俺は、俺は……」


 弟がちらりとボスに視線を送ったことを、トーニャは邪推し、ふふん、と挑発的に笑う。


「あのさあ、このコ、仮にもあの月光団のボスよ? 第一の部下が暗殺しようと近付いてきたぐらいで怒るような器だと思ってんの?」

「と、トーニャさん!」

「なによ。あいつが考えそうなことぐらい、簡単にお見通しよ。大体、八年もかけて目的果たせないどころか、その相手に惚れるとかさ、おばあが聞いたら」

「う、うるさいっ! 行けばいいんだろ! 先に帰ってるからな!」


 顔を真っ赤にしながらティロは怒鳴り、カイゼリオンを置いてずんずん歩いていく。手の平サイズになるぐらいまで離れてようやく振り返り、腰の刀を鞘ごと掲げてカイゼリオンを呼び、彼を刀に封じ込めた。

 むふふ、と口角を下世話に上げ、トーニャはボスに向き直る。


「あのさ、あんな風にしてるけどあいつ、今晩には家を出てくと思うのね」

「は、はい」

「だから、あいつに付いていく気が無くって他に行く当て無いならさ、」


 神妙な面持ちでボスは頷く。


「あたしの嫁にならない?」


 自分でもなにを言ってるのだろうと思う。


「ふぇっ?」

「だって、からだの中にルーマが居るって言っても話し相手になるわけじゃないし、いつ出てくるかも、そもそもちゃんと出てくるかどうかも分からないでしょ?」


 話が繋がらず、ボスは首を傾げるばかり。


「ティロと一緒に暮らしたせいで、一人暮らしの寂しさってやつを思い出したの」


 ふわ、とボスの頬を撫で、手を取って自分の胸に当てて微笑む。


「ほら、ルーマもそう言ってる。……あんたならはっきり聞こえるでしょ」

「……ですけど」

「だから責任とってよ。家賃とかは取らないから」

「そ、そんな。私は、トーニャさんにもティロにもひどいことをしました。なのに……」

「大丈夫よ。甘やかしたりしない。工房は手伝ってもらうし、他にも色々やってもらうから」


 でも、とうつむき、自身の指を絡ませたり解いたりして考えをまとめる。

 そんなボスをトーニャはただ優しく見つめ、急かしたりしない。

 気を利かせたミィシャが軽い挨拶だけでその場を去って、夕日が完全に沈みきってからボスは顔を上げる。

 上げたボスの表情を、トーニャは一生忘れないと思う。


「わ、わたしは……」


 あたしが十六の時に起こったすべてのことはきっと、十年ぐらいしたら笑い話にできるんだと思っていた。 

 でも違った。

 今日からだって十分笑い話に出来る。

 今日からふたりでそういう日々にしていこう。

 そう、決めた。


ここまで読んで下さった方々とリツイートして下さった方々に深い感謝を。

ではまたどこかで。

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