表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある世界の日本  作者: 高鉢 健太 
自動砲のおはなし
60/130

自動砲のおはなし 5

 艦砲というのはその時代の脅威に対応して高初速、高発射速度、長射程化していくものという認識ではないだろうか。


 もちろん、間違ってはいないが、中には例外も存在している。


 自走迫撃砲から派生した艦載迫撃砲システムというものがあり、低初速、短射程ながら、過去の砲艇のような能力を持つモノが登場している。


 日本においても例外は存在し、それが自衛隊ではなく、海上保安庁の武器体系である。


 海上保安庁は日本の敗戦により軍が解体されたのち、北方艦隊が主に活動する樺太やオホーツク海以外において治安維持、航路啓開、標識設置を行うために戦後発足した組織である。


 GHQ統制下では非武装とされていた海上保安庁だが、再軍備が決まった1951年には武装解禁がなされ、配備された船舶への武器搭載が行われる事となったが、当初は米国からの供与が検討されたものの、北方部隊が装備する旧式化した武器、兵器類の多くが余剰となる事から、それらを再生、搭載する事となった。


 その為、初期の装備は自衛隊へ移管された北方艦隊の機銃、北方警備隊の旧式速射砲や戦車砲などであった。


 そもそも、海上保安庁は大型の艦船を有してはおらず、自動砲のような大きな武装を施す事が出来なかった。


 その為、あくまで治安維持という目的のために北方艦隊から九六式25ミリ機銃や北方警備隊から47ミリ速射砲や47ミリ戦車砲といった武装が移管され、利用されることとなる。


 おりしも朝鮮戦争から続発して朝鮮内戦が勃発した事もあって日本海では密航や海賊が横行していたため、否が応でも武器の搭載と使用を迫られる状況であった。


 海上自衛隊が駆逐艦や海防艦を展開した事で大韓国や高麗の軍艦が不法行為を行う事は希であったが、紛争と共に武器が大量に溢れ、まともに職に就けない者たちによる海賊行為や密航を取り締まるのは海上保安庁の任務であった。


 その取り締まりのため、巡視船へ装備された25ミリ機銃や47ミリ速射砲が大いに活躍したが、同時に不満も出てくることになった。


 海賊は雑多な武器を使用しているが、25ミリ機銃では海賊が14.5ミリ重機関銃や20ミリ機関砲を持っている場合は苦戦し、47ミリ速射砲は即席の簡易砲座のために扱いが難しかった。


 こうした事からボフォース40ミリ機関砲の導入を図るとともに、47ミリ砲の専用砲塔の開発が行われることになる。


 優秀な40mm機関砲があれば旧式な47ミリ速射砲など必要ないと思うのだが、狙って当てる点では47ミリ砲にも利用価値があったという。


 こうして開発された55式54口径47ミリ速射砲は戦前の戦車同様に肩持ち式が採用された手動装填砲であった。

 ただし、砲塔が電動機によって旋回するため戦時中の戦車よりも動きは素早かったという。


 なにより、暴露した砲座に据えられた40ミリ機関砲と違って安全に海賊を制圧できる点は大きかった。


 北方部隊から引き揚げられた47ミリ砲がそのまま再利用されたため、あくまで砲塔機構のみが戦後の設計であった。


 500トン程度の巡視船の武装としてこの47ミリ砲は使い勝手がよく、肩持ち式は習熟すれば一般的な砲座に比べて命中精度も高かったという。


 海上保安庁は当初、朝鮮半島を睨む組織として成長を遂げ、40ミリ機関砲や47ミリ速射砲といった対海賊装備で十分事足りていた。


 しかし、1962年に発生したキューバ危機を経て世界情勢は変化し、日ソ間に大きな問題が生じる様になる。


 キューバ危機が示したソレはソ連が米国に核ミサイルを突きつけるものであったが、当時就役が始まっていた米国のミサイル原潜をオホーツク海に展開させた場合、ソ連の核開発中心地であるカザフスタンを射程に収める危険性が出て来た事から、千島列島の米軍による利用や米艦艇のオホーツク海進入が問題視されるようになる。


 この事から、ソ連はキューバからのミサイル撤去と引き換えに、千島やオホーツク海の米軍による軍事利用禁止を要求し、米国も合意している。


 さらに、日本に対しても千島列島や南樺太への軍事力の展開を禁止するように要求してくるが、日本は完全非武装化には難色を示し、最低限の警備部隊を配置する事で妥協する。


 この協議の後はオホーツク海での自衛隊艦艇による哨戒が控えられる様になり、漁業監視を担う巡視船に領域警備の任務も兼務させる方針がとられることになった。


 この時、海軍は56式50口径76ミリ速射砲2基搭載の海防艦をそのまま海上保安庁へ移管する事を了承し、それが実現する。


 北方においては76~100ミリ砲を備えたロシア国境警備隊と対峙する関係上、以後も海防艦型が踏襲されることになるが、巡視船武装は1980年頃になると海上自衛隊とは別の系譜を辿っていく。


 1973年には国連において排他的経済水域という概念が提唱され、翌年には条約に規定されることとなる。


 この情勢にソ連によるオホーツク海での動きと連動するように海上保安庁もそれまでの領海3海里規定を世界的な流れとなった12海里へと拡大する動きに追随し、更に200海里に及ぶ広大な排他的経済水域まで設定するに至り、既存の海防艦型や500トン程度の巡視船では警備や監視が不十分になる事からヘリを搭載する大型巡視船の建造に踏み切る事となった。


 当然の様に68式65口径76ミリ連続速射砲が採用されるものと考えられたが、海上保安庁は独自要求を提示する。


 発射速度は56式程度かそれ以下で良い。ただし、軽量簡便でいて射撃精度に優れる事という、軍事的要素よりも海賊対策を重視した性能要求を行った。


 当然ながら、55式47ミリ速射砲の後継開発も要求している。


 この当時、独自に開発しなくとも多くの選択肢が国内外に存在したのだが、大威力の機関砲や速射砲には見向きもしない海上保安庁の要求に沿って独自の砲塔システムが開発されることとなった。


 それは当時、戦車や歩兵戦闘車向けに開発していた火器管制システムを用いたもので、対空射撃は考慮しないシステムとなっていた。


 こうして新型巡視船の建造と合わせて78式武器管制装置という名称で65口径76ミリ砲型と砲身を伸長した70口径47ミリ砲型が完成する。


 無人砲塔を採用して非常に扁平な外観を持つ砲塔に毎分20発程度の自動装填装置を備えるが、射撃精度は戦車用システムだけに非常に高く、朝鮮半島周辺における海賊対処で好評を得ることになった。


 その後も改良が続けられ、海上自衛隊においてもペルシャ湾護衛などの経験から小型ボートなどへの対処のために47ミリ砲を装備するようになり、最新型の12式武器管制装置では自衛隊の要望を容れたため、限定的ながら対空射撃能力を持つに至ったのだが、ステルス砲塔と赤外線カバー付き砲身という近未来的な外観に仕上がっている理由は、海上保安庁側が軍艦のように武器を強調した外観を嫌って、船体シルエットに溶け込むようにデザインした結果、その様な外観になった物であり、海上自衛隊がステルス性を求めたという俗説は誤りである。

 なお、12式ではこれまでの78式が76ミリ、47ミリ、90式が20ミリ(JM61M)、12.7ミリ機関銃(M2)と別々であった管制装置を統合し、新たに12.7ミリ(GAU-19)を加え、海上保安庁の武器体系を一新している。


 その為、基本武装である76ミリ砲ないし47ミリ砲に加えてドローン対策の為に12.7ミリ(GAU-19)型を複数装備した大型巡視船が就役するようになっている。


 

これにて完結。


結局、戦後編はコレが書きたかっただけなんだ。


自衛隊とは違う兵器体系を持った海上保安庁という変態集団を。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ