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とある世界の日本  作者: 高鉢 健太 
らのべっぽいみたいな回想録
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らのべっぽいみたいな回想録 13

 1943年はあまり動きのない年越しで迎えることになった。

 北アフリカ戦線は膠着しており決定打を欠いていた。

 仮想戦記などではここで日本軍が紅海を吶喊して英エジプト軍を攻撃するような話が多いが、現実の日本軍にはそのような力はなく、紅海両岸には英軍が点在しており、紅海吶喊のような作戦が損害に見合う戦果が望めるとは言えなかった。


 ただ、何も起きなかった訳ではなく、ペルシア回廊を封鎖した事でコーカサス地方のソ連軍の補給も衰えていった。

 そのため、窮地に追い込まれていた黒海沿岸のドイツ軍は1942年の秋口には最悪の危機を脱し、年が明けた頃には消耗激しいソ連に対する攻勢作戦の準備を行っていた。1月中にソ連軍の冬季攻勢を受けたが、それを凌ぎきると次の攻勢は無かった。

 この時の攻勢に多くの資材をつぎ込んだソ連軍はコーカサス地方でさらなる攻勢を行うにははるか極東からもたらされる支援物資を待つしかなく、早くとも5月までは守勢に回るしかない状況であった。


 ドイツはそのことを把握しており、北アフリカでの米英軍上陸を阻止できたことで、他の東部戦線での劣勢挽回の為にも一時的にコーカサスへとその比重を移して行く事になる。


 守勢にまわったソ連軍は物資の不足からドイツの猛攻を押しとどめる術がなく、4月中旬にはバクー油田の破壊に成功する。他の戦線が守勢ないしは劣勢であるためイランまで入り込むことは断念せざるを得なかったが、カスピ海への回廊を確保してバクー油田の再建を一年近く阻止することには成功している。



 そして日本に視点を戻すと、インド洋での英艦隊撃滅によって日本は所期の目的をほぼ達成していた。


 おまけとして蘭印が降伏した事で南方での兵站問題が解決することになる。それまでは満州油田で生産された石油を南方まで運ぶ必要があったが、蘭印にある油田を活用することで輸送という膨大なコストを削る事が出来るようになる。


 そして、日本は第二段作戦としてハワイ攻撃を立案し、その行動を実行に移すことになった。


 この際、米側は日本が狙う次の目標がハワイないしアリューシャン列島であることは理解していたが、どちらを狙うのかは判断しかねていた。


 暗号解読も行われていたが、肝心の地域符丁がどこかまでは突き止める事が出来ていなかった。


 そのような中で5月20日には北方より空母部隊が出撃したとの情報を掴む。少なくとも空母5隻以上とされた。


 しかし、その後の行方を追う事には失敗しており、韜晦コースでハワイを目指すのか、そのままアリューシャンへ至るのか、まだ確定的な情報は無かった。


 そんな中で更に戦艦部隊が本土を出撃した事も掴む。


 この時点で米側は二つの艦隊がハワイへ同時、ないし時間差攻撃を仕掛けるのか、それとも空母部隊がアリューシャンを攻撃し、戦艦部隊がハワイへ突撃する二正面作戦なのか、判断できなくなっていた。


 そこで、情報部では一計を案じ、コードALがアリューシャンかハワイかの賭けに出ることにした。


 5月28日、ダッチハーバー発の電信として、航空基地での大事故によって部隊の受け入れが不能になったという偽の通信を行う。日本側がこれに反応しなければ、狙いはハワイへの同時攻撃という事になる。


 かくして日本はその通信に反応し、本土より「敵の戦力低下、速やかに攻撃せよ」との通信がなされることとなった。


 この通信を傍受、解読した米情報部は二正面作戦と判断してハワイに展開させた空母の再振り分けを行う事にしたのだが、これは日本が仕組んだ巧妙な罠だった。


 物語においては暗号が解読されている事を未来人が知らせている。史実においてはアラビア海での封鎖をすり抜ける船団が増加した事を不信に思い、偽の通信を行うことで確信を得た事が分かっている。


 そして、ほぼ同時に行われたハワイ攻撃作戦において、従来の暗号によって通信を行い、暗号解読の有無を見極めようとしていた。


 当然、符丁が二つ存在することから、地域を特定する欺瞞通信がある事を想定して日本側は耳を澄ませていた。


 もし、本命であるハワイでの偽装通信であったなら、攻撃をアリューシャンに変更する手はずだった。しかし、アリューシャンからの通信の場合、ハワイを計画通りに攻撃することとしていた。


 つまり、米側が解読したそれは、意味がまるで逆だった。


 しかし、米側はそれを知る由もない。しかも、日本海軍の艦載機が艦船攻撃に対して練度が低く、仮に真珠湾を攻撃されても大きな被害はないという慢心さえあった。

 なにせ、艦船の修理には少なくとも数か月を要するが、航空機の喪失は、搭乗員さえ無事なら一週間もあれば補充が効いた。燃料の類も同時に輸送船団を出せば済む。

 艦船攻撃が不得手である以上、初期の攻撃を振り切って海上に出てしまえば空母の損害は大きくないとタカをくくっていたのだった。


 そのため、出撃準備に入っていた空母群は既に艦載機を満載して出港準備を行っていた。攻撃を受ける前提で格納庫を空にするよりも、攻撃を察知して速やかに湾外へ出れば、それで安全だという算段だった。



 しかし、これは完全な裏目に出る。


 5月30日、出港を間近に控えた大小14隻もの空母がひしめく真珠湾へと日本海軍が来襲する。


 米側は来襲を戦艦部隊の来襲が2日後と考えており、この時点ではまだ余裕があるつもりだった。


 レーダー網を完備していたのだが、暗号解読による爆撃機の進出地変更が届いていなかったレーダー基地が不幸にもハワイ北東からやってきた航空機群を味方編隊と誤認し、司令部への連絡を怠るようなことさえも起きている。

 日本軍はハワイに来るほどの航続力は無い。高級士官ならともかく、下士官兵にはそんな優越感も存在しており、戦時下という緊張感も希薄だった。


 日本海軍空母部隊が放った第一次攻撃隊203機のうち、急降下爆撃隊は新開発の自動吸着爆弾、通称ケ号弾を搭載していた。

 ケ号弾は初歩的な赤外線誘導装置を備え、海面と艦船の温度差を感知して海面より温度の高い艦船へと誘導される仕組みとなっていた。


 当時の海軍航空隊での急降下爆撃の命中率は良くて4割、普通は1割と言われる状況だったが、ハワイ攻撃におけるケ号爆弾の命中率は7割にも達していた。命中に至らなかった至近弾ですら有効な打撃を与えていたので、最終的に有効弾は8割になった事が知られている。


 ケ号爆弾による急降下爆撃は従来のように上空500mなどという急接近を必要とせず、機首を下げて爆弾に搭載された熱感知装置に目標を検出させさえすればよかった。爆撃手は熱感知装置が目標を検出した時に鳴る音を聞いて投下レバーを引けばよく、大体の場合、その高度は1500~1000mほどだった。後には緩降下で検出可能になり、急降下爆撃自体を必要としなくなる。


 それに続いて進入した水平爆撃隊が装備していたのは無線誘導爆弾だった。


 爆弾を抱えた攻撃機は真珠湾を望む空域まで来襲すると、次々と小さな翼の生えた爆弾を切り離していく。数km遠方で行われるその奇行を米兵が見ていたならば首を傾げた事だろう。


 そうして切り離された爆弾は、尾部に備えた曳光装置を光らせながら飛行した。攻撃機では爆撃手が操縦桿を操作し、その光を狙った目標へと合わせるように誘導していく。いわゆる手動指令誘導式という初歩的な誘導爆弾だった。 


 この攻撃によって湾内に居た大型艦の多くは被弾損傷し、数日の内に戦力となる艦艇は存在しなくなる。空母は悲惨で、燃料こそ積んでいなかったものの、搭載機の可燃物に引火。大炎上を引き起こし、瞬く間に甲板上や格納庫を火の海にして消火を手間取らせてしまう。


 そして、陸上を狙い通常爆弾を積んだ攻撃機は精密な照準を必要とせずに飛行場や港湾施設周囲に被害を与えていく。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 史実日本海軍が羨ましがるような完璧な真珠湾攻撃。 ここに少し遅れて戦艦隊の艦砲射撃が加わるとかまさにトドメの一撃ですね。 [一言] いくら報道統制しててもここまで負けが続いたら隠しきれなく…
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