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とある世界の日本  作者: 高鉢 健太 
らのべっぽいみたいな回想録
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らのべっぽいみたいな回想録

 昨年末、断片的な情報こそ流れていたが、とうとう軍が正式に電磁加速砲(レールガン)の実用化を発表した。


 それ自体はこの30年にわたる研究は民間も巻き込んで行われており、民間での成果を中心に我々の耳にも届いていたために驚くような話ではなかった。

 我々が驚いたのは、砲ではなく、その砲弾だった。


 九五式徹甲弾を知らない者は居ないだろう。大和型戦艦と共に日本海軍の活躍を支えた存在であることは、今や歴史としてだけでなく、ゲームやマンガ、映画と言った娯楽にさえなっている。


 しかし、その徹甲弾がどのようなモノかは、実は今まで公表されてこなかった。


 海軍においても秘匿兵器とされ、その情報は断片的なモノで、一部情報から装弾筒付き徹甲弾(APDS)のようなモノという認識がこの50年ほどは常識化していた。


 しかし、そこには大きな疑問が持たれていたのも確かだった。


 その砲弾がAPDSであるならば、なぜ、地上や艦船に着弾した際に、貫通痕ではなく爆発痕を残すのかまるで説明されてこなかった。

 中には、弾殻を強化して炸薬を詰めていると説明されていたが、それでも炸薬量は知れており、真珠湾砲撃の様な場合に利用された事に疑問が残っていた。


 ここまで書けば察しの良い読者は分かった事だろう。


 そう、新たに開発された80式多目的高速弾、通称80HVPのベースは、九五式徹甲弾だったというのだ。


 このほど初めて公開された九五式徹甲弾の写真はさながら現在の新式砲弾と差異が見られない。


 一部には合成だと疑う向きもあるが、HVPの原理や作用を考えれば、隕石が落ちて来たと表現された真珠湾砲撃や対米艦隊戦の様相と合致している。


 そして、80HVPの公表以前に、九五式徹甲弾の諸詳細を言い当てたネット小説があったことに、密かな注目が集まっている。


 一部メディアが軍の記者会見で問いただしたところ、そのネット小説の一部は事実であるという。ただ、故人の話を基にした創作物であることから、機密保護法違反に当たるものではなく、捜査や処罰などは一切考えていないというモノだった。



 ネットの小説サイトにその小説が現れたのは3年前だった。


 よくある空想科学小説として埋もれていたに過ぎないが、あらためてその内容を読んでみると、多くの疑問が氷解するものと言える。


 表題を「らのべっぽいみたいな回想録」と言い、作者はあらすじにおいて、自身の家にあった曽祖父の手記をそのまま転載したのだとしている。

 そのため、史実として見ると疑問に思う部分も存在するが、非常によく出来たストーリーと言えるだろう。


 現在はサイトへの負荷を考慮して検索対象外となっており、小説にたどり着くのは難しい。


 では、その小説の中身を見ていくことにしよう。


 その物語は1923年夏の呉から始まっている。


 その年、江田島において事件が起きたという。今も江田島は海軍の島として立ち入りが規制されているが、この年からそれが急速に始まった事実はその通りだ。


 物語によると、小さな地震の後に海軍施設の近傍で崩落が起き、主人公である著者の曽祖父がその調査に加わっていたのだという。


 そこで彼が見たのは、時代を飛び越えた施設群と複数の自称未来人であったらしい。


 調査隊は彼らを拘束し、尋問を行おうとしたのだが、今でいうパワードスーツを装着した一団に阻まれたという。

 その後、実力行使に出ようとした海軍だったが、自称未来人の方からの呼びかけによって交渉が持たれ、協力関係が構築されたのだという。


 自称未来人の証言によると、彼らは200年ほど未来から何らかの事情で施設ごと跳ばされて来たのだと言った。空想科学小説にあるようなタイムトラベル装置かという粋な質問が行われ、彼らは真顔で未だその様なモノは完成していないと告げた。


 そこで、持ち物を見聞したところ、現代(1920年代)では到底製造不能な物品が多数存在した。そこには現在(2020年)においても実用化されていない量子コンピュータなども解説されており、SFと言って良い内容となっている。


 このようなタイムトラベルの定番として未来予知が行われるのだが、それがまさに数日後に迫った関東大震災の予知だった。

 常識的に考えた、その様な事を行えば、この時代の軍人は暴力に訴えるところだが、彼らはそうしていない。

 というか、そう出来る状態には無かったという。

 

 俄かには信じられない話だが、彼らが示した日本の歴史は、22年後には日本が敗戦を迎えるという内容だった。

 小説にはその詳細も書かれており、非常に具体的な記述となっており、示唆に富むものと言える。

 実際、対米戦争における齟齬の数々は、それがわずかでも判断を間違えば小説の様な道を辿ってもおかしくなかった。日本が小説の様な焼け野原となり、米国に占領されなかったのは、奇跡的な綱渡りあったればこそと言えるだろう。


 そして、彼らに衝撃を与えたのは、それ以後の歴史、とりわけ兵器類の情報と言えた。核兵器やミサイル、ジェット機、レールガンと言った類のものだ。

 幸か不幸か、その出現した施設が研究施設であったため、レールガンを用いた試験設備を有した事が彼らに対して大きな衝撃を与えている。


 レールガンは説明する必要もないが、ローレンツ力によって物体を加速させ射出する装置の事だが、当時、火薬や何らかの実体としての圧力を用いずに物体を射出する装置を見たことは、どんな話を聞くよりも衝撃だったことは間違いない。

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