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とある世界の日本  作者: 高鉢 健太 
海鷲の巣
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海鷲の巣・3

 1943年8月に雲龍が竣工し、同時起工だった剣龍も9月に竣工した。


 雲竜型の特徴はそのオフセットされた飛行甲板や大型の艦橋もさることながら、商船改造空母から発想を得たブロック工法による急造だろう。雲竜も剣龍も僅か1年8か月と1年9か月で竣工までこぎつけている。

 雲龍の進水後に同じドックで起工した迅龍に至っては、1年5か月で完成している。


 これは隼鷹型では二段式格納庫としたことで機械室の直上が格納庫となり、高温にさらされるという問題が懸念された事から、雲龍型では機械室上に格納庫を設けないようにしたことが、工事の簡略化にも寄与した形となって表れている。

 そして、格納庫を一層としたため、高さを大きくとることが出来る様になり、烈風や大山の特異な折り畳み翼にも対応し、格納することが出来る様になった。


 烈風は零戦21型同様、翼幅は12mなのだが、迎撃艦戦という新機種として採用されたため、エレベータに合わせた翼端折り畳みでは搭載機数を制限してしまう事から、少しでも多くの機体を空母に載せるため、艦攻同様の折り畳み翼を採用することとなった。

 ただ、戦闘機として翼の強度が求められたことで、折り畳み機構が中途半端なものとなってしまい、風防上で折り重ねる計画が、実際はそこまで畳むことが出来ず、大半の空母においては二層目に収容できなかったり、翼端が天井ギリギリという事例が発生することとなっていた。それに対し、雲龍型は一層式格納庫のため、余裕をもって収容することが出来る稀有な空母として、烈風が集中的に配備されるようになっていく。

 一部で雲龍型を艦隊直掩空母と呼ぶのは、このような事情によって烈風を集中配備したためと思われる。



 さて、もう一つの大山についても語る必要があるかは分からないが、一応、説明しておこう。


 大山は九七艦攻の後継として十四試艦攻の試作が中島飛行機に命じられたのだが、これに対し三菱が抗議し、再度の競作として三菱も試作に乗り出すことになった。


 この指揮を取ったのも当然、雷電の試作を受け持った堀越ではなく、手持無沙汰にしていた大西だった。


 十四試艦攻では、火星ないしは中島の護が発動機の候補とされており、大西は当然の様に火星を選択した。

 A20計画の発端は烈風ではなく、この艦攻に由来するのではないかという話もあるほどなのだが、それは、中島が従来通りの艦攻を意図して開発していたのに対し、大西は高速攻撃機という概念を実現しようとしていたことに由来するのだろう。


 この高速攻撃機という考えは当時は未だ理解されるには至っていなかったが、大西の積極的な売り込みもあって、彼の案がそのまま試作機へと反映されることとなった。


 ただ、後に雷撃と急降下爆撃の両方を統合するという発想を持った十六試艦攻と大西案がほぼ同じものであるため、後にこれも統合するという混乱が生じている。

 そのため、三菱の試作機は十四試艦攻とは分離され、十六試艦攻へと統合され、中島の機体はその後も従来通りの艦攻として開発がすすめられ、天山として採用されている。


 それに対し、愛知との競作になった三菱案は爆弾倉を持った愛知案に対して劣速ではあったが、愛知側が未だ実機が無いのに対し、三菱側はすでに実機を完成させていたため、三菱案が後のA20への換装による性能向上を前提に、1943年に採用され、大山として生産に入ることとなった。


 大西は大山の折り畳み機構の可動部を二か所設けてZ字に折り畳むことで、英国のフェアリー・ガネットの様な折り畳みを想定していたが、主翼強度を確保することが出来ず、大きく腕を振り上げるような折り畳みになってしまった。烈風において、再度Z字の折り畳みに挑むも、当時の日本にはそれを担保する部材や技術が無く、やはり、大山と同じ結果を招くだけだった。A20が制式採用に間に合わなかったことと合わせて、大西の考えは日本の技術力より先行していたとの評価もある一方、現状を顧みずに理想を先行させたという批判も存在している。

  


 口さがない言い方をすれば、烈風と大山は雲龍型を海軍が建造し続けるために設計された機体であり、大西兄弟が何らかの形で結託していたとも囁かれていた。


 もちろん、烈風も大山も航空機としての性能は高く、マリアナ沖海戦においては雲龍型空母所属の大山部隊は、他の攻撃隊が練度不足の搭乗員に配慮し、早々に高度を取ったのに対し、新型新機軸の機体という事で練度優秀なものが優先で割り当てられたため、単独で低空侵攻を続け、その高速性も相まって米艦隊を不意打ちし航空管制を麻痺させ、マリアナ沖海戦における唯一の米空母撃沈を記録している。


 雲龍型は防空戦でも活躍している。


 次男満賢が空母を設計し、長男健太郎が搭載機を開発し、三男賢吾が電子機器を開発していた。


 とは、今でもよく語られることだ。当然、そこには父の陰に日向の暗躍があったとも言われているが。


 三男賢吾は1938年に実用レベルのレーダー開発に成功した後、その改良や新たなレーダー開発に励んでおり、海軍が陸用の1号電探、艦載型の2号電探としてその発展型を採用した1942年にはさらに高度評定装置の開発にも成功していた。


 こうして、対空用の二次元電探と高度評定電探がセットになった2号4型電探、一般に二四号電探と呼ばれるものが完成した。

 これは八木アンテナを用いた二一号電探や導波管をそのまま利用した二二号電探とは違い、パラボラアンテナを使用した二三号電探と、同じくパラボラアンテナを使用した高度評定電探を組み合わせたものであった。

 ただ、その機構は現在の三次元レーダーとは比較にならず、平面状の敵を探知する二三号電探と高度を検出する高度評定電探は別の画面に個別に表示される画像を電測員が頭の中で三次元化し、それを一つの情報として整理して防空指揮所へ報告するという、熟練と技術が必要な作業だった。


 それでも、平面的な方位と距離しか分からなかった場合と比べ、直掩機をどの高度に待機させ、対空火砲をどの高度で管制すれば良いかが分かる事は大きな進歩であり、この電探のおかげで被害を軽減出来たともいわれている。


 こうした電子装置を多く搭載できたのも、空母としては大きすぎると言われるほどの巨大な艦橋を持ち、煙突を艦橋から海側へ傾けて設置し、艦橋構造物上に複数のマストや台座を容易に設置可能だったことが大きかった。


 艦橋やマストの構造上、かなり重量のある二四号電探を装備できた艦艇は雲龍型以外にはなく、当初から電探設置を考慮して艦橋設計を行った優秀性は今なお高い評価を受けている。



 ただ、考えて見れば多くの不自然な点に気が付くだろう。


 確かに、渡洋爆撃に伴う陸攻隊の甚大な被害を鑑みれば、以後の航空作戦には多大な損失が伴う事は容易に推察でき、搭乗員育成を大幅に拡大するのは当然の帰結だったが、そこにいち早く思い至った大西倫太郎の彗眼には驚かされると同時に、今に伝わる言動からは、まるで後の歴史を知っていたのではないかと疑わせるものがあった。


 三兄弟にもそれは言える。


 父の影響力があるとはいえ、長男の飛行機開発は先が見えすぎていたという意見も存在する。


 十四試艦攻の段階でなぜ、十六試艦攻の要求仕様を取り入れることが出来たのか。十六試艦戦においては、終戦間際に投入されたF8Fベアキャットの軽量・コンパクト・大出力というコンセプトがすでに取り入れられていたとさえ言われる。


 というのも、ベアキャットと対戦した烈風三二型には金星を18気筒化した翠星が搭載され、べアキャットと同等の2100馬力という出力を誇っていた。パイロットの技量差はあったものの、対戦はほぼ互角であり、米軍を震撼させている。

 戦後、米軍によって調査された烈風は、一一型においてF6Fヘルキャットを凌駕し、三二型においてはF8Fベアキャットと対等に渡り合えると評価されていた。

 さらに、


「もし、日本に我が国の様な高品質の燃料や潤滑油が潤沢に存在していたならば、我々は緒戦でゼロの前に平伏し、戦争後半にもなすすべなくサムの前に醜態をさらしただろう」


 と言わしめている。

 なにせ、烈風三二型は、米国で最高速試験をした際、高品質の燃料や潤滑油、点火プラグを使用し、最高速度716㎞を出しており、比較試験ではF8Fを圧倒する記録さえ存在したという。


 雲龍型空母の評価もかなり高いが、オフセットした飛行甲板はあまり好印象ではなかったようだ。ただ、後の米空母において、アングルドデッキ採用と共に、甲板面積が拡大しているのは、雲龍型にヒントを得たモノという逸話は広く知られている。


 電探に関しては、当時の貧弱な電子技術の為かあまり評価は高くないが、そのコンセプトは全く米国に後れを取っておらず、すでに賢吾が三次元レーダーすら開発中であった事実は大いに米軍を驚かせている。


 大西親子は先見の明を持つ優秀な一族と一般に評価されるが、一部からは彼らはどこかの未来から送り込まれた歴史修正者ではないのかと実しやかに言われているのも確かである。


 

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