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とある世界の日本  作者: 高鉢 健太 
海鷲の巣
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海鷲の巣・2

 こうして、隼鷹型の設計は大西の意見が取り入れられたが、それはあくまで艦橋についてのみだった。船体や飛行甲板の艤装は従来通りとされており、彼は大いに不満だったとされている。隼鷹型の設計がほぼ終わりを迎えた頃、彼は隼鷹型をベースとした自身の設計案を構想していた。


 1941年9月には早くもその私案を売り込みにかかっている。


 この頃、海軍においては対米開戦間近という事で、戦力強化が急務となっていた。そのため、戦力増強のために隼鷹型をベースとした空母の建造というのは非常に魅力的に映っていたらしい。


 さらに、建設が進み、運用可能になり出していた大神工廠での建造という意向が忖度されてもいた。

 当然だが、大西自身は望んでいた訳でも圧力をかけたわけでもない。単に海軍では、「父の意向で作られた工廠が完成間近のタイミングで持ち込んだという事は、大神でこれを建造せよという事だろう」と、勝手に解釈したに過ぎないのだが。


 こうしていくつかの修正を行いながら、1941年11月には大神工廠における建造第一号として、起工される運びとなった。


 この時起工されたのが、我々の知る雲竜型である。


 雲竜型の特徴は、大西私案を蒼龍の細いスリムな船体ではなく、隼鷹のベースとなった商船を基本とし、そこに量産性が高い駆逐艦の主機を用いて、性能的には隼鷹型とほぼ同じものを目指していた。


 しかし、隼鷹型の建造において、大西の示した大型艦橋は幅があり、船体に対して大きく右へ張り出すことで何とか飛行機の運用を可能にしていた。

 それに対し、雲竜型では艦橋ではなく飛行甲板を左へとオフセットさせる手法を採用しており、以前の私案においては14センチ砲であった艦橋前後の備砲を12.7センチ高角砲へと変更ししている。

 そして、飛行甲板を左へズラすことで空間が出来た右舷側も飛行甲板を増設し、中型空母では不足しがちな飛行甲板面積を確保している。


 ただ、その反面、隼鷹で機械室上を格納庫として問題となった二層式格納庫は廃止され、背の高い一層式格納庫へと改めることになった。

 その結果、格納可能な機数は大幅に減っているのだが、その分は拡大された飛行甲板への露天係止とすることで補わざるを得なかった。


 当初は簡易空母とされていたが、ミッドウェー海戦以後は主力の一角となることを期待され、搭載機数の少なさが問題視されるに至る。しかし、これが大きな問題とならなかったのは、不幸にも日本の航空機生産能力が戦線の拡大と被害の増大に付いて行けず、常に不足気味であったからと言って差し支えが無い。



 そのため、1944年6月のマリアナ沖海戦において雲竜型に搭載されていたのは概ね、烈風18機、大山18機、彩雲4機の40機程度でしかなかった。艦によっては露天係止を増やしてさらに4~8機積んでいたこともあったが、その様な無理をした場合には、最前列の烈風数機の発進は滑走距離が足らず、カタパルト発進が必要とされていたほどだった。



 まさか、烈風や大山を知らない読者は居ないと思うが、一応、説明しておこう。


 烈風は零戦と十八試艦上戦闘機の間に、十六試艦上戦闘機乙型として開発が始まっている。


 十六試艦戦の最大の特徴は、当時整備が始まりだした零戦、九七艦攻、九九艦爆による戦爆連合を迎撃可能な艦隊直掩としての性能が求められたことだった。


 当時、陸上機として十四試局地戦闘機の試作が行われ、陸軍においても同様の目的を持った戦闘機が開発されていた。当然、空母においても、艦隊を敵の攻撃隊から守ることは必要であり、陸上機同様に、迎撃機が必要ではないかと言われ出し、その必要性が検討されることとなった。


 当然、艦隊直援護機も零戦をと考えたのだが、零戦の長距離性能には満足していたが、迎撃機として考えた場合、エンジン性能が問題視された。しかし、当時の日本には栄発動機に代わるような小径大出力発動機は無く、迎撃機には金星や陸軍のハ5系列のエンジンが候補であったが、当時の日本にとってはこれらエンジンは戦闘機用として直径も大きく、重いものとされていた。

 後に金星を零戦に搭載する検討がなされた際にも、エンジンが大型化することで航続距離が大幅に短くなるという試算が出たことで、一度ならず換装が見送られている。


 十六試艦戦については、航続距離は短く設定され、当初から金星の搭載を考慮した要求が出されていた。


 しかし、十六試艦戦の開発に名乗り出た大西は、当時1300馬力程度しか見込めない金星には全く興味を示すことなく、雷電同様に火星を装備することを主張した。

 この決定は一般に、それまで堀越二郎の後塵を拝してきた大西健太郎の対抗心だったと言われている。

 

 しかし、大西は十四試局戦の段階から、火星より小型、もしくは同等のより強力なエンジンを志向しており、彼の働き掛けもあって1940年には金星を18気筒化した2000馬力級エンジン、A20の開発をスタートさせていた。


 十六試艦戦の最有力エンジンはこのA20であったが、開発は間に合っておらず、試作においては雷電同様に火星を搭載することとなった。出来る事なら、制式化頃にはA20が完成している事を望んでいたという。


 しかし、そのA20の開発以前に、火星を二種類の戦闘機に採用することで、生産がひっ迫するという問題が予想されるようになっていたのも事実だった。

 そのため、全く新たに、岡山県水島において、発動機工場を新規に立ち上げ、戦闘機用火星エンジンを主として生産するという運びとなり、エンジン供給に不安が無くなった。後に、A20が完成すれば、水島工場はその生産へ移行することとされていた。


 こうした下準備があったとはいえ、烈風の試作は順調とはいかなかった。


 やはり、1500馬力程度ではまるで機体性能が引き出せてておらず、迎撃機に必要とされた上昇力が全く発揮できては居なかった。


 唯一、雷電との違いはその機体計上であり、雷電が紡錘形状を採用していたのに対し、烈風は既存の機体同様に、エンジン以後を絞り込んでいく形状としていた。

 このため、雷電がエンジンカウルも極端に絞り込んでエンジンからプロペラまでを延長軸で繋ぎ、空気抵抗を減らす努力をしているのだが、烈風は艦上機であるため、全長は空母の艦内容積やエレベータによる制約を受けるため、極力零戦と同等寸法以内におさめることが求められていたため、あえて既存の形状で設計が行われている。


 それが幸いしたのか、雷電で苦慮した振動問題というのは烈風では起きていない。


 さらに、烈風で幸いだったのは、零戦の後継機とされた十八試艦戦においては翼面荷重が零戦並を要求されたのに対し、侵攻攻撃は零戦、艦隊直掩は烈風という役割分担が前提であったため、空母への離発着さえ安全に行えるのであれば良いとされていたため、旋回性能などの要求も緩く、ほぼ自由に開発することが出来ている。


 それでも機体規模が零戦並に制限されたため、そのエンジンが大きく、速度も大きく向上することから機体強度も要求された結果、自重は零戦の1.5倍に達し、小型空母への離発着を容易にするために、ファウラーフラップの装備や翼面積を拡大するために特異な翼型を採用するなど、三菱らしくない外観を持つに至っている。

 そして、1942年秋には火星が1800馬力まで出力向上を果たしたことで、時速596㎞を記録し、要求された性能を示すまでになり、とうとう制式化されるに至った居る。


 さらに特筆すべきは、烈風においては、その武装強化が課題となったため、20mm機銃2丁、13mm機銃2丁という要求に対して、大西は異種混載による射線の違いを問題視し、検討の結果、武装を統一することとなった。

 ただ、この当時の20mm機銃は僅か60発のドラム弾倉しか装備されておらず、20mm4丁では威力はあっても継戦能力に不安が持たれていた。そのため、13mm機銃4丁とされたのだが、機体の設計に際して肝心の13mm機銃が未だ完成しておらず、困っていたところに、父の強引な介入によって、陸軍のホ103をそのまま採用せよとの圧力が加えられ、海軍独自の13mm機銃開発は急遽中止され、陸軍からホ103を導入し、海軍でも同じものを生産することとなったたことで、武装に関しては遅滞なく設計、開発を行うことが出来たという。


 こうして、烈風一一型は1943年春、雲竜型の竣工にあわせるかの様に量産が開始されている。


次回10月7日20時です。

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