#1 子猫の正体と決意
「ね、猫じゃん…」
家の前の電信柱の下に落ちていたのは猫だった。
真夏で体も熱くなっていたが猫だった。
「熱い…息も絶え絶えだけど…生きてるっぽい」
どうやら生きてはいるらしい。
あれこれ考える暇もなく部屋に持ち帰った。応急処置の知識なんかある訳もなくとりあえず冷房をガンガンにしてスポイトで水をあげた。
……助かるわけ…ないか…
猫をベッドの上に置いて玄関に置きっぱなしのカバンを取りに戻る。
カバンとジュースを持ってそのまま部屋に戻る。
目の前には驚愕の光景になっていた。
「……?」
ベッドのうえには猫ではなく女の人が寝ていた。
年齢は自分よりは年上であろう。髪はサラサラの黒で長く、ピンクのパジャマのようなものを着ている。正直めちゃくちゃ美人。
「え…この人…誰や…」
こっちの頭の整理がつく前にその女の人が目を覚ました。
「ここ…どこ…?」
「そっ、そそそ、そ、その前にあんた誰だよ!なんで俺のベッドで寝てんだよ!どこから入ったんだよ!」
ありのままに疑問をぶちまける。
真面目に誰なんだこの女の人
「わかんない。気がついたらここにいて……あっ」
言いかけたところで明らかに これはまずい みたいな顔をする。はっきり言ってリアルに青ざめてる。
「な、なに…どうしたの」
突然彼女は俺に抱きついてきて耳元で囁いた。
「いまから何を見ても…驚かないでね」
そう言うと彼女はボクの目の前で手を叩いた。つまるところ猫だましってやつだ。
不意打ちを喰らい目を閉じてしまう。
目を開けると目の前にいた彼女は消えていた。代わりに猫が目の前に座っていた。
「ま、まさか」
ボクの脳裏をよぎったのは
目の前にいる猫=さっきの彼女
という方程式。
「さっきの…女の人じゃないよね」
ボクは猫に向かって話しかける。もちろん半信半疑だ。
今度は猫がボクの顔を容赦なく引っ掻いた。
「いっでええええ!!!」
再びと苦痛で両目を閉じる。
「ごめんね。大丈夫?」
さっきの女の人の声。目を開けるとやはり彼女がいた。
「何が言いたいかは分かった。さっきの猫=君ってことはわかった。…いでで」
やっぱりって感じだった。だけど未だに夢と現実の区別がつかない。普通ありえんだろ。猫が人になるって…。どういう状況?なに?わけわかんないよ…
「やっぱり、変だよね。」
そうつぶやくとドアに手をかけた。
「どこいくの。」
とっさに聞き返していた。
「わかんないけど。また野良になるのかな。」
「野良になるくらいなら…家に…いなよ。」
何言ってんだボク。
堂々と言ったもののどうすればいいんだよ。家には母さんも父さんもいる。ついでに姉もいるし。
「なんで…今までの人とは…ちがうの」
彼女は泣きながらボクに言ってきた。
「今までの人?」
「17年間野良猫やってたけど…招き入れてくれたのは君だけだよ」
彼女は泣きながら告げた。
まてまてまてまて年上じゃん。ボクまだ16だよ。
いや、うんそうだとは思ったけどさ。
「野良猫の辛さはわかってるつもりだし、なにより…なんとなく居てほしかったからさ。
ていうか…年上だったのね。ボクまだ16だし」
彼女は無言で頷いた。
そしてボクの右手を握った。
「信じていいの」
「もちろん」
「ほんとうに?」
「うん…ところで、名前はなんていうの?」
「…野良だから無いに決まってるじゃん。次回までに決めといて…」
「わかったよ。」
つづく