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冒険者たちへ  作者: 沈蟹
9/10

術者の嘘がばれて騎士が代案を出す

公子とワーズ、二人の視線がマフへと集まる。


彼はソファーに座り、身じろぎも出来ず視線を受けたまま、物思いに耽る。


---参ったな、誤魔化しようが思いつかない---


「あ~、つまりは、あれです・・・。」


マフは包み隠さず全てを白状する。


諸侯軍の話は聞いていない事、男爵家の執事に面識などない事、そして王国が滅びる事。


発端は東の大森林に見える暗雲が嫌な瘴気を孕んでおり、それを邪眼で見た事から始まったと言う。



邪眼とは太古に失われた秘術の一つ。


過去・現在・未来のあらゆることを見る事が出来る古の魔神の秘技。


かつての魔神は、この秘儀を使いあらゆる種族を従えていたという。



マフはその技を使い、遠征軍の閲兵式に参加していたワーズを起点に、国境砦の陥落、王国の東の要衝、城塞都市ラービルの陥落、近隣の町や村を蹂躙する魔物の姿を見たと語る。


そして王都においての籠城戦と王国軍の崩壊。


ワーズは生き残り王都まで戦い続け、国境砦を落ち伸びた公子の姿は、以後見る事はなかったという。


俄かには信じがたい話が、淡々と説明されて行った。


公子は、ふぅ と息を吐くとマフに問いかける。


「その邪眼とやらが有れば、世の中思い通りに生きる事が出来るんじゃないか?」


「いえ、見通す事が出来ても、それを何とかする術を持たなければ意味が無いわけですから。だから魔神も滅びたわけです。使うと死ぬほど苦しいですし。」


邪眼は世の中で言うほど万能では無いらしい。


ギャンブルで次の当り目を知る事は出来る。その当り目に大金をつぎ込んでも勝負自体がイカサマなら出目を変えられてしまう。


あくまでも、今の現状から一番可能性の高い経過をみる事が出来るだけ。


そしてマフは誰かを通して未来を覗く事が出来ても詳細を調べる事は出来ない。


「ですから、現状を大きく変えてしまうと何が起こるか分からなくなってしまいます。起こると予言して実際起こらなければ痛い子になってしまいますし、反動でもっと酷い目にあう事も有るわけです。」


「今、警鐘を鳴らして砦を守りきれる準備をしても、戦争が起きなくなったり、より大きな戦力を投入される危険性があるわけだな?」


「そうです。ですから元々あの戦場に居たメンバーに近い陣容で状況を好転させるのが一番確実だと思われるのですよ。」


ずっと俯いたまま話を聞いていたワーズの肩が小刻みに揺れる。


マフの邪眼を知っている彼女にとってみれば、今一つ実感の湧かない公子などより、王国崩壊の衝撃は大きなものだろう。


ソファーに座ったまま、自分の膝に頭が付きそうなくらいに項垂れていく。


「ん~~~っふっふっふ~♪ なんだか久々に! 燃えてきたわ!」


違ったようだ。


彼女は顔を上げると、目を爛々と輝かせ公子らを見る。


「これぞ騎士の本懐というやつね! 世界の危機に私たちで立ち向かうってわけね!」


『ね!』と促されても『うん』と素直に頷けない内容である。 


ワーズの妙なハイテンションも。


しかし、このまま時を費やしても公子の現状に良くなる兆しが見えないのも確かだろう。



だからだろうか、公子は宣言する。


「僕たちで運命みらいを変えられるなら!」


どうやら、こういった話は嫌いではないらしい。


マフは満足気に頷くと順番に視線をまわす。


「では、具体的に何をするか決めて行きましょう。後どれほどの時間が残されているかが分かりませんので、出来る事を纏めて動けるだけ動きましょう。」 


ワーズは堰を切るように話し始めた。


「まずは、ミケロット男爵の冒険者登録ね。そして私たちとパーティーを組めば良いわ。そうすれば、私がミケロット男爵の陣営に入っても違和感ないし、見どころ有りそうなのを見繕ってパーティーに勧誘していきましょう。」


「おぉ!そりゃいい。ミケロット冒険団の旗揚げだな。」


「僕の名前じゃなくても良いんじゃないか? 冒険者としてならマフやワーズ殿の方が高名なのだし。」


「ワーズで良いわ。殿なんて柄じゃないし。パーティーリーダーはあなたよ。男爵ってだけで影響力大きいんだから。」


「だったら僕も、ミケロットとだけ呼んで欲しいな。」


「私は殿下と呼ばせて頂きますよ。なにせ第一の家臣ですからな。それに殿下は爵位だけでは無い力をお持ちです。高貴な笑みは民を魅了します。」


「えぇ、そうね。あの微笑みは強烈だったわ! 一瞬、頭の中が真っ白になったもの。よろしくね、ミケロット。」


ミケロット冒険団の旗揚げ、そして王国の危機を救う為、立ち上がる。


公子たち3人は夜までの間、そんな話を続けて行った。


冒険団の旗揚げは、マフもワーズも登録している『歌と踊り亭』で行える。


マフは、未だに酒場が続いている事に驚いていたが妙に嬉しそうだ。


夜も更けて来た頃、食事がてら歌と踊り亭に向かい登録を済ませておくことになった。


明日は混成兵団の営舎に向かい、兎という兵士を勧誘する。


併せて公子の命を救うべく頑張ってくれた少女の出現を待つ。


彼女が現れる前後で諸侯軍の招集が有る筈だ。


運命みらいは自分で切り開く。 


王国を混乱に巻き込むであろう、新たな冒険者パーティーが結成されたのである。

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