公子と術者が騎士を訪ねて街を歩く
物語の舞台となる街の様子を少し。
自分で書いてて何ですが、読み辛いですよね・・。
この国の名はアストール王国、首都である王都もアストールと言う。
街は大きく3つの区画から成っている。
正確には、元々3つの都市が成長・合併し一つの都市となっていた。
一つは、海より北に数キロ離れた内陸分に建てられていた、王城のある高台を中心とした都市国家。
一つは、その都市国家の南東に位置した衛星都市である沿岸部の港町。
一つは、その西方にあった古代遺跡。
この3つが王城を頂点とした三角形のように、現在の王国首都を形作っている。
王城を中心とした旧都市国家地域は、そのまま王国の中心として、いまでは貴族ばかりが住む貴族区となる。
港町は港湾の整備が進み、一部は艦隊の軍港、大部分は商船の出入りする交易港として栄え、一帯は港湾区と呼ばれた。
港湾区から貴族区へは、中型船が行き来できる大きさの運河が整備され、運河通りをメインストリートとして、主に、その東側が王国の市民権を持つ者達が住む市民区として発展している。
運河の西側は、その大部分が農場として使われているが、遺跡周辺には市民権を持っていない流民や行き場の無くなった者達が集うスラム街、一種の治外法権の場も存在する。
尤も、人が集まれば営みが有り、生きて行く為には金も必要にもなる。
非合法であれ、そこには秩序が有り、その非合法な商システムを必要とする人々が独自の繁栄をもたらしていた。
雑多な人々が雑多な品々を商い、娼館が有り、安宿が立ち並び、旅人や冒険者、無法者を受け入れる街の姿を見せている。
王都全体を覆う3重城壁とは別に、遺跡を中心に内壁で囲まれた地域を、遺跡の名称から因んでガイオン地区と呼ぶ。
王都の南西の端、ガイオン地区は都のならず者達が集う、多くの人は立ち入らない地域だ。
と、僕は聞いていたのだが、人の話など当てにならないもので、実際に目にするガイオン地区は人で溢れていた。
運河通りの西側を進み、市民区とガイオン地区を隔てる胸壁を潜り抜けると、そこは別世界であった。
胸壁に並んで建てられた石作の小屋には、数人の警備兵が門番として通行人の行き来を見守っている。
その門の内と外で雰囲気がガラリと変わっていた。
決して市民区の運河通りが栄えていない訳ではない。 商館と倉庫が立ち並び、船から荷の積み下ろしをする人々で賑わっている。
小さな商店も綺麗に品物を並べて道行く人々の目を楽しませていた。
ガイオン地区に入ってからのそれは、その密度がまるで違う。
小さな商店と、人々とその隙間を埋めるように立ち並ぶ、大小様々な露店の数々。
中には、道の端に布を敷いただけで商品を並べる者たちもいる。
食材や日用品などの雑貨を売る者がいれば、刃物の研ぎ師や小さな炉を手にもった鍛冶屋など、自らの技術を売りにしている者たち。
「マフ、今日はガイオン地区で祭りでも有るのか?」
少し興奮気味に隣を歩く男に声をかける。
「だいたい、いつもこんな感じです。 誰だって生きて行く為には働かねばなりません。
ここは、市民区の住人相手にも商売できるので、後ろめたい事のない奴らはここに集まります。」
言われてみれば、この一帯にいる人々はごく普通に市民区で見る人々も多くいる。
ガイオン地区と言っても、噂ほどおかしな場所ではないのだろう。
そう思って、マフに訪ねてみる。
「運河通りと、城門に通じる沿岸部は比較的落ち着いてますね。 その辺りには、市民区の住人もよく出入りしていますから。 でも遺跡の方は近寄らない方が良いでしょう。
あと、市民区からガイオンに出るにはほとんどノーチェックですが、こっちから市民区に行くには武器等を持っていると止められます。 怪しい奴も止められますから注意が必要ですね。」
だとしたら、この男はどうやって門を通過したのだろうか。
この風体は怪しむ程ではないのか?
疑問に思っているとマフは一枚のカードを見せてくれた。
「私は、さるお方より身分を保証され、貴族区までの通行を許可されております。」
聞いた事もない貴族の名前で発行された通行許可証だった。
王国の権威の届かない、それでも秩序と雑多な賑わいのある、有る種の混沌とした地域。
街の喧騒に耳を傾けながら、マフは詳しく説明してくれた。
「この辺りは、運河が通った後の再開発で随分と賑やかになってるんですよ。」
マフが駆け出しの冒険者だった頃、この一帯は今ほど綺麗な街並みでは無かったらしい。
道は狭く、この辺りも路地裏の安宿や酒場が幾つか有った程度の、賑わいとは無縁の地域だったと言う。
自分の知らない、昔を知る男の話に、少しわくわくする。
マフも、嬉しそうに話を聞く少年に、少し得意げに昔話を披露していた。
「ワーズの家のちょうど裏手辺りに、昔『歌と踊り亭』って冒険者の酒場が有ったんです。」
マフと女騎士はその酒場に所属している冒険者だったそうだ。
大きな街には、冒険者達の為のギルドが建てられている。
もちろんガイオン地区にもギルドは有る。
そして、ギルドに近い酒場や宿屋などは、雑多な事務処理などを代行して行い、手数料を取っている事があるそうだ。
「流れ者や、そういうのを嫌う奴等も居ますけどね。決まった街を拠点に活動してるパーティーは、なじみの店ってやつを持っているもんです。」
読み書きが出来なかったり、人前に出るのが憚られたりするパーティーにとっても、助かるシステムだと言う。
酒場や宿屋も、手数料が手に入るし、有名なパーティーを抱える所は、それだけで客が増える。
荒事専門の傭兵稼業のような手合いであれば、それなりの人数もいるので、彼らの拠点というだけで商売が成り立つんだそうだ。
「それにですね、下手な吟遊詩人より、生の冒険譚をそのまま聞けますからね。酒の肴にはもってこいなんですよ。」
依頼を出す側も、ギルドを通して話が漏れる心配をするより、目当ての手合いに直接依頼を出す事が出来るメリットが有るそうだ。
「雰囲気と言いますか、その手の仕事に手慣れたパーティーは、その手の雰囲気の酒場に集まりますので。」
目的の女騎士の住居は、胸壁を超えて運河通りの西側の道を、暫く歩いた場所にあった。
沿岸部の大通りには、まだ距離があるが、この辺りから西に進めばガイオン遺跡にたどり着くそうだ。
もうそろそろ目的地に着くと言う頃、ワーズと言う女騎士についての注意点をレクチャーされた。
曰く、怒りっぽい、直情傾向、人の話を聞かない、独自の美学的な物を持っている。
倫理観も独特らしい。
これから話をしに行くと言うのに、不安になる事前情報ばかりが出てくる。
そして、彼女の異名は『混沌』と言うそうだ。
石作りの2階建ての建物、横に広く、人の出入りするドアの右側に、倉庫の入り口のような大きな両開きの木の門。
裏手には厩舎と小さな庭がある。マフは厩舎を覗き、馬が居る事を確認する。
在宅している様だ。
僕は出入り口の呼び鈴を鳴らし、この家の主、女騎士ワーズ・ラン・シエルを訪ねた。
それから数分しか経っていない筈である。
今、マフは膝を屈し、両手を地面に着き、項垂れている。
女騎士は手に持った剣を構え、鋭い気合い共に一撃を繰り出さんとしていた。
彼女の異名は混沌だと言う。
僕に、この混沌とした状況を何とか出来るのだろうか。
頑張って続きを書きます。
そりゃーもう、頑張ってですよ。