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高橋課長の憂鬱  作者: 月立淳水
はじまりからおわりまで
6/20

●海草

 高橋課長は左の口角を上げる。


「面白いこと考えた」


「課長がその顔してるときはろくなことがないっす」


「いいから聞け」


 高橋課長はまたもや図鑑を開く。


「今回のターゲットは海草だ」


「一応そういうつもりで来ましたからね」


 佐藤主任もうなずく。


「しかし、海草ってのは、地球の海のどこに行っても全部違う種類ってくらいいろいろあるらしい」


 めくってもめくっても終わらない海草のページ。


「魚も同じっすけどね」


「だが、魚は逃げる。海草は逃げない。むしろ、待っていても網にかからない」


「はあ、なるほど、考えてみればそうっすねえ」


「つまり、能動的に採取に行くわけだ」


「はあ、考えもしませんでしたねえ」


 佐藤主任はぼんやりと遠くに地球が見える船窓を眺める。


「そこで、長距離飛行艇を借りることにした。これで、着水、採取、離陸を繰り返せば効率がいいだろう」


「おっ、いいっすね!」


 どうせ飛行艇の操縦なんてできないので人任せにできる、と、あからさまに表情を明るくする佐藤主任。


「それを、二機」


「……二機?」


「俺の分と佐藤の分」


「嫌な予感しかしない」


「こうやって世界地図を広げてな」


 高橋課長はかばんから大きな地球の世界地図を広げた。


「こうやってダーツを投げる」


 至近距離から放たれたダーツはアゾレス諸島に当たった。


「どこに刺さっても、必ずそこで海草を採取する」


「陸に当たったら?」


「当てるな。で、最終的に採れた種の数で勝負だ」


「そんな遊びみたいなことやってていいんすか」


「遊びでも入れないとやってられん」


「……課長がいいんなら、いいっすけど」


「じゃ、到着したら、開始な」


***


「カウントは海草友の会の皆様」


「どんなものにもマニアっているもんすねえ」


 そのマニアたちが、高橋課長と佐藤主任の前に、恭しく集計結果の紙を封に入れて差し出す。


「ねえ、やっぱりやめませんか」


「いまさら何を言う」


「いや、ほら、見てたじゃないっすか、僕が十回中四回も陸に当てて」


「砂漠で海草探すのは宇宙でもお前くらいだろうな」


「海に当てたときも、三千メートルの深さの海でどうやって海草を採れと」


「当てたお前が悪い」


「っていうか、課長なんであんなに上手いんすか。練習してたでしょ」


「学生の頃ダーツの地域選手権で優勝したことがある」


「ずるいっす」


「はい結果発表ー」


 おもむろに片方の封筒を開ける高橋課長。


「はい、佐藤主任、合計採取数、二百十五種」


「うえっ、二百!? マジっすか。これ、楽勝じゃないっすか。実質三回しかまともに採れてないのに二百超え! 僕才能あるんすかねえ」


「うるせえ黙ってろ。じゃあ、俺の――」


「あー、僕が開けてあげますよ、ほら、ショック受けちゃうかもしれないっすから。はい、頂きます」


 と、佐藤主任は無理やりに残った封筒を奪い取る。


「では発表、デレデレデレデレ……」


「なんだそのデレデレは」


「ドラムロールっすよ」


「だったらダララララ、だろ」


「デレデレですよ」


「……耳か頭かどっちかおかしいな」


「その言葉そのままお返しします」


「いいからさっさと開けろ」


 気を取り直して、封に手をかける佐藤主任。


「では、行きます。デレデレデレデレ……ジャン! 高橋課長、百ご……えーと、千五百……あれ? い、一万五千三十八種……」


「おー、思ったよりいったなあ」


「何でこんなにあるんすか! おかしいっすよ! 不正っすよ!」


「不正じゃねーよ。適当にでかい網海底引きずり回したら千や二千種は入るんだよ。世界中満遍なく種の多そうな温帯から熱帯の遠浅の海岸を狙ったからな。それに場所が違えば全部違う種ってぐらいにいろいろあるし」


「絶対不正っすよ! ちょっとリスト見せてください……ほらー! ナントカエビとか入ってるじゃないっすか! 海草じゃないっすよ」


「数えるのは海草だけとは言って無いだろ」


 佐藤主任のクレームを予想していたのか、高橋課長はすぐにポケットからレコーダを取り出し再生する。それは『で、最終的に採れた種の数で勝負だ』と、高橋課長の声を流す。


「だまし討ちだ! それがかわいい部下に対する仕打ちですか!」


「怒るな。いいか、俺は、お前をかわいいと思っているからこそ、こうやって試練を与えてるんだ。これを乗り越えて大きくなって欲しい。その気持ち、分かってくれ」


「え……ほんとにですか……い、いや、そう言われると、ま、僕もそりゃ、今度こそ、って思わないでもないっすけど……」


「もちろんだ。お前にはいつか俺を越えて欲しいと思ってるんだ」


「……課長、その……僕、必ずやります!」


 高橋課長はうなずく。


「さて、では敗者の罰ゲームを考えないとなあ」


 再び彼の片側の口角を上がる。


「……あれ? そういう流れでしたっけ? 罰ゲームってなんすか?」


「勝負だっつったんだから、負けたら罰ゲーム。な」


「いや、聞いてない――」


「負けたら罰ゲーム。宇宙の常識。人類の知恵。アダムがリンゴ食ったときから決まってんの」


「嘘だー」


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