●サンゴ
「褒められた」
「あれで?」
「そう、『わしの求めとったのはこの方向じゃ!』ってな感じで」
「ええー」
最高に気持ち悪い海の生き物たちを社長の下に送り届けた直後の、高橋課長と佐藤主任の会話だ。
「だけど最低限つがいにしろ、らしい。お前もう一回ウツボな」
「無理っすよ、結局あのあと専用水槽発注までして持ち帰って」
「だったら最後まで面倒見てやれよ。あれ、あいつオスかな、メスかな」
「いやですよ、あんなのの性別鑑定なんて」
「あー宇宙の彼方で一人ぼっちーかわいそうー……花婿か花嫁か見つけてやれ、な」
「ってことはまだ行くんすね、地球」
「まあな、それに、もっと変なものわんさか仕入れろと。食えそうにない魚も含め、だと」
「食えない魚集めてどうするんすかね。水族館でも作るんすかね」
「水族館か、なるほど、ありえる」
果たして、あの惑星オウミで水族館なんぞを一つ二つオープンして、社の利益にいかほどの足しになるだろうか、と思わないでもないわけだが。
「ともかく、次はあれで行こう、サンゴ」
「サンゴ? あの、海の中の木みたいな」
「あれもよく見るとキモいぞ」
「キモいのはもう勘弁ですう」
***
「サンゴって……シュコー……あんまりないもんだな」
「シュコー……あの図鑑、間違ってるんじゃないすかね」
「いろいろな姿形があると……シュコー……それだけしか書いてなかったからな」
二人は水中会話用のマイクを介してしゃべりながら、足元を見まわす。
図鑑に載っていた、あの真っ赤は小枝のようなものは、どうしても見つからない。
「ちょっと僕も見てみますよ……シュコー」
佐藤主任は、自分の情報端末を開き、図鑑を呼び出す。
確かに、真っ赤な小枝だ。
ほかにもいろいろな形があるらしい。
たとえば、テーブルのような形。
その名もテーブルサンゴだ。
海の底に上面が平らなテーブルを広げたような形のようだ。
そう、ちょうど高橋課長が腰かけているような。
「……課長、その座ってるやつ……」
「ああ、腰かけるのにちょうどいいから……シュコー……うわ、キモ」
高橋課長は座っていたそれが平べったいテーブルなのではなく、何か小さなぶつぶつがいっぱい寄り集まっているものだと気づき、あわてて立ち上がる。
「それサンゴっす……シュコー」
「これが? 本当に? ……そう言われれば、シュコー……そうかもしれんな」
高橋課長も図鑑を再度開き、その隅っこの小さな写真を確認する。
確かに、こんな形だ。
「サンゴと言っても全部違う種なんだなあ。とりあえずこいつは押さえて、……シュコー……ほか、ちゃんとしたサンゴっぽい奴も探すぞ」
「えー、それでいいじゃないっすかー……シュコー……キモさも抜群だし」
「じゃあ、一種ごとに査定ポイント一点な」
「ま、ま、ま、マジっすシュコゴブファッ」
あわてて酸素マスクを口から吐き出す佐藤主任。
「あー、残念、危機管理にリスクありってことでマイナス十点スタートな、はい、十種見つけてプラマイゼロをめざせ!」
「ガボフォッ、ゲフォッ、ごほっ、シュコーッ、シュコーッ、シュコー……ひどいっす……」