3.性癖は重要項目です
ちょっと短いです。
ーーーーセイド・ヨークシャー・アルクイン様からの正式な縁談の礼状が届いたのは、次の日のことだった。
しかも、今更ながらに気づいたことだけれど、公爵家からなんて身分が明らかに格上の方からの縁談なんて断りようがない。
というか断れば、わたくしの両親ーーひいては伯爵家を継ぐお兄様にも迷惑がかかってしまう。
混乱していたとはいえ、盲点だった。
「どうすれば良いかしら、ミラ」
「ご結婚なさったらどうですか、お嬢様。妙な性癖がないだけでも十分なのでは? 恋愛したいのならば、いまからゆっくりと結婚後に愛を育めば良いのですし、届けられた絵姿を見る限りお嬢様の好みのど真ん中ではないですか」
自室のソファに腰かけて、わたくしは考え込む。
まぁ、性癖が普通なのは歓迎すべきところね。わたくしの今までの求婚者は、皆ちょっと……アレな男ばっかりだったもの!
それに、顔が好みなのは絵姿をじっくり見て思ったわ。認めます。
いつもは遠くからぼんやりと見る彼の顔は、予想以上に好みだった。
そんなことを思っていたら、慌てたようなメイドの足音が聞こえたあと扉が開き、転がるようにメイドがなかにはいってきた。
「こら、お嬢様の前ですよ! それに、ノックをしなさい! あと廊下は走らない!!」
「すいません、お嬢様、ミラさん! ですが、緊急で……」
「どうかしたのかしら?」
「セイド・ヨークシャー・アルクイン様がおみえになりました!」
……は?
「ですから、あの、アルクイン公爵家のご令息が参られたんですっ! お嬢様にお会いになりたいと!」
あらぁ……セイド様ったら、おひまなのかしら?
いきなりの訪問に気が遠くなり、どうでも良いことを考えてしまった。
……はっ! いけない、いけないわミルドレッド!わたくし、心の準備がッ!!
「ミラ…………」
「なんでしょう、お嬢様」
「わたくし、ちょっと頭痛が痛いのと目眩と貧血が酷くて風邪を引く予定だから、寝室に籠るわ。なにか聞かれたら、愛人と鞭と消えましたと言っておいてちょうだいッ!」
「…………お嬢様、流石に無理があります」
「わたくしには、被虐趣味も嗜虐趣味もなくってよ!!」
「いえ、誰もそんなこと聞いてませんから」
断りを入れるための、心の準備がまだなのよわたくしは!
非常識ともいえる突然の訪問に、どうすれば穏便に、伯爵家に被害が及ばないように縁談を断れるかを脳内で詮索していたわたくしは、うっかり取り乱してしまった。
けれども、考えてみればこれはいいチャンスかもしれない。
「セイド様に、きっちり話をつければこの縁談はなかったことにしてもらえるかもしれないものね。もしくはセイド様に、嫌われるか」
とりあえず心を落ち着かせてから、わたくしは考え込んだ。
伯爵家から断りをいれにくいならば、断ってもらえるようにすればいいのだし、社交界にはたくさんの妙齢の女性がいる。
それをセイド様は選り取りみどり選べるだろうから、別にわたくしでなくともいいと思うのだ。
……我ながら名案でしょう? わたくし、精一杯セイド様に嫌われるようにしてくるわ! もしくは、縁談の破棄を堂々と言うの!
昨日よりも固い決意にもえながら、わたくしは高らかに笑った。
「お嬢様……訳のわからない病と、鞭と愛人はよいのですか?」
「お、お嬢様ー?」
わたくし、頑張るわ!