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2.酔狂な求婚者

ーーーー大舞踏会から数日経った、天気の良い午後。

わたくしは屋敷の庭園にテーブルとイスを出してもらい、アズーリとティータイムを楽しんでいた。

今日の茶葉はキャンディで、甘い砂糖とミルクをたっぷり入れたロイヤルミルクティー。

お茶うけには最近アルフ王国の王都ーーつまりはここね。で流行りのチョコレートブランドの店であるフルールのチョコレートが用意されている。


(ねえ)様、姉様、先の大舞踏会はどうでしたか? 俺は兄さんにエスコート役をとられたんで、詳しくはまだ知らなかったんですよね。それに、ダンスの合間に兄さんの方を見たら、女性に囲まれた兄さんの姿だけで姉様の姿は見えなかったんですよ」

「あぁ、わたくしもそのすぐあとに一人で帰ったものね」


可愛らしいトリュフを摘まみながら、わたくしは納得したように頷いた。

だけれどアズーリはいつまでたっても心配性ね。お兄様共々、結婚できるのか逆に心配よ。

せっかくの休みくらい姉なんかに構ってないで、恋人に引っ付いていればいいのに。

まぁ、可愛い弟だから満更でもないけれどね!


「別にいつも通りだったわよ。ちょっと勘違いした間抜けな男に鞭片手に迫られたけれどね」

「ッ?!」

「思わずわたくしったら、地に沈めてしまったわ。わたくしは悪くないわよ? 女性に沈められる脆弱な男がいけないの!」

「当たり前です! 姉様は悪くない。その男がすべて悪いですよ。姉様は美女だから、気を付けてください」

「あら、アズーリったら。そんな言葉は恋人に囁きなさいな」

「恋人はいませんし、姉様より美しい女性もいません」


あらあらレディーの皆さんが聞けば泣くわよ? それに…………ねぇ?


「そんなこと言っていたら、シスコンか、男性に興味があるのかと疑われるわよ? 現に、アズーリとーーほら、あなたの親友……」

「ジェイクですか?」

「そう、その方! とのアレコレ捏造した、禁断の本がマニアックなレディーの間で流行っているそうね? なかなかに挿絵が美麗なのですって」

「…………」


アズーリは怖いかおで黙ってしまった。

ほら、やっぱり恋人はいた方が良いのではなくなって?

ちなみにジェイクとは、アズーリの同期の近衛騎士で、背の高い男だ。

わたくしはそちらに興味はないし、読んだことはないのだけれど、人気があるらしいわね。


「シスコンはいいですけど、ソッチは見付け次第燃やすことにします」

「まぁ、増刷されているようだから難しそうだけれど、頑張りなさいな。一番は恋人をつくればいいと思うわ」


甘い甘い紅茶を飲みながら、わたくしは笑った。




「ミルドレッド! アズーリ!」


そんなこんなで、穏やかな時を過ごしていたのだけれど、それは仕事に出たはずのお兄様の声で破られた。

騎士団の制服のまま駆けてくるお兄様は、悪魔のような形相になっている。

あらやだお兄様ったら、もともとわたくしと同じで目付きがすこーしキツいのだから、注意しないと人を殺せそうな眼光になっているわよ。


「どうしたんですか、役立たずな兄さん。次からは夜会も舞踏会も姉様のエスコート役は俺がしますから」

「うっ、すまない! お嬢さん方に囲まれてミルドレッドを見失ったんだ。次からはしっかりエスコートするから、エスコート役からはずすのはやめてくれ!」

「嫌ですよ」


流石に鍛えているため息は乱していないが、動揺はしているお兄様は顔が赤い。

けれど、わたくし面倒くさいことはごめんよ。この場合、かなりの確率で面倒くさいことを持ち込むつもりではなくって? お兄様は。

早く用件を言ってくれるかしら? それによって、今度のわたくしの対応がかわるのよ。


「それで? お兄様ったらどうなさりましたの? 騎士団の制服のままなんて、珍しいではありませんの」

「あぁ、ミルドレッド! 大変なんだ! お前に縁談が来ている!!」


……縁談?


それはどこの被虐趣味の持ち主(ドM)かしらね?



「……罵られるのが好きな方? 鞭打たれるのが好きな方? 踏みつけられるのが好きな方? それとも蹴りつけられる方が好みの方かしら? いえ、いっそ全部?!」


悩んでしまった。

わたくしはそんな趣味はもってないので、どれも勘弁してほしい。


「姉様……」

「言うな、アズーリ。なんでこうなったんだ? 私の可愛いミルドレッドが……ミルドレッドは、少しばかり気が強いだけのお姫様なのに…………なぜ」


失礼ねっ!

でも、そういうことでしょう?


「わたくしへまともな縁談なんてあるわけないもの!」


ちなみに少し前に来た縁談は、やっぱりまともなものではなく、定期的に来る婚約者だった男からの手紙もまともじゃなかった。

綴られている、蹴りつけてほしいとかなんとかのポエムにわたくしがドン引きしたのは記憶に新しい。

ふふ、再起不能にして差し上げようかと本気で思いましたわぁ。

あら、わたくしは悪くないわよ?

責任? そんなもの、転嫁しているわよ。相手の男に。

仕方がないでしょう? わたくしの、あの婚約者に対する行為は正当防衛だもの!



「いや、今回はまとも…………あの、アルクイン公爵家の跡継ぎで、王位継承権第五位のセイド・ヨークシャー・アルクイン様だ」


……は?


わたくしはお兄様の言葉に固まった。

アルクイン公爵家と言えば、四つある公爵家のなかでも王家と血が最も近く、現王陛下の弟殿下が継いだ家だ。

セイド様は、第一王子、第二王子、第三王子、アルクイン公爵閣下に次いで王位継承権第五位の方。

今までとは次元が違いすぎる。

妙な性癖等は聞かないが、公爵補佐としての領地維持の手腕は素晴らしく頭もキレて、なおかつ品行方正な美青年だ。

そんな雲上の方が、なぜわたくしに求婚を?!

思わずフリーズしかけたわたくしを、アズーリがゆすって現実に引き戻す。

あぁ、このままわたくしは現実逃避してしまいたいわ……


「……ッ、というかセイド様と言えばお兄様と同い年で、お兄様とも親交がありましせんでした?!」

「ま、まぁ……あるな。あの方は十七歳まで私と同じ、騎士団になぜか所属していたから」


けれど、わたくしとは直接的な交流はないはずよ。

黒髪に黒曜石のような瞳の、しなやかな黒豹を彷彿させる美しい容姿の彼は社交界で絶大な人気をほこっていたけれど、わたくしには関係ないーーーーつまりは恋愛対象に含まれていなかった方よッ?!

公爵夫人なんて、面倒くさいことはごめんだったしね。


「…………お断りしましょう、お兄様」

「一応、理由を聞こうか?」

「変な性癖がないのはうれしいし、まともな恋愛をしてみたいのもあるけれど、わたくし面倒くさいことはごめんよ! それに、セイド様は被虐趣味の持ち主だったのかとかなんとか言わてしまうわよ?!」


そう、確実に言われる。



「だから、絶対にお断りしてちょうだい! 我が儘だと言われようと構わないわ! わたくは平凡で、真面目で、変な性癖だけはない人と結婚するから!」



道のりは長いかもしれないが、関係ない。


わたくしは絶対に公爵夫人にはならない!

その方が、きっとわたくしにもセイド様にとっても良いことだと思いわッ!!!




ーーーーわたくしは、そう決意したのだった。

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