第八話 『精神が壊れそうだ……』
魔法を教え、テンションを上げさせる。
その後に今は使えませんと言って落とす。
昨日の夜はショックで寝れないかと思ったぞ。
寝れたけど。
で、そして次はこれか。
「ゼオ。お前の為に、これを買ってきたぞ」
そう言って父さんは見せて来た。
魔道書を。
ははっ。
父さん母さん。
あなた達は俺の精神を壊したいのか?
とにかく、魔法が使えるんだからなんでもいいや。
この魔道書、結構安いほうのもので、五大攻撃魔法、さらにその簡単な魔法しか載っていないらしい。
でも、魔法には変わりない。
「ゼオ。まず何の魔法がいい?火?水?それとも……」
むむむっ……。
どの魔法にしようか。
定番の火……いや、水や地は便利そうだな。
風や雷もカッコいいし……。
迷う。これは迷うぞ……。
だが、これはやっぱりあれだろう。
「火!!火が良い!」
と、言った後に気付いた。
俺、この年でこんなはしゃいで……。
やばっ。めっちゃ恥ずかしい。
「分かった。火ね。まず、お外行きましょうか」
え?外?
そっか、外じゃなきゃ魔法使えないか。
これは……やばい。
俺は外に出るのは初めてだ。
それに、前世では小学校以来だ。外なんて。
うっ……。
いざ外に出る時になると、緊張するな。
「ゼオ。どうしたの?」
おっと。
母さんに心配はかけてはいけないな。
よし、決めた。
外に出てやろうじゃないか。
母さんは玄関のドアを開けた。
ここからの風景なら何度も見た。
が、この先は初めてだ。
母さんはすんなりと外に出る。
ちょっ。
出来れば一緒に。
いや、俺はそんな年じゃない。
俺はゆっくりと家の外に出た。
「……」
そこは明るかった。
家の電気や、火の明かりとは比べ物にならない。
そこはとても明るかった。
「ゼオ?……そっか、ゼオはお外に出るのは初めてだったね」
母さんが何か言っている。
周りには家が立ち並んでいる。
俺の家と同じような小さい家だ。
立派な木も立っている。
綺麗な花が咲いている。
気持ちいい風が吹いている。
違う。またもや俺は転生したのか?
ここはまるで異世界だ。
ははっ。
「どう?気持ちいいでしょう?」
母さんが頭に手を置いてきた。
気持ちいい。
確かに、外は気持ちいいな。
「さっ。行きましょう」
そうだな。
魔法だ。魔法。
その前にこんな良い気持ちになるなんてな。
魔法の訓練は、というと村の外でやった。
しかし村から離れているわけではない。
安全な場所だ。
ここを選んだのは二つ理由がある。
一つは、村だと危険だからだ。
母さんはそう言っていた。
それしか言わなかった。
が、俺はもう一つ理由があると思った。
俺の外見のことだ。
たぶんだが、俺の外見はやはり人から見れば裏切り者の息子だ。
そんな奴が村の人からどんな目で見られるだろうか。
それを母さんは心配したのではないだろうか。
ま、俺の勘だけどな。
さて、魔道書は既に全ページ読んだ。
母さんがファイアーボールのページを開いて見せてくるが、俺は既に覚えている。
俺の魔法への愛を甘く見ないほうがいいぞ。
愛……とは少し違うな。情熱か。
ま、何でも良い。
俺はその長ったらしいのを読んだ。
詠唱の良いところは、何もしなくても、読むだけで魔法を使う事が出来るところだ。
ただ無心に読めばいいんだ。
ま、俺は全然無心じゃなかった。
興奮で胸がいっぱいだった。
「……ファイアーボール!!」
そして最後にそう言い放った。
決まった。
ははっ。
「!!」
すると目の前に赤い光……火の玉が現れた。
大人の拳くらいのサイズだが、大きさなんてどうでもいい。
俺は、魔法を出したんだ。
俺が、魔法を出したんだ。
「やった!母さん!」
「うん。成功ね」
絶対成功するのだが、やはり嬉しかった。
と、興奮してたら火の玉が消えた。
ほんの数秒だった。
あれか、集中していなきゃいけないとかいうやつか。
が、とにかく俺は魔法を使ったんだ。
俺が。
ははっ。
もう一回やってみるか。
さっきはゆっくり言ったが、次は早く言おう。
俺の魔法だ。
ははっ。
「ファイアーボール!!」
するとやはりそこには火の玉が現れた。
俺の、火の玉だ。
母さんは見守ってくれている。
なら大丈夫だ。
操ってみるか。
……。
しかしどうやるんだ?
と、思っていたら消えた。
集中力を切らしてしまった。
ならもう一回、やってやる。
次はもっと早く、だ。
「ファイアーボール!!」
やっぱり、そこには火の玉が現れた。
さて、右手で動かせるのか?
……ってあれ?
右手が、動かない。
右手だけじゃない。全身だ。
頭もぼうっとしてきた。
あぁそうか。
魔力が、尽きたのか。
「ゼオ!!」
母さんの声が聞こえた気がした。
俺はそのまま、気を失った。
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