第六話 『やれやれツンデレとの会話は疲れるぜ』
「……」
父さん。これ、どうしてくれるのさ。
コミュ力ゼロの俺にどうしろと。
俺の隣にいるミニアは、泣いていた。
それも大泣きだ。
そりゃそうなるだろ。
自分の親が、見知らぬ男に殺されそうな勢いで怒鳴られたんだから。
挙句の果てに、そのまま大人三人は別の部屋に行きやがった。
何があったかは知らないが、せめて泣き止まして欲しかったな。
俺に泣き止ます能力はない。
話しかけるのもやっとだと言うのに。
「ミニ……ア?」
「……ひっく……ひっく」
ようやく泣き止んできたが、俺のことはがん無視だ。
いや違う。これはあれだ。
そこで見守ってて。
そうだろう?
ツンデレはそういう言葉を発せないからな。
しかし無言は気まずい。
だからと言って、話す話題もない。
なんせ、親を怒鳴っていた見知らぬ男の息子は俺なんだから。
「ミニア。だいじょ」
「どういうことなの!!」
勇気を振り絞って話しかけたら、怒鳴り声が返ってきた。
ははっ。
俺は相当嫌わ……好かれているらしい。
どういうことと言われても、正直分からない。
が、初めて話しかけられた気がする。
なら、このチャンスは逃してはいけない。
「調べて来るよ。任せて」
と、言ってみた。
少し寒い気がするが気にしてはいけない。
俺は、三人が集まってる部屋に近づく。
耳を当てなくとも話し声は聞こえる。
全く、怒鳴りすぎだよ……父さん。
「……下手したら命に関わることだったんだぞ!!」
「だから悪かったって……」
「悪かったじゃすまないんだよ!!」
相当だな。
相当頭にきてるんだな。父さん。
怒った父さんを初めて見るが、初めてがこのレベルは不味い。
イメージがやばいぞ。俺の脳内では。
「もしかしたら、この家が、ゼオが被害に合う可能性だってあるんだぞ!!」
「本当に悪かったって……」
父さん。
俺は父さんが怒りすぎだとは思えなくなってしまった。
「俺は言ったよな。ゼオの件は俺が、俺達二人がやるから大丈夫だって。なのにこんなことをしてまで……」
「無理だって。二人で、ゼオ君の問題なんて解決出来ない!!」
「出来るさ!」
「無理だって。意地になんなくてもいいじゃん。私が手伝うって言ってんの」
どうやら、別の件が関わっているらしい。
それも俺関連。
俺はモテモテか?
「種族の問題を甘く見ないほうが良いわよ」
「甘く見てない。俺は体験してきたんだから」
「甘く見てる。だから気付いてないんでしょう。二人だけじゃ無理だってことに」
種族の問題。
俺のこと。
…………。
そうか、そうか。
そういうことか。
ははっ。
なるほどね。
「二人で大丈夫だと言っているだろう」
「無理ね」
「それと、だからと言って、この件は許せない」
「うっ」
そこは弱いか。
正直、今回はエリシアさんが悪いのかな。
でも、それは俺への好意から来たものらしいが。
「じゃ、私は……どうすれば良いの?」
「……出てけ」
「!!」
「あなたっ!!」
そこで母さんが出た。
今まで入って来なかった母さん。
何を考えていたのだろうか。
「エリシア!ここから出てけ!」
「あなた!それは言いすぎよ」
「お前は黙っていろ」
もうこれは意地だな。
父さん。
それはさすがに駄目だ。
俺が悲しむ。
「……分かったわ」
「!!」
その言葉に、俺を含め全員が驚いた。
エリシアさん……それは駄目ですよ。
俺が悲しみますよ。
「エリシアさん……それは」
「ロイーズさん。もうこの家には来ません。全て忘れるとしましょう。ゼオ君のことも……。ウィリスのことも……」
「!!いや、俺は……」
そこで父さんが戻った。
いつもの声だ。
落ち着いたんだろう。気付いたんだろう。
謝れ。謝るんだ父さん。
「俺はただ……今日は……今回というあれで、そういうあれではなく……」
「ゆ、許してくれるの?」
むむ?あれ?
エリシアさんまでいつもの声に戻ったぞ。
もしや、許してくれるのを分かって帰るとか言ったのか?
ありえる。ありえるぞ。
昔のとは言っても、仲間だったんだからな。
「ま、まあ良いだろう」
「ほ、ほんとっ?」
「ただし、だ。今日は帰ってくれ。いいな」
「はい。了解です」
もしかしたら、仲間だった時もこんな調子だったんじゃないのか。
エリシアさんの言葉が、ふざけて言ってるようにしか聞こえないんだが。
ま、それにしても、修羅場は去った。
いや、こうなるのをエリシアさんは分かっていたみたいだし、修羅場でもないか。
そんなことより、と言いたくなるくらいのことがその後に起こった。
起こった、のではなく、言われた、のほうが正しいか。
帰り際に、エリシアさんに言われた。
「ゼオ君。魔法は使えるから、ロイーズさんに教えてもらったら」
魔法が……つかえる。
俺はテンションが上がった。
上がったってもんじゃない。
フィーバーさ。
魔法。俺が魔法を。
やっぱ魔法はなくちゃな。
しかし俺は、四歳まで、魔法の訓練を待たされることとなった。