第二話 『嬉しい嬉しい誕生日』
日本で言うと、一年が経った。
その間に、言語も分かったし、この世界についても知れた。
たった一年で言語が分かったのは、やはり英語の勉強法のおかげだろう。
ま、一年間でも英語でもないがな。
ここは、180日で一年らしい。
ようは、ここの世界で二年も過ごしたのだ。
週というものはなく、月は、30日で一月だった。
と、すると一年は6ヶ月だ。
うむ、短い。
ははっ。
平均寿命に期待かな。
ちなみに、一歳の誕生日があった。
やはり、どこの世界でも誕生日会はあるのだな。
まあ、プレゼントはなく、おめでとう、だけだったがな。
それもそれで嬉しい。
さて、明日は二歳の誕生日だ。
ははっ。
楽しみ楽しみ。
体はというと、別に成長が早いわけではなかった。
ならば寿命は二倍か?
言語が分かったと言っても、まだ話すのは難しい。
大体カタコトでしか言えない。
しかし、それはそれで親はにやけていた。
まぁ、こんなものか。
そんなことより、俺はあれが嬉しかった。
魔法だ魔法。
やはりあるんだ。
父親は、使えない様子だったが、母親がどうやら使えるらしい。
遺伝がどーとかと、よく話してる。
俺の前で。
そういえば、両親よ。
仕事はどうしたのだ、仕事は。
何処かに出かける様子はあったが、仕事という感じではなかった。
いや、これがこの世界の仕事の常識なのかもしれないが。
ただ、俺は嫌だぞ。
親がニートなんて。
まぁ、この貧乏さだ。
お金を手に入れる手段がなきゃ生きていけないだろう。
体がもう少し成長すれば、ハイハイくらいは出来るだろう。
ん?何かおかしい。
体の成長が遅くないか?
ま、気のせいか。
ハイハイが出来るようになれば、様々なことを知れるようになるだろう。
仕事のこと。
通貨のこと。
この家のこと。
む?
考えたことが全て金に関係してる。
恐ろしい。
そろそろ寝る時間かな。
睡魔か襲ってきた。
ま、寝るとしよう。
「ゼオ!」
目を開けると、そこには父親がいた。
父親。名前は分からない。
そもそも、名前で呼ぶ人がいないのだ。
ん?
んん?
そういえば、今日は誕生日だ。
ははっ。
よく見れば父親……父さんは何か持っていた。
何か、いや本だ。
一目で分かる。
どの世界も表紙はカラフルだな。
それがプレゼントだろうか。
どうやらそうらしい。
「ゼオ、お前に本を読んでやろう。誕生日だしな」
父さんはにっこりと笑った。
母さんが美人な訳だ。
今まで何人の人を落としたのだろうか。
そんなことはどうでも良いのだが。
父さんはゆっくり、感情を込めて読み始めた。
…………。
…………。
…………。
「こうして、世界は平和になりました」
ははっ。
な、なかなかの物語だったじゃないか。
実に現実的で、そしてグロかった。
「は、ははっ」
俺は必死に笑った。
笑顔になっていないのは自分でも分かる。
ってか、こんな話で笑えるか!
神が世界を作り上げ、人間が生まれた。
そこまでは普通だ。
その次、魔王。
普通の絵本なら、「悪いことをしていました」とかだろう。
しかし違った。
「魔王はある村を襲撃した。
逃げ回る人間の首目掛けて……」
思い出したくない。
だが、世界観は知れた。
神『エリニス』が生み出した世界。
それが俺が転生した世界『エリニオン』だ。
世界に名前が付いてるなんて変だが、分かった。
この世界には、星、とか、重力、とかそういう単語はない。
それが常識なんだろう。
この世界の。
で、その世界に、魔王が現れた。
この世界の中の六百年前。
前世の世界で言うと三百年前か。
神暦五〇年の事だ。
因みに今年は神暦六五〇年だ。
神が世界を生み出してから五十年後、そんな時に魔王が現れた。
ってここ、生まれてから全くと言っていいほど時間経ってないじゃないか。
前世の時の流れだと三二五年しか経ってないぞ。
まぁ、この世界には魔法というチート能力がある。
すぐに世界は発展していったのだろう。
そこに、魔王……敵が現れた。
それまで、魔法を使う『人族』しかいなかったが、そこに別種族が現れた。
魔王が出現させたのだ。
凶暴に目的もなく暴れまわるもの……魔物までもが現れたのだ。
魔物が進化したもの……『魔族』
魔族がさらに進化したもの……『獣族』
獣族が進化し、人族にかなり近づいたもの……『偽人族』
そして、世界全土を支配していたもの……『人族』
さらにそこに、神『エリニス』と魔王の種族『神族』が入る。
実際、魔族も獣族も、魔物が進化した種族だが、悪人というわけではないらしい。
が、人族が大陸への侵入を許さなかったらしい。
ここで戦争が起きた。
人族対魔族、獣族、偽人族だ。
中でも、人族は偽人族を相当嫌ったらしい。
『百年戦争』
あれ?世界史でそんなのを聞いたような。
ま、気にしない気にしない。
人族が魔王を倒し、戦争は終わったらしい。
今は一応共に暮らしているらしい。
魔物は、というとやはり異世界。
街の外にいるらしい。
魔族に手懐けられている魔物もいるらしいが。
ははっ。
今日は色々学んだぞ。
ま、本に書いてあることが全て事実だったら、の話だがな。
色々学んだ誕生日。
それはまだ終わらなかった。
しばらくして、初めての訪問者が来たのだから。