第一話 『赤ん坊って……暇なんだな』
さて、冗談は言っちゃいけない。
俺がそんな非現実的なものを信じるとでも?
どうせ夢だろう。
そう思った。いや、思ってしまったんだ。
夢の中でこれは夢だ、なんて思う奴がいるか?
正直いて欲しいね。
が、いない。これは夢じゃない。
ははっ。
ならこれは幻想、幻覚だ。
何故そんなものを見てるかって?
そりゃぁ……。
あれだ。
中二病で治せる病気だったんだろう。
……さて、冗談は言っちゃいけない。
もういい。
諦めよう。
俺は生まれ変わった。
それも異世界に。
世に言う、いや、この世界では言わないか?
まあ、そうだ、『異世界転生』だ。
俺をじっと見てる若い男女。
彼らが自分の親だろう。
男……父親は、赤い髪に赤い目、そして……とてもイケメンだ。
女……母親は、青い髪に青い目、そして……とても美人だ。
両親が美男美女。
俺はすごいところに生まれたのかもしれない。
が、違う意味もある。
この家は……はっきり言って、貧乏だ。
いや、今まで体験してきたのが裕福すぎたせいなのか?
それでもここは貧乏だと言えるだろう。
この世界がまだ発展途上どころかその段階にもいってないとしたら話は別だがな。
ま、別に貧乏でも良いんだがね。
さて、親が美男美女。
これは俺がきたときじゃないのか?
あの異世界ハーレムが実現ではないのか?
そんな思いはすぐに消された。
鏡だ。
あぁ、何でだよ!
俺がイケメンで良いじゃないか!
貧乏なんだからせめて……。
いやしかし、まだ赤ん坊だ。
期待できる。
ポジティブ思考でいこう。
そして俺は両親の外見をどちらも遺伝したようだった。
いや、紫じゃないぞ。
さすがに変体色は勘弁だ。
いや、紫色の髪の人もいるな。
謝ろう。すいません。
まぁ、違うけどな。
俺は、髪の毛は母親の青、瞳は父親の赤だった。
たぶん、鏡を見せたのは、それを見せたかったんだろう。
それにしても、異世界なら欲しいものがある。
魔法だ。
そう魔法。
魔法が欲しいんだよ、使いたいんだよ。
異世界といったら魔法、これは常識だろう。
さてさて、魔法を使いたいな。
試しにやってみようか。
水とかを頭に思い浮かべれば出るのか?
…………。
止めよう。
正直恥ずかしい。
二、三歳若返ったような……。
精神面のみな。
…………。
ここで問題が発覚した。
暇だ。
暇すぎる。
何をすれば良いんだ?
赤ん坊はこんなに暇なのか?
「――――――」
取り敢えず、親が何を言っているのか聞き取ろう。
暇だしな。
結果を言おう。
無理だ。
あれだ。
早すぎるんだ。話すのが。
勉強しやすく遅くしてくれよ。
英語のリスニングのCDみたいに。
ま、まだ生まれて三日だから別にいいんだと思うけどな。
感覚があってるとしたらな。
最初に目覚めたのが一日目。
鏡を見たのが二日目。
今が三日目。
たぶんあってるはずだ。
食事のほうは……うん。
あれだ。うん。
15歳になって正直恥ずかしい。
でも少し嬉しかったり。
自分で言うのもあれだが今は思春期だぞ。
取り敢えず寝るか。
暇だしな。
言語を知るのは明日にしよう。
そんなことを考えながら、俺は寝た。
さて、ついに一週間だ。
親が何を言っているのか、なんとなく分かってきた。
たぶん、俺の名は「ゼオ」だ。
俺に向って連呼している。
たしか、前世……前の世界の時も、親に俺の成長記録のビデオを見せてもらったことが何度もあったが、こんな感じだった気がする。
「ゼオ」
ははっ。
予想通り異世界っぽい名前だな。
うんうん、良いじゃないか。
何度も名前を呼ばれて心地いい。
赤ちゃんはこんな感覚なのだろうか。
名前を呼ばれて喜ぶわけだ。
ま、人によってはうるさいと言うかもしれないが。
ん~~~~。
それにしても、もっと言語を学びたいな。
その前に、この世界の感覚のほうが先か?
ま、一日24時間は同じらしかったが。
それは良かった。
生活リズムが崩れたら大変だ。
そう生活リズム……。
はて、そんなものあったか?
ま、いっか、同じなんだし。
なら、一年は何日なのだろうか?
それに、月、週はあるのだろうか?
それはその内分かるか。
他には、この家のことも学んだほうがいいな。
たぶん俺は長男だ。
親が若いし、親以外の人を見たことがない。
ま、見た目が変わらない種族で、兄は既に大人になって家を出ているとかなら話は別だけどな。
……前世の常識と違うから、色々と面倒だな。
そうだ。
よく思ったら、ゆったり出来ないかもしれない。
もしかしたら前世と比べると、とても早く寿命が来る、とかあるかもしれない。
嫌だな。そんなの。
さてさて、今日はもう寝るか。
頭を使ったら、なんだか睡魔が襲ってきた。
明日やろうの思考はいけないと言うが、今日だけは許して欲しい。
俺はしっかり有限実行する。
自分に約束しよう。
俺はゆっくりと、夢の中に入っていった。